2021 年 42 巻 2 号 p. 89-95
1960年頃より始まった眼科領域,特に網膜疾患に対するレーザー治療は,これまでに様々な発展を遂げてきた.選択的網膜色素上皮レーザー治療(Selective Retina Therapy: SRT)は,神経網膜や脈絡膜に傷害を与える事無く網膜色素上皮細胞のみを選択的に治療できる低侵襲網膜レーザーの1つとされる.本稿では,SRTの原理から臨床研究,さらに今後の展望についても紹介する.
Since the 1960’s, laser therapy in the ophthalmologic field, especially for retinal diseases, has made various developments. Selective Retina Therapy (SRT) is one of the minimally invasive lasers that can selectively treat only retinal pigment epithelial cells without affecting the retina or choroid. We have reviewed the principle of SRT, clinical research, and future prospects.
眼科領域におけるレーザー治療の歴史は古く,1960年代にレーザーが臨床応用されたのと同時期より眼科用に開発・治療に使用されたとされる1).特に網膜疾患はレーザーの恩恵に与ってきた分野である.従来,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症,加齢黄斑変性,網膜裂孔といった網膜疾患では,レーザーの作用機序は,網膜の最外層にある網膜色素上皮(retinal pigment epithelium: RPE)細胞に照射されたエネルギーを熱エネルギーに変換し,組織を熱変性により凝固させる「レーザー網膜光凝固」が主流であった.糖尿病網膜症では,進行すると網膜血管閉塞に伴う虚血が起こり,虚血部位からは血管内皮増殖因子などのサイトカインを放出し線維血管増殖性変化を引き起こし,やがて失明に至る.この虚血による増殖性変化を予防するために,閉塞部位にレーザー網膜光凝固を行い,網膜虚血の解消を行う.網膜静脈閉塞症でも,虚血範囲が広い場合には,糖尿病網膜症と同様に増殖性変化の予防のためにレーザー網膜光凝固術を行う.また,網膜裂孔では,放置すると網膜剥離へと進展する危険があるため,裂孔周囲にレーザー網膜光凝固を施行する事で神経網膜とRPE細胞の癒着を促し,剥離への伸展予防が可能となる.
このように,網膜疾患へのレーザー治療は眼科領域では欠かす事の出来ないものであるが,医療技術の進歩に伴い,視機能維持・改善もより高い水準で求められるようになっている.このため,網膜疾患領域でのレーザー治療も従来の熱変性による組織破壊を最小限に抑えるものや,細胞の活性化・再増殖を促すような照射方法も検討されるようになった.これらのレーザー治療は,最近では「低侵襲網膜レーザー」という概念で統一されつつあり,従来のレーザー網膜光凝固では不可能であった疾患への対応や,またレーザー網膜光凝固と比較し,より視機能維持や改善に貢献したとの報告が多くなっている.本稿では,低侵襲網膜レーザーの1つとされる選択的網膜色素上皮レーザー治療(Selective Retina Therapy: SRT)を中心に,その開発から原理,臨床研究への応用を述べる.
網膜は10層で構成され9層の神経網膜と1層のRPE細胞からなる.RPE細胞は網膜最外層にある単層細胞層で,相互間はtight junctionとよばれる細胞接着構造で結合している.またRPEは脈絡膜と視細胞の間にあり,血液網膜関門のバリア機能や視細胞の外節代謝など視細胞を維持する重要な役割を果たしている.
従来のレーザー網膜光凝固は,このRPE細胞に存在するメラニン色素にレーザーエネルギーを収束させ,熱変換し,温熱によりRPEや周囲組織のタンパク変性を生じさせ凝固するという作用機序により治療を行ってきた(Fig.1).糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症では,網膜の虚血により血管内皮増殖因子などのサイトカインが誘導され,網膜新生血管などの増殖組織が生じ視力低下が起こる.このため,レーザー網膜光凝固により虚血に陥った神経網膜に変性萎縮を起こし,組織の酸素需要量を低下させ,増殖性変化を阻止するという治療が行われてきた2,3).レーザー網膜光凝固はこのような虚血性疾患に対する治療では重要な役割を担っており,これによる失明予防に多大な貢献をしてきた事は間違いない.
Graphic representation of the therapeutic effect of laser photocoagulation.
