2019 年 40 巻 2 号 p. 144-152
日本および国際標準で制定されている,医用レーザー機器の安全基準に従い,使用者への指針について解説している.レーザー安全管理者を任命し,レーザー安全管理区域を設定する.インシデントおよびアクシデントからリスク評価を行い,その安全対策を講じる.作業管理および健康管理,副次的な危険性に対する保護も重要である.管理区域に立入る者は保護めがねおよび保護着衣を装着しなければならない.定期的な安全教育,安全トレーニングが欠かせない.レーザー機器の保守管理・点検は計画的に実施しなければならない.
It describes the guidelines for users in accordance with the safety standards for medical laser devices established by Japanese standards and international standards. The responsible person appoints a laser safety officer, and the laser safety officer sets up a laser safety management area. Laser safety officer perform risk assessments from incidents and accidents and take safety measures. Administrative procedures and health management, and protection against secondary risks are also important. Anyone entering the controlled area must wear personal protective glasses and clothing. Regular safety education and safety training are essential. Maintenance management and inspection of laser equipment should be performed systematically.
高出力レーザーポインターの乗物(飛行機,ヘリコプター,新幹線,バスなど)への照射事件が頻発しており,威力業務妨害罪あるいは暴行罪で逮捕されるケースも増えてきている.レーザー医学・医療分野でも,皮膚科・形成外科・美容外科ではレーザー治療による熱傷被害の報告が相次いでおり,訴訟に至るケースも増えている.さらに,WEBによって個人購入した消費者がレーザー機器で自ら皮膚等に照射して熱傷を被り,消費者庁へ届け出るケースも少なくない.レーザーに絡む事件はメディアが採り上げ,一般消費者の耳目を集めるネタになっている.関係省庁においてもレーザーに絡む事件の対応に苦慮しており,法改正や法規制遵守の周知徹底の通知などが次々に告示されている.
レーザー応用製品が拡がりを見せている現状に照らせば,このような事例はレーザー応用製品の普及を阻害することになる.保険収載が多くなってきた医用レーザー機器による治療をもマイナスイメージとなる素因となり,憂慮すべき事態である.したがって,医療関係者には安全・確実なレーザー治療が患者に提供できるよう,努力することが従前に増して求められている.医師,看護師,臨床技師のみならず,一般消費者(患者)をも対象とした「レーザー安全教育」の重要性が増してきている.
日本におけるレーザー製品に関する法規制は,厚生労働省が策定した「レーザー光線による障害防止対策要綱」1)が主である.経済産業省が主管する「消費生活用製品安全法(消安法)」2)の特別特定製品には「携帯用レーザー応用製品」が挙げられており,PSCマークの表示が義務付けられている3).「携帯用レーザー応用製品」の具体的な製品の一つは,レーザーポインターである.「製造物責任法(PL法)」4)および「電気用品安全法(電安法)」5)にも,レーザーの製造・輸入事業者,販売事業者を対象とした記述がある.労働安全衛生法6),労働安全衛生規則7)には,「レーザー光線等の有害光線」との記載がある.その保護衣,保護眼鏡の装備とその数が明記されており,従前の努力規定から義務規定に改定されている.医用レーザー機器については「薬事法」8,9)が主となる法規制であることは周知のことである.「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則」10)第114条の55第一項の規定により厚生労働大臣が指定する設置管理医療機器には245の機器が挙げられており,この内「レーザー」の名前がついている機器は31である.「設置管理医療機器」とは,設置に当たって組立てが必要な特定保守管理医療機器であって,保健衛生上の危害の発生を防止するために当該組立てに係る管理が必要なものである.
本論文では上述の中で,医用レーザー機器を保有・設置している機関・組織・部署で,管理者および使用者が留意すべき点を以下の項目にまとめた.「レーザー光線による障害防止対策要綱」,関連するJIS規格およびIEC規格の中で,ユーザーズガイドに相当する部分を抜き出して,要点をまとめた.NPO法人日本レーザー医学会では,“LASER”の日本語表記は「レーザー」となっているが,JIS規格や一部の法令等では「レーザ」と表記されており,本論文では各々の表記に従って記述することとし,混在することを御了承願いたい.
レーザー製品のクラス分けはJIS C 6802:2014「レーザ製品の安全基準」に記載している方法によって,製造・輸入事業者が被ばく放出量(パワーあるいはエネルギー)を測定し,被ばく放出限界(Accessible emission limit: AEL 対応するクラスで許容される最大の被ばく放出量)によってクラスを決定する.第三者機関が測定し,クラス分けを行うこともある.放出持続時間を100秒として,レーザーパワーを計算して得られた結果をFig.1に示した.図中にはクラス1C,1M,2Mが記載されていない.クラス1Cは出力されるレーザー放射はクラス3R,3Bまたは4であるが,接触使用という条件下ではクラス1に分類されるため,この図ではクラス1に相当する.Mという記号は望遠鏡,双眼鏡のような望遠光学系を用いて観察する場合を示しており,潜在的に危険であることを意味している.ここでは,それぞれクラス1,クラス2に分類される.たとえば,PSCマークのあるレーザーポインターの放射パワーは1 mW(10−3 W)以下であるので,クラス2となる.医用レーザー機器はそのほとんどがクラス4あるいはクラス3Bである.
Classifications by JIS C 6802:2014 (Calculated laser power under the case of 100 seconds emission duration)
JIS C 6802:2014の表F.2「製造業者の要求事項(要約)」に記載している危険度の説明を抜粋して,Table 1にまとめた.クラス1は暗い環境下で可視域のレーザー光が目に直接入ると,一時的に目が眩むなどの影響の出る場合がある.クラス1Cは記載されていないが,患部に接触させて用いる場合のみにレーザー放射される機構を有するレーザー製品はクラス1と同等である.クラス1Mは光学器具を使用しなければ,クラス1と同等に安全である.しかし,ルーペなどの光学器具の使用中にレーザー光が目に入ると危険な場合がある.クラス2はクラス1を上回る可視域(光波長400 nm~700 nm)のレーザー光で,目に入ってもまばたき(0.25秒としている)などの自然な生理的嫌悪反応によって,目を背ける(回避する)ので安全である.ただし,残像による一時的な視力障害や,驚きによる体の反応のリスクに注意が必要である.クラス2Mは光学器具を使用しなければ,クラス2と同等である.クラス3Rは意図的にレーザー光を見続けると危険であるが,その障害はクラス3Bに比べて比較的少ない.クラス3Bは偶然による短時間の照射であっても,レーザー光が目に直接入ることは危険である.ただし,条件によっては軽度の皮膚障害や可燃物が発火する可能性がある.クラス4は短時間であっても,また散乱光であっても非常に危険である.目だけでなく,皮膚障害や火災発生の危険性もある.レーザーパワーの上限は設定されておらず,無制限である.
クラス1 | 合理的に予見可能な条件下で安全である. |
クラス1M | 使用者が光学機器を用いた場合に危険になることがあるという点を除いて,クラス1に同じ. |
クラス2 | 低パワー.通常,まばたきなどの嫌悪反応によって目は保護され,安全である. |
クラス2M | 使用者が光学機器を用いた場合に危険になることがあるという点を除いて,クラス2に同じ. |
クラス3R | 直接ビーム内観察は危険になることがある. |
クラス3B | 直接ビーム内観察は通常において危険である. |
クラス4 | 高パワー.拡散反射も危険になることがある. |
レーザー光線による障害の防止対策については,標記の要綱が策定され,昭和61年1月27日付けで通知された.この要綱はJIS C6802:2005を元にしており,レーザー機器のクラス分けは5クラス(1,2,3A,3B及び4)であった.その後,JIS C6802:2011では7クラス(1,1M,2,2M,3R,3B及び4)に変更される改正があったため,JIS規格との整合を図るため,要綱の一部が改正され,平成17年3月25日付けで通知された.JIS C 6802:2014ではクラス1Cが加わり,8クラスに変更される改正があったが,要求される安全取扱いの具体的内容はほとんど変更されていないので,これに伴う要綱の改正は行われていない.クラス1Cレーザー製品は脱毛または皮膚などの治療に使用するエステ機器または医療機器で,皮膚に接触させて用いることで機能を発揮させる製品である.皮膚に接触(または近接)させない限りレーザー光(出力レベルはクラス1を超える)を出力せず,出力光は皮膚に接触させることで外部にはほとんど漏らさないという構造である.接触使用という条件下でクラス1に分類されることを意味している.
本要綱の目的は,「レーザー機器を取り扱う業務又はレーザー光線にさらされるおそれのある業務(レーザー業務という)に常時従事する労働者の障害を防止する」ことである.本要綱の3.適用範囲には,「この要綱は,クラス1M,クラス2M,クラス3R,クラス3B及びクラス4のレーザー機器を用いて行うレーザー業務について適用する.」とあり,クラス1,クラス1C,クラス2は除外されている.また,「ただし,当分の間,医療用及び教育研究機関における教育研究用のレーザー機器を用いて行うレーザー業務については適用しない.」とある.改正されてから14年経過していること,今般のレーザー医療事故などの医用レーザーを取り巻く環境を勘案すれば,レーザー機器を臨床現場で用いる場合は,本要綱の適用が望ましい.本要綱に記載されている,「レーザー機器のクラス別措置基準一覧表」をTable 2に示した.同表の下部の欄外に記載の※2に該当するレーザー機器は,測量用,アライメント用及び水準用に用いる機器である.次に,医療関係者にとって重要と思われる事項を抜粋し,説明する.項目表記は本要綱に従って記載する.
措置内容(項目のみ) | レーザー機器のクラス | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
4 | 3B | 3R | 2M, 1M | |||
レーザー機器管理者の選任 | 〇 | 〇 | 〇※1 | |||
管理区域(標識,立入禁止) | 〇 | 〇 | ||||
レーザー機器 | レーザー光路 | 光路の位置 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
光路の適切な設計・遮へい | 〇 | 〇 | 〇※1 | |||
適切な終端 | 〇 | 〇 | 〇※1 | 〇※2 | ||
キーコントロール | 〇 | 〇 | ||||
緊急停止スイッチ等 | 緊急停止スイッチ | 〇 | 〇 | |||
警報装置 | 〇 | 〇 | 〇※1 | |||
シャッター | 〇 | 〇 | ||||
インターロックシステム等 | 〇 | 〇 | ||||
放射口の表示 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
作業管理・健康管理等 | 操作位置 | 〇 | ||||
光学系調整時の措置 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
保護具 | 保護眼鏡 | 〇 | 〇 | 〇※1 | ||
皮膚の露出の少ない作業衣 | 〇 | 〇 | ||||
難燃性素材の使用 | 〇 | |||||
点検・整備 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
安全衛生教育 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
健康管理 | 前眼部(角膜・水晶体)検査 | 〇 | 〇 | 〇※1 | ||
眼底検査 | 〇 | |||||
その他 | 掲示 | レーザー機器管理者 | 〇 | 〇 | 〇※1 | |
危険性・有害性,取扱注意事項 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
レーザー機器の設置の表示 | 〇 | 〇 | ||||
レーザー機器の高電圧部分の表示 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
危険物の持ち込み禁止 | 〇 | 〇 | ||||
有害ガス,粉じん等への措置 | 〇 | 〇 | ||||
レーザー光線による障害の疑いのある者に対する医師の診察,処置 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
〇印は,措置が必要なことを示す.
※1 400 nm~700 nmの波長域外のレーザー光線を放出するレーザー機器について措置が必要である.
※2 JIS規格10.6に掲げるレーザー機器にあっては,レーザー光路の末端について措置が必要である.
レーザー機器管理者は,要綱4(1)に「レーザー機器の取扱い及びレーザー光線による障害の防止について十分な知識と経験を有する者のうちから選任する.」と記載されている.日本レーザー医学会のレーザー専門医などの個人資格者が,レーザー機器管理者として適任であると思われる.レーザー機器管理者は次に掲げる事項を行うことが求められている.
イ.レーザー光線による障害防止対策に関する計画の作成及び実施
ロ.レーザー管理区域(レーザー機器から発生するレーザー光線にさらされるおそれのある区域をいう.)の設定及び管理
ハ.レーザー機器を作動させるためのキー等の管理
ニ.レーザー機器の点検,整備及びそれらの記録の保存
ホ.保護具の点検,整備及びその使用状況の監視
ヘ.労働衛生教育の実施及びその記録の保存
ト.その他レーザー光線による障害を防止するために必要な事項
レーザー管理区域に,「関係者以外の者が立ち入る必要が生じた場合は,レーザー機器管理者の指揮のもとに行動させること」が明記されている.Table 2の「その他」に表記されているが,レーザー管理区域には,「爆発性の物,引火性の物等を持ち込まないこと」になっている.「有害ガス,粉じん等が発生する場合には,これらによる健康障害を防止するため,密閉設備,局所排気装置等の設置,防毒マスク,防じんマスクの使用」が要求されている.
3.2 点検・整備イ.作業開始前に,レーザー機器管理者にレーザー光路,インターロック機能等及び保護具の点検を行わせること.
ロ.一定期間以内ごとに,レーザー機器について専門的知識を有する者に次の項目を中心にレーザー機器を点検させ,必要な整備を行わせること.
① レーザー光線の出力,モード,ビーム径,広がり角,発振波長等の異常の有無
② 入力電力,励起電圧・電流,絶縁,接地等の異常の有無
③ 安全装置,自動表示灯,シャッター,インターロック機能等の作動状態の異常の有無
④ パワーメーター,パワーモニター等の異常の有無
⑤ ファン,シャッターその他の可動部分の異常の有無
⑥ 冷却装置,ガス供給装置,有害ガス除去装置,粉じん除去装置等の異常の有無
上項の①および②は,一定期間よりも,レーザー機器を使用する度に確認しておくことが望ましい.また,パワーメーターやパワーモニターは定期的な較正および交換を勧める.
3.3 安全衛生教育レーザー業務に従事する労働者を雇い入れ,若しくは労働者の作業内容を変更して当該業務につかせ,又は使用するレーザー機器を変更したときは,労働安全衛生法第59条第1項又は第2項に基づく教育を行うこと.この場合,特に次の事項が含まれるよう留意すること.
① レーザー光線の性質,危険性及び有害性
② レーザー機器の原理及び構造
③ レーザー機器の取扱い方法
④ 安全装置及び保護具の性能並びにこれらの取扱い方法
⑤ 緊急時の措置及び退避
これらの内容については,日本レーザー医学会の安全教育講習会およびそのテキスト12)を参照して頂きたい.
3.4 健康管理レーザー光が目に入って傷害を被った場合,その応急処置はほとんどない,といってもよい.光波長400 nmから1,400 nm(可視域と近赤外域)のレーザー光は眼底まで到達し,網膜に傷害を与える.180 nm~400 nm(紫外域)および1,400 nmを越える光波長のレーザー光は前眼部に吸収され,傷害を与える.レーザー業務従事者の医学的監視の有用性については,専門医師によってもまだ解決されていない根本的な検討課題となっているが,「雇い入れ又は配置替えの際に視力検査に併せて前眼部(角膜,水晶体)検査及び眼底検査を行うこと」が求められている.
JIS C 6802:2005(IEC 60825-1:1997)の3章に,標記の内容が規定されていたが,IEC 60825-1:2007では全て削除された.この部分は,将来的にはIEC 60825-14 TR Ed.1:2004の改正版として発行する予定であるが,現時点では改正作業が済んでおらず,IEC規格には標記に関する記述が抜け落ちた状態にある.そこで,JIS C 6802:2011では利用者の便宜を図るため,附属書JAとして記載している.JIS C 6802:2014ではクラス1Cの項目などを追記している.9ページに亘る分量であるが,この中で使用者にとって重要と思われる部分を次に抜粋して説明する.前項の「レーザー光線による障害防止対策要綱」の内容と重複する部分は省略する.
附属書の指針としての性格上,レーザー製品の使用者がとる安全上の予防策及び管理基準に関して,“することが望ましい”という表現を用いて推奨している.その実施に当たって,“することが望ましい”か,又は“しなければならない”かを決めるのは,使用者の判断に任されている,ことが冒頭に記述されている.
