低出力レーザー治療(low level laser therapy: LLLT)は,筋肉や関節の慢性非感染性炎症に起因する痛みを緩和するために用いられている.LLLTの課題のひとつに,作用機序の一貫した理解がまだ得られていないことが挙げられる.脊髄後角は,感覚信号(痛み,触覚など)が密に伝達される重要な部位であり,LLLTの鎮痛メカニズムを理解する上で重要な研究領域の一つである.しかし,LLLTの鎮痛作用を定量的・客観的に評価可能な実験系が十分に確立されているとは言い難い.本研究では,動物を用いた電気生理学的解析の確立を行った.その結果,坐骨神経へのレーザー照射15分後においてvon Frey filaments(vFF,特に26.0 g)誘発の脊髄後角表層ニューロンの発火頻度は選択的に抑制された.しかし,深部脊髄後角ニューロンのvFF誘発発火頻度は,いずれのvFFにおいてもレーザー照射後に変化しなかった.偽照射では発火頻度に変化は見られなかった.この結果は,レーザー照射が痛みによって誘発されるニューロンの発火を選択的に抑制することを示唆している.このことは,痛みを伝達するAδ線維とC線維のどちらか一方,あるいは両方における神経活動の抑制を示唆している.結論として,レーザー照射が坐骨神経に及ぼす影響と,その結果生じる脊髄後角ニューロンの機械的皮膚刺激により誘発される発火頻度について,in vivo細胞外記録を用いた電気生理学的解析を確立することができた.
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