2020 Volume 41 Issue 2 Pages 123-128
1900年代後半より半導体レーザーの疼痛緩和作用をスポーツ傷害に対する治療に応用してきた.スポーツ障害に対する低反応レベルレーザー治療(Low-reactive Level Laser Therapy: LLLT)は照射法の工夫をすることで治療効果が認められ,今なお解決されない半月板治療に対しても独創的な治療方法の可能性が認められた.本稿ではこれまで我々が行ってきたレーザーを用いたスポーツ医学に関する取り組みと現在応用が広がっているスポーツ障害の予防や競技能力向上への取り組みについて述べる.
Since the late 1900s, the pain-relieving effect of semiconductor lasers has been applied to the treatment of sports injuries. The treatment effect of Low reactive level laser therapy for sports disorders has been confirmed through the development of the irradiation method. This continuing development may help answer questions that still remain in the field of meniscal treatment, and may lead to new and unique treatment methods in the future. In this paper, we describe our approach to laser therapy in the prevention of sports disorders and the improvement of athletic ability, much of which is now widely applied in the field of sports medicine.
我々は,1980年代後半より半導体レーザーに対する疼痛緩和治療を行ってきた.その効果を確認し,1990年からはスポーツ選手に対しても低反応レベルレーザー治療(Low-reactive Level Laser Therapy: LLLT)を応用し,1996年アトランタでのオリンピックには選手村で選手のケアに対し利用した実績がある.
低反応レベルレーザーの疼痛緩和作用機序としては,知覚神経抑制1-3),交感神経抑制4),血管拡張4),抗炎症作用5,6),生体活性物質産生の促進,損傷神経組織の修復促進,免疫機能の増強などが確認されており,低侵襲であること,治療に特殊な技術が必要でないこと,薬物を使わないことでドーピング違反の心配がないことがスポーツ選手にとっては特に有用と考えられた.その後はスポーツによる傷害を治療する目的でレーザーの研究を行ってきた.
本稿ではスポーツによる障害に対する低反応レベルレーザーの効果およびこれまで当科で行ってきたレーザーを用いた研究,スポーツ現場での レーザーの位置づけ,今後の光治療の展開について述べる.
スポーツ障害に対するLLLTの効果を検討するために,394例のスポーツ傷害に対し1,000 mWの半導体レーザーを用いた研究を行った.対象は男性203例,女性191例,13歳から54歳(平均22.9歳).レーザーを照射は波長830 nm,出力1,000 mW,パワー密度0.67 W/cm2の半導体レーザー(松下産業機器社製,MEDILASER SOFT 1000)を連続波で圧痛点に照射した.対象疾患はTable 1のごとくである.評価にはPain Release Score(PRS)(Table 2)を用い5点以下を有効とした.
▪ sabacromial impingement syndrome |
▪ tendonitis of the long head of biceps brach |
▪ lateral epicondylitis |
▪ medial epicondylitis |
▪ de Quervain disease |
▪ low back pain |
▪ patellar tendinopathy |
▪ Pes anserinus tendinobursitis syndrome |
▪ iliotibial band friction syndrome |
▪ medial tibial stress syndrome |
▪ Achilles peri tendinitis |
▪ ankle sprain |
▪ plantar fasciitis etc |
Improvement of pain score | evaluation | Determination |
---|---|---|
10→0~1 | excellent | effective |
10→2~5 | very good | |
10→6~8 | good | not effective |
10→9~10 | poor | |
10→11~ | worse |
結果はTable 3のごとくであるが有効率が高かった疾患の特徴は,滑液包炎や腱鞘炎を伴った疼痛であること,障害部位が比較的浅層にある場合であった.一方,有効率が低かった疾患は複合的な原因により生ずる痛みであったり,障害部位が比較的深層にあったり,器質的変化の強い場合であった.
Deses | Rate of effectiveness |
---|---|
medial epicondylitis | 67% |
Pes anserinus tendinobursitis syndrome | 57% |
plantar fasciitis | 45% |
Achilles peri tendinitis | 39% |
de Quervain disease | 39% |
patellar tendinopathy | 36% |
medial tibial stress syndrome | 36% |
lateral epicondylitis | 31% |
sabacromial impingement syndrome | 22% |
low back pain | 8% |
上記研究での有効率が低い疾患に対しレーザーの経穴照射を行った.レーザーの経穴照射による効果は,針鎮痛機構の活性化,生体活性物質(内因性モルフィン様物質)産生促進,発痛物質の産生抑制,痛覚閾値の上昇,下行性抑制系の活性化,交感神経系の緊張緩和9),血管の拡張9)による血流改善が知られており,より深部で複雑な痛みの緩和に効果が期待された.
対象疾患は腰椎椎間板ヘルニアである.脊柱管の中で変性した椎間板がヘルニア状に突出したものが下肢に行く神経根を圧迫し下肢痛が出現する.対象は22例(男性12例,女性10例),平均年齢は29.3歳(17歳~51歳).使用したレーザーは波長830 nm,出力1,000 mW,パワー密度0.67 W/cm2,連続波の半導体レーザー(松下産業機器社製,MEDILASER SOFT 1000)である.腰部と下肢にある経穴14か所(Fig.1)に1ポイント30秒でレーザーを照射した.評価はPRSおよび仰臥位の状態で膝関節伸展位のまま股関節を屈させていき坐骨神経を伸展させ下肢痛を誘発するテストの角度(straight leg rising: SLR),立位体前屈を行い床から指先までの距離(flower finger distance: FFD),疼痛緩和持続時間で行った.
Acupuncture points. Fourteen acupuncture points were irradiated diode laser for 30seconds a point.
結果は即時効果で77%の例で有効と認められた.また,SLRも照射前47°が照射後73°,FFDは照射前30 cmが照射後10 cmといずれも改善がみられた.しかし,効果持続時間は63%の症例において3日間で効果の減弱が認められた.以上よりレーザーで痛みを緩和させると同時にリハビリテーションを行い体幹筋力の安定や柔軟性向上による腰椎アライメントの改善でヘルニアによる刺激の緩和する根本的な治療の併用が必要と考えられた.
その後,半導体レーザーで高出力な機器が使用と可能になりスポーツ障害に対する10 W半導体レーザーのLLLT効果を検討した.2006年12月から2013年12月までに当院でLLLTを行った患者124例のうちスポーツ傷害に対しLLLTを行った67例を対象とした.2回以上治療をおこなっていたのは41例でありこれらについて検討した.男性22例,女性19例,治療時の平均年齢は38.9 ± 15.9歳(7~77歳)であった.
対象疾患はTable 4のとおりである.照射方法は,波長830 nm,出力10 W,パワー密度は6.7 W/cm2,パルス照射の半導体レーザー(松下産業機器社製,MEDILASER SOFT 1000)を用い圧痛点と経穴照射を組み合わせ,1ポイント10~15秒で5~10分行った.評価はPRSを用い5点以上に改善したものを有効とした.
deses | Number of patients |
---|---|
patellar tendinopathy | 8 |
lateral epicondylitis | 3 |
Achilles peri tendinitis | 3 |
Adductor muscle injury | 2 |
medial epicondylitis | 2 |
Rotator cuff injury | 2 |
etc | 21 |
PRS 5点以下で効果有りと判断できたのは41例中27例65.9%であった.有効率が高かった疾患は,ジャンパー膝75%,上腕骨外側上穎炎66.6%,アキレス腱炎66.6%であった.特に注目すべきはLLLTを患者自身が行った場合は有効率が57%であったのに対しLLLTを医師が自ら行った症例では有効率が100%であり,LLLTの知識のあるものがレーザー照射を行うことの重要性を示していた.
スポーツ外傷の部位別頻度を見ると手指,足部足関節に次いで膝関節障害が3位である.
膝の外傷はスポーツ選手にとって長期に離脱をする原因となることが多く,場合によっては選手生命に影響を及ぼす.これまでは半月板損傷に対する治療のほとんどは切除術が行われてきた.しかし,これはその後の関節症性変化の直接の原因となる可能性が高いと報告されている.この変化を防ぐには半月板を温存することが不可欠である.現在,半月板縫合の技術が進み半月板温存の可能性が広がってきたが,まだなお断裂部位や断裂形態によっては温存が難しい場合がある.その主な原因は半月板自体の血流が乏しく自己治癒能力が極めて低いことにある.これらの因子に関係なく半月板の温存が可能となれば整形外科にとって大きな進歩となる.
この問題を解決するために中反応レベルレーザー治療(MLLT)に注目した.LLLTは比較低出力のレーザーを用いレーザーの光作用を利用しており疼痛の緩和や創傷治癒に用いられる.一方,高反応レーザー治療(HLLT)は高出力のレーザーを用いレーザーの熱作用を利用したもので組織の蒸散や焼灼に用いられる.その中間の作用としてMLLTがありレーザーの光作用と熱作用をうまく組み合わせ止血・凝固,血管吻合や創接着に利用されている.これはコラーゲンの温度を60~70°Cにするとタンパクが融解し,これを冷やすことでタンパクは凝固しコラーゲン線維は再結合を起こす.その際に適当な圧をかけることにより線維はより強くクロスリンケージするという理論12)であり断裂半月板の治療に応用した.
我々はヒトの半月板組織とよく似ている豚の半月板を用いて半導体レーザーによる断裂半月板の融着実験を行った.
実験では豚半月板に断裂を作成し様々な条件で波長795~980 nm,出力0.1~15 Wの半導体レーザー(IHD社製,StatLaser)を凝固用コンタクトチップ(SLT Japan 社製)を用いて照射し半月板の融着を行った.半月板に断裂を作成しただけのものをC群,断裂部をインドシアニングリーン(ICG)で着色しレーザーを照射したものをD群,断裂部をICGで染色しフィブリン糊を充填したものをF群,F群にレーザーを照射したものをF-D群とした.(Fig.2)それぞれの半月板融着部の引っ張り強度および組織学的な検討を行った.
The following four experimental groups were established: Group C (control), Group D (laser irradiation with ICG staining but no fibrin glue application), Group F (ICG staining and fibrin glue application without laser irradiation), and Group FD (laser irradiation, ICG staining and fibrin glue application).
結果はレーザー照射により断裂半月板の融着に成功した.(Fig.3)引張強度試験ではF-D群の1 W 30 Sec,2 W 30 Secで優位に引張強度が強かった.(Fig.4)
Torn menisci were fused using the diode laser. The above is histological pictures stained with hematoxylin eosin (H.E.). The below shows histological pictures stained with Azan.
The tensile strength of the fused area was measured using a tensile strength meter. The results were as follows: Group C 0.28 ± 0.109 N; Group F 0.34 ± 0.151 N, Group FD 0.6 ± 0.3 N at 1W20sec, 2.22 ± 0.506 N at 1W30sec, 1.08 ± 0.286 N at 2W20sec, and 1.74 ± 0.804 N at 2W30sec; and Group D 0.18 ± 0.044 N at 1W20sec, 0.18 ± 0.083 N at 1W30sec, 0.26 ± 0.230 N at 2W20sec, and 0.24 ± 0.134 N at 2W30sec.
しかし,半月板断裂部の組織は出力1 Wより2 Wで組織変性が強いことが分かった.(Fig.5)断裂部に色素を塗布しヒブリン糊を充填し半導体レーザー出力1 Wで30秒間照射する条件がいいということが分かった.
We evaluated histology that irradiated diode laser at 1W 30sec and 2W 30sec. Welded menisci which were irradiated laser at 1 W 30 sec were observed degeneration, homogenous staining intensity surrounding tissue. Degeneration of welded menisci using diode laser at 2 W 30 sec were much more. Degeneration of surrounding tissue were increased according to power of laser output.
現在,整形外科の分野でも再生医療の研究が進んでおり関節軟骨の再生医療は現実的なものとなっている.さらに半月板の再生治療の研究も進んでいるが現段階では実用化までまだ長期に時間がかかる見込みであり実現したとしても侵襲や手技的な問題が残されている.レーザーによる半月板融着は現在のトレンドではない治療法だとしても現場の臨床では有用な治療法になる可能性が考えられる.
以前にスポーツの現場で働いているトレーナーや理学療法士17名に治療についてのアンケートを行った.2010年のデータではあるが,その当時レーザー治療について知っている人は82%であり疼痛緩和効果を認知している人は71%でスポーツ現場にはよく知られた治療となっていた.しかし,実際にレーザー機器を使ったことがある人は47%であった.レーザー治療を行った経験のある人にその効果について尋ねると,少し効果が感じられると回答した人がいた半面,効果は認められなかった,効果の持続時間が短かったという意見があり個人個人で評価にばらつきが感じられた.スポーツの現場レベルでレーザー治療がなかなか普及しないことについてその理由を聞いたところ,ほかの物量機器に比べレーザー機器が高価である,現場で使用出来る知識を持った人間がいない,疾患ごとの具体的な使用方法が知られていないといった内容であった.現在では各スポーツチームで利用される機会は増えたようだがレーザー治療に対する知識や他の物療機器との違いの理解が深まったかどうかは疑問が残る.現場での使用をもっと広げるにはより安全性の高い機器の開発,効果の向上,はっきりしたプロトコールの作成も考慮されるべきである.
アスリートにとって日々の練習や試合からくる疲労の蓄積はパフォーマンスの低下や障害の発生につながり,疲労をコントロールすることはきわめて重要である.
近年,筋疲労に対する光治療の効果が報告されている.動物実験においてもLLLTにより最大筋力発揮の維持や筋疲労後のcreatine kinase(CK)の増加抑制などの効果が報告されている.また人に対する研究では運動前にLLLT・LEDT:Light emitting diode therapyを行うことにより筋疲労の遅延効果があり,運動後の施行により疲労回復の促進が多数報告されており長期的なトレーニングに対する効果の助長が期待される13).
このようにこれまで傷害部位に対する治療の方法として光治療は考えられてきたがこれと同時に予防や競技力向上に対する効果に注目が集まっている.今後は細かなプロトコールを作成し再現性のある治療法を確立することと同時に,その効果の裏付けとなる基礎的なデータの蓄積が課題と考える.