4.1 一般事項この附属書は,レーザー製品のクラス分けに従って,使用者が行わなければない安全上の予防策及び管理基準について規定している.使用者はレーザー装置のクラス分けのための全ての測定を行う必要はない.400 nm~700 nmの波長範囲以外のクラス3Rレーザー製品,又はクラス3Bもしくはクラス4レーザー製品に対しては,レーザー安全管理者(Table 2のレーザー機器管理者に相当)を任命することが望ましい.クラス1M及び2Mレーザー製品に対してもレーザー安全管理者の任命を推奨している.安全予防策及び管理基準の目的は,レーザー放射の危険レベルの露光,及び他の付随する危険の可能性を軽減することである.したがって,示された管理基準の全部を履行する必要はない.すなわち,一つ以上の管理基準の適用によって,危険の可能性を軽減できる場合には,更なる管理基準を適用する必要はない.
4.2 鏡面反射クラス3R,クラス3B又はクラス4レーザー製品からのレーザー放射は,予期しない鏡面(平面ミラー状の表面)反射が生じないように十分注意を払うことが望ましい.クラス1M及び2Mレーザー製品からのレーザー放射は,レーザー光を収束するおそれのある表面(凹面ミラー状の表面)で予期しない鏡面反射が生じないように十分注意を払うことが望ましい.拡散するように見える反射表面でも,特に赤外域のレーザー光の相当な部分を鏡面のように反射することがある.これは完全な拡散反射の場合に予期するよりも長い距離にわたって危険になり得る.
4.3 保護具保護めがねは着用が容易で,できるだけ広い視野をもち,曇りが発生しないように十分な換気性を保ちながら装着部にぴたりとなじむもので,かつ,十分な可視光透過性を備えたものが望ましい.フレーム及びその他の付帯部品は,レンズの能力と同等の保護特性をもつことが望ましい.クラス4レーザー光に対する保護めがねを選択する場合,レーザー放射に対する耐久性及び安定性に特別の注意を払うようにしなければならない.管理区域に立ち入る全ての者(医師,看護師のみならず患者も含む)は保護めがねを着用しなければならない.
レーザー光に皮膚をさらすおそれがある場合には,適切な保護着衣を用意することが望ましい.特にクラス4レーザーは,潜在的に火災の危険性をもっており,着用する保護着衣は難燃性耐熱材料で作ることが望ましい.レーザー放射に対する耐久性及び安定性に特別の注意を払うようにしなければならない.
4.4 訓練レーザーシステムの運転は使用者だけでなく,かなり離れた距離にいる他の人々に対しても危険をもたらす.この潜在的な危険性のため,このようなシステムの管理は,適切なレベルの訓練を受けた者だけが行うことが望ましい.訓練には少なくとも通義の事項を含んでいることが望ましいが,これらに限定しない.
a)システム運転手順の習熟
b)危険防御手順,警告標識などの正しい使用
c)人体保護の必要性
d)事故報告手順
e)目及び皮膚に対するレーザーの生体効果
4.5 レーザー運転に付随する危険性用いるレーザーの種類によっては,次に示すようなレーザー運転に付随する危険性を含む.
a)副次放射による危険性……フラッシュランプ及びCWレーザー放電管で,特に紫外線を透過するチューブ又はミラー(たとえば,石英)を用いている場合は,付帯して発生する紫外線放射による危険性が生じる.フラッシュチューブ及び励起源から放出する可視及び近赤外放射,並びにターゲットからの再放射は,潜在的危険性を引き起こすのに十分な放射輝度をもつことがある.
b)電気的危険性……多くのレーザー製品は1kVを超える高電圧を用いており,かつ,パルスレーザーはコンデンサバンクに蓄えたエネルギーによって,特に危険である.
c)冷却器の冷媒……一部のレーザー製品に用いられている冷却液はやけどを生じる可能性があり,取り扱い上特別の注意が必要である.
d)煙霧……レーザー治療で発生するプルーム,煙霧及び飛散物には有毒ガスや生きた病原菌が含まれていることがあり,その排気を含めて取り扱い上特別の注意が必要である.
4.6 危険管理の手順レーザーを用いる上で,起こり得る危険性の評価及び管理基準を適用する場合,次の3点を考慮する必要がある.
a)レーザー又はレーザーシステムが人体に傷害を与える能力.
b)レーザーを用いる環境
c)レーザーを運転する者又はその放射を被ばくする可能性のある者に対する訓練レベル
レーザー放射に伴う危険性の評価及び管理の実行手段は,レーザーシステムをそれらの相対的危険性の度合いによってクラス分けし,そして各々のクラスに対して適切な管理を規定することである.附属書には各クラスに対する危険性の評価と管理の実行手段が記載されている.その中で,レーザー治療現場で有効な管理の実行手段を次にまとめる.
① クラス3B及びクラス4レーザーを用いる場合には,十分訓練し,かつ,レーザー安全管理者が認可した者だけで運転することが望ましい.
② レーザー運転中,レーザー製品の周辺への立入りは,適切なレーザー保護めがね及び保護着衣を着けた者に限定することが望ましい.
③ レーザー保護めがねを装着する場所では,良好な室内照明が大切である.明るい色彩をもつ拡散性の壁面はこの条件を満たすのに有益である.
④ レーザーの光路は,実行できる場合は,目のレベルよりも十分上方又は下方に位置するようにすることが望ましい.
⑤ 人が直接レーザー光をのぞき込まないように確実な予防策を講じることが望ましい.
⑥ レーザー光を偶然にミラー状の表面に向けないように確実な予防策を講じることが望ましい.
⑦ レーザー製品を用いないときには,許可されていない者が出入りできない場所に保管することが望ましい.
IECおよびIECに準拠したJIS,ISOの中で医用レーザー機器に関する安全基準一覧をTable 3にまとめた.参考までに,医用レーザー機器の安全基準の概要については文献(13)を挙げておいた.表中の①のIEC規格に対応するJIS規格が②である.同様に,③は④に,⑬は⑭に,㉑は㉒に対応している.「レーザ製品の安全基準」の最新版は③と④である.未発行の規格は現在,改正作業が進行中であることを示している.ユーザーズガイドに相当する規格は⑤,⑥,⑦及び⑮である.将来的,戦略的には⑥のレーザーと,⑮の高輝度ランプに関するガイドラインを併合させたガイドラインの標準化作業がIEC/TC76/WG4委員会で進められている.①および②が2014年に発行され,クラス1Cが新たに加わったため,2006年版の⑤を改正することになった.ここでは,⑤のIEC 60825-8及び現在,改正作業が進められている⑥に記載されている中から,前項を考慮しながら,重要な点をまとめる.Table 4に同規格の目次を示した.
No | 規格番号 | 版 | 発行年 | 名称 |
---|---|---|---|---|
IEC 60825 | シリーズ | Safety of laser products | ||
① | IEC 60825-1 | 2014 | Equipment classification and requirements | |
② | JIS C 6802 | 2014 | レーザ製品の安全基準 | |
③ | IEC 60825-1 | ISH 2 | 2017 | Equipment classification and requirements |
④ | JIS C 6802 | 追補1 | 2018 | レーザ製品の安全基準(追補1) |
⑤ | IEC 60825-8 | TR Ed.2 | 2006 | Guidelines for safe use of laser beams on humans |
⑥ | IEC 60825-8 | TR Ed.3 CD | 未発行 | Guidelines for safe use of laser beams on humans |
⑦ | IEC 60825-14 | TR Ed.1 | 2004 | A user’s guide |
IEC 60601 | シリーズ | Medical electrical equipment | ||
⑧ | IEC 60601-2-22 | Ed.3.1 | 2012 | Paricular requirements for the basic safety and essential performance of surgical, cosmetic, therapeutic and diagnostic laser equipment |
⑨ | IEC 60601-2-22 | Ed.4 CDV | 未発行 | Paricular requirements for the basic safety and essential performance of surgical, cosmetic, therapeutic and diagnostic laser equipment |
⑩ | IEC 60601-2-57 | Ed.1 | 2011 | Paricular requirements for the basic safety and essential performance of non-laser light source equipment intended for therapeutic, diagnostic, monitoring and cosmetic/aesthetic use |
⑪ | IEC 60601-2-75 | 2017 | Particular requirements for the basic safety and essential performance of photodynamic therapy and photodynamic diagnosis equipment | |
⑫ | IEC 60601-2-83 | Ed.1 CDV | 未発行 | Paricular requirements for the basic safety and essential performance of home light therapy equipment |
⑬ | IEC 62471 | 2006 | Photobiological safety of lamps and lamp systems | |
⑭ | JIS C 7550 | 2014 | ランプ及びランプシステムの光生物学的安全性 | |
⑮ | IEC 62471-3 | TR Ed.1 | 2015 | Safety of intense pulsed light source equipment—Guidelines for the safe use of intense pulsed light source equipment on humans |
IEC 60335 | シリーズ | Household and similar electrical appliances | ||
⑯ | IEC 60335-2-113 | Ed.1 | 2016 | —Safety—Part 2-113: Particular requirements for cosmetic and beauty care appliances incorporating lasers and intense light sources |
⑰ | ISO 22463 | TR Ed.1 2DTR | 未発行 | Patient and client eye protectors for use during laser or intense light source (ILS) procedures—Guidance |
⑱ | ISO/IEC 19818 | Ed.1 NP | 未発行 | Eye and face protection—Protection against laser radiation—Requirements and test methods |
⑲ | ISO 11990 | Ed.3 | 2018 | Lasers and laser-related equipment—Determination of laser resistance of tracheal tube shaft and tracheal tube cuffs |
⑳ | ISO 11810 | Ed.2 | 2015 | Lasers and laser-related equipment—Test method and classification for the laser resistance of surgical drapes and/or patient protective covers—Primary ignition, penetration, flame spread and secondary ignition |
㉑ | ISO 15004-2 | 2007 | Ophthalmic instruments—Fundamental requirements and test methods—Part 2: Light hazard protection | |
㉒ | JIS T 15004-2 | 2013 | 眼光学機器−基本的要求事項及びその試験方法−第 2 部:光ハザードからの保護 | |
㉓ | ISO 22248 | AWI | 未発行 | Laser and laser-related equipment—Test methods for laser -induced damage threshold—Classification of medical laser delivery and application systems |
1 | Scope and object | |
2 | Normative references | |
3 | Terms and definitions | |
4 | Hazards and preventive measures | |
4.1 | Risks to eyes | |
4.2 | Risks to skin | |
4.3 | Risk of internal combustion | |
4.4 | Risks due to inhalation of noxious fumes and plumes | |
5 | Administrative procedures | |
5.1 | LASER SAFETY OFFICER (LSO) | |
5.2 | INCIDENTS and ACCIDENTS | |
5.3 | Maintenance and inspection | |
6 | Laser safety training recommendations | |
7 | Laser environment | |
7.1 | The LASER CONTROLLED AREA | |
7.2 | Access controls | |
7.3 | Fire protection policy | |
8 | Bibliography | |
Annex | A | Biological effects, hazards, laser equipment technology |
B | Window shielding | |
C | Checklist for laser installation | |
D | Laser safety training | |
E | Inspection schedule | |
F | Safety issues in laser applications |
表中の4.1 Risks to eyesの中では,クラス1Cレーザー製品の場合,患者の目(瞼)の周辺に照射することは避けなければならない,ことが強調されている.内視鏡,顕微鏡や単眼鏡などを用いる場合は減光フィルターやシャッター機能を搭載するなどの対策が必要である.光波長が2,500 nm以下のレーザー製品を使用する部屋に窓がある場合は,その外側に人が居ることを想定した対策が必要である.すなわち,減光するためのシールドを窓に貼付するなどの対処を行う.光波長が2,500 nm以上のレーザーの場合(たとえば波長10.6 μmのCO2レーザー),窓の素材がガラスやプラスティックであれば,良く吸収されるので減光シールドなどの保護策は必要ではない.4.2 Risks to skinの中では,ドレープやカバーのレーザーによる発火,燃焼に対する防護対策の必要性が強調されている.気道を含めた体内での発火,内視鏡自体の燃焼についても記述されている.レーザー手術中の煙霧やプルーム,飛散物についてはそれらの排気を含めて詳述されている.
5.2 Administrative procedures(Table 4の5章)表中の5.1 Laser safety officer(LSO)では,クラス1C,クラス3B及びクラス4レーザー製品を使用する場合は,LSOを任命しなければならない,としている.Table 2の説明では,クラス1Cはクラス1に相当するので,レーザー機器管理者の選任は不要である,としていたが,今後はクラス1Cでも選任する必要があることを強調しておきたい.LSOの義務と責務についても詳述されている.5.2 Incidents and Accidentsでは,事故が発生した場合の報告書に記述すべき項目が挙げられている.5.3 Maintenance and inspectionでは,定期的な保守点検が重要であり,その内容と計画が記述されている.
5.3 Laser safety training recommendations(Table 4の6章)レーザー管理区域内で作業する人は,レーザー安全トレーニングをする必要がある.トレーニングは定期的に,または環境が変われば,行う.レーザー安全トレーニングのシラバスをTable 5に示した.表中のPPEはPersonal Protective Equipment(個人用防護具)のことである.レーザー製品の特性,レーザーと生体との相互作用,レーザーが目や皮膚に与える影響,レーザー製品の取扱い,危険性の評価と安全対策,副次的な危険性などが含まれている.
Training item | LSO | User | Other staff |
---|---|---|---|
Characteristic features of laser radiation emitted from various types of laser | × | × | × |
Generation of laser radiation and hazards | × | × | × |
Principles of quality assurance | × | ||
Equipment management | × | × | |
Laser-tissue interactions | × | × | × |
Effects of exposure of eye and skin to laser radiation | × | × | × |
Laser safety management, role of the LSO and investigation of suspected cases of accidental exposure | × | × | |
LASER CONTROLLED AREAS–boundaries–warning signs–access control | × | × | × |
Selection and approval of PPE | × | ||
Handling of Personal protective equipment | × | × | × |
Cleaning and disinfection of PPE | × | × | |
Hazards from reflection or absorption of the laser beam with respect to instruments and other substances, and hazards associated with anaesthetic mixtures | × | × | |
Developing the local hazard assessment | × | × | |
Hazards to the patient associated with laser treatment procedures, and methods of minimising risks | × | × | |
Incidental hazards, such as electrical hazards, fire and explosion risks, cryogenic liquids, atmospheric contamination, smoke and tissue debris | × | × | × |
Relevant IEC standards and guidelines (plus national regulations, as appropriate) | × | × | × |
Meaning of symbols used on the equipment, as described by the manufacturer of the laser equipment in the accompanying documents | × | × | × |
General understanding of facility-based policies, procedures and documentation | × | × | × |
Response and procedures following INCIDENTS or ACCIDENTS | × | × | × |
表中の7.1 The LASER CONTOROLLED AREAでは,管理区域の広さはNOHA(Nominal Ocular Hazard Area:公称眼障害区域)と同じか,あるいはそれ以上の広さとすることが望ましい,とされている.NOHAとはレーザー光の放射照度または放射露光が目に対する最大許容露光量(MPE)を超えている範囲内の区域,を指している.7.2 Access controlsでは警告標識や運転中を示す警告灯,ドアのスイッチやインターロックについて述べている.7.3 Fire protection policyでは,ドレープの火災や消火器についても言及している.
その他,本規格の附属書(Table 4のAnnex)は充実している.先述のTable 5はAnnex Dに掲載されている.
International Laser Safety Conference(ILSC 2019:国際レーザー安全会議)が2019年3月18日~21日,米国フロリダ・キシミーで開催された.本会議はLaser Institute of America(LIA:アメリカレーザー学会)が主催し,隔年で,米国内で行われている.発表件数は97件であり,参加者数は約250名であった.欧米諸国の多くの機関・組織・部門で,LSO(レーザー安全管理者)が主導してレーザー安全に取り組んでおられることが分かった.英国の大学で政府機関によるレーザー安全に特化した立入調査があった,との発表もあった.制服姿の軍部関係者による発表もあり,多くの分野でレーザー安全が注目されている.Medical Practical Applications Seminarでは15件の発表があり,レーザー手術中の発火・火災,気道での発火,煙霧やプルーム・飛散物とその排気について,警鐘をならしている発表者が多かった.アメリカレーザー学会事務局の方に,LSOの詳細を尋ねた.一日8時間で5日間のトレーニングを受講してもらい,100問の試験に合格すれば,LSOの資格が得られるとのことであった.しかも毎年,LSOのワークショップやレーザー安全に関する会議に参加することが義務付けられている.日本においても関係省庁およびレーザーに関わる学会が連携して,レーザー安全管理者を育成し,一般消費者を含めて,使用者のレーザー安全教育およびレーザー安全トレーニングを実践するプログラムをさらに推進していく重要性を痛感した.読者諸兄におかれては,レーザー安全にさらなる興味・関心をもって頂き,御協力・御支援をお願いする次第である.