しかしながら,レーザー網膜光凝固にも問題点がある.神経網膜は視機能を有しており,レーザー光凝固を行うと,凝固部位の網膜は変性萎縮を起こし,神経機能を失ってしまう.周辺網膜では視機能への影響は少ないが,網膜,特に網膜の中心2~3 mmに位置する黄斑部に近くなると,レーザー照射部位に中心暗点という感度低下部位を生じたり,視力自体の低下も招いたりする4,5).このため,従来のレーザー網膜光凝固は黄斑部には慎重に施行する事が必要で,特に黄斑部中心にある直径500 μm程度の中心窩下周囲にある病変には施行できない.加齢黄斑変性では,その病因は中心窩下に生じる脈絡膜新生血管で,それが神経網膜下に到達し出血や浸出液,線維瘢痕形成を引き起こし視力低下に至るとされる.現在,加齢黄斑変性に対する治療は,抗血管内皮増殖因子(anti-vascular endothelial growth factor: VEGF)療法や光線力学的療法(photodynamic therapy: PDT)が主流となっているが6-8),これらが導入される以前は,脈絡膜新生血管を直接レーザー網膜光凝固で焼灼する手法がなされていた9,10).その結果,長期的にはレーザー網膜光凝固の照射部位が絶対暗点という網膜感度のない場所となり,到達できる視力も0.1以下と到底満足できる結果ではなかった.以上のような経緯があり,中心窩周囲に病変が存在する黄斑疾患では,従来のレーザー網膜光凝固は特に慎重にならざるを得なかった.
このように,従来のレーザー網膜光凝固が主流であった網膜疾患に対する治療は,病状の悪化を防止する事が何よりも先決であったが,それがある程度コントロール可能になってくると,次の目標は視機能維持,もしくは改善ができる治療の方法論が検討されるようになった.網膜疾患での視機能維持のために必要となるのは,神経網膜の神経伝達機能の維持と同義としてよい.従来のレーザーでは,RPE細胞に到達した熱エネルギーはRPE周囲にも拡散し,内側の神経網膜,外側の脈絡膜にまで少なからず及ぶ(Fig.1).これを回避するための試みが,「低侵襲網膜レーザー,minimally invasive retinal laser」という概念である.どのような状態を低侵襲というか,用語の定義付けは議論の余地があるが,照射エネルギーや照射方法を調整する事により,神経網膜の熱変性を出来得る限り起こさない,あるいは生じる範囲を小さくする,などが低侵襲網膜レーザーとして考えられている11).この変化が検眼鏡的に検出できない段階から,各種検査で検出できない,組織学的に検出できないという段階までを低侵襲レーザーとして定義がなされる事が多い(Fig.2).
Definition as the less invasive (subthreshold) laser therapy.
現在,日本で臨床的に使用されている低侵襲網膜レーザーは,眼底に基準照射した光凝固斑から閾値を設定し,それより低出力で本照射を行うエンドポイントマネージメント,マイクロ秒のパルスレーザー照射でRPE細胞から周囲組織への熱拡散を軽減するマイクロパルスレーザーなどがある11-13).また,低侵襲網膜レーザーに特化したものではないが,網膜の画像をコンピューターに取り込み,照射部位を自動で追尾し,誤照射や不必要な照射を防ぐナビゲーションレーザーも使用されている14).どれも神経網膜への影響は少なく,有用であったとの報告は多く,黄斑疾患への対応が可能となっている.しかしながら,理論的には作用機序は従来のレーザーと同様温熱によるものであるため,RPE細胞周囲への熱拡散は免れず,注意は必要である.
SRTは,従来のレーザー網膜光凝固の低侵襲化を目的として1980年代後半にBirngruberによって考案され,医学レーザーセンターリューベック(Medical Laser Center Lubeck)によって研究・開発されたRPEのみを選択的に破壊することができる方法である(Fig.3).1992年,RoiderとBirngruberらは,アルゴンレーザーを用いて短時間複数パルス照射を行うと,隣接する神経網膜や脈絡膜を損傷する事なくRPE細胞のみが選択的に凝固されたと報告した15).家兎を用いた研究において組織学的には,レーザー照射で傷害を受けたRPE細胞は2週間後には新しいRPE細胞で被覆され,また4週間後の蛍光眼底造影検査ではバリア機能も回復が示唆されたと報告している.翌年には1照射当たりのパルス数を増やすほどにRPE細胞の細胞死が増加する事も判明している16).後に2000年にBrinkmannらによってナノ秒からマイクロ秒のパルスレーザーによる細胞傷害の機序が温熱ではなく微小気泡によるものであることが示された17).その後,レーザーパルス長とRPE細胞傷害機序の関連がより深く研究され,2005年彼らは温熱凝固による細胞死と微小気泡発生による機械的細胞死の境界が20マイクロ秒付近にある可能性を実験によって提示した18).様々な条件が検討され,現在使用されているSRTでは安全性,効率性,安定性を含め1.7マイクロ秒,100 Hzが選択されている.
The SRT laser system (Medical Laser Center Luebeck).
SRTの臨床上の治療効果としては,病的なRPE細胞をレーザー照射により破砕し,破砕された細胞はマクロファージなどにより貪食分解される.その後周囲のRPE細胞が遊走,増殖し,数日から2週間程度で破砕部を被覆し,正常なRPE細胞と置き換わる.この際,RPE細胞は本来持つ外網膜血液関門というバリア機能や浸出液を網膜側から脈絡膜側へ排出するポンプ機能などを活性化させるとも考えられており,このような作用機序から網膜内・網膜下滲出液を吸収促進させるとされる16,18).神経網膜や脈絡膜へのレーザーの直接的な影響は皆無であるため,従来のレーザーでは禁忌とされてきた中心窩下の病変も対応できる.浸出液が網膜内・網膜下に貯留する網膜疾患,特に黄斑疾患でこの優位性は発揮できるとされ,様々な疾患に対する臨床試験で検証が開始された.
従来のレーザー網膜光凝固では,臨床上十分なレーザー照射ができたかどうかは,熱凝固による神経網膜の変性による白濁を目視する事で治療の基準にしていた.しかしながら,SRTではレーザー照射でRPE細胞を破砕しても理論上は神経網膜の白濁は発生せず,十分な照射が出来たかどうかは,レーザー後にフルオレセイン蛍光眼底造影でRPEからの色素漏出を確認する以外になかった.1度の治療で造影剤を使用する検査を何度も施行するわけにはいかないため,これ以外の手法でレーザー照射の評価を行う必要が生じてきた.
そこで考え出された技術が光音響(Optoacoustic: OA)技術である19).SRTレーザーを照射すると,RPE細胞内のメラノソーム周囲で微小気泡が形成され内部より破砕されるが,この破壊はRPE細胞内の気泡発生による膨張が原因で起きる20).微小気泡発生によって生じる圧力波を測定することで微小気泡が形成されたか,すなわちRPEが破砕されたか推測することが出来る.SRTでパルス数30発を設定しているが,RPE細胞が破砕されない程度の微小気泡では,測定された30発の圧力波の波形は常に揃っているが,破砕されるレベルに達すると,主に初発のレーザーで破砕された後は波形が乱れ,30発の振幅が大きく乱れる.この乱れを数値に変換し,RPEの破砕の有無を推測する事ができる21,22).
OA値の測定は,レーザー照射の際に使用する接触レンズに装着された超音波変換器によって網膜から角膜に到達した圧力波を感知し,それを電気信号に変換したものから算出される.これによりSRTレーザーの照射をリアルタイムに客観的に評価でき,治療効果が不十分であったり過剰になったりすることを防止できるようになった(Fig.4).このようなRPE細胞の破砕程度を臨床的に測定する方法としては,開発段階ではあるが現在もいくつか試行錯誤がなされている23).
Schematic representation of Selective Retina Therapy with acoustic measurement.
欧米や韓国,日本などで以上のような技術開発の結果,SRTは網膜,特にRPE細胞に病因があると考えられ得る疾患に対し,従来のレーザー網膜光凝固より低侵襲な治療としてヨーロッパや韓国で臨床応用が進行中である.我々の施設でも,2012年に当院倫理委員会承認の下,ドイツリューベックレーザーセンターでSRTのプロトタイプを作製したものを導入し,臨床試験としてSRTの安全性・有効性を検証してきた.
①中心性漿液性網脈絡膜症(Central Serous Chorioretinopathy: CSC)
CSCは30~50代の中高年層に好発する疾患で,原因は特定されていないがストレスが関与しているといわれている.通常片眼性のことが多いが,両眼性も存在する.症状としてはものが歪んでみえる変視症や中心暗点を生じる.発症から数カ月で自然治癒することが多いが,再発を繰り返したり遷延したりする症例も少なくない.早期に自然治癒した場合には症状が残らないこともあるが,遷延・再発を繰り返した場合は視力低下や変視症が残存することも多い24,25).
CSCの臨床所見としては,黄斑部に限局した境界明瞭な漿液性網膜剥離があり,フルオレセイン蛍光眼底造影検査では典型例では強い点状の蛍光漏出がみられ,インドシアニングリーン蛍光眼底造影では脈絡膜血管の拡張や透過性亢進がみられる.漿液性網膜剥離の原因はRPE細胞が障害されバリア機能が破綻する事による.
従来の治療はこの点状漏出部に直接レーザー網膜光凝固を行うことであったが,中心窩に近い漏出点に関してはレーザーによる暗点を生じる可能性があり中心窩下では治療適応にならなかった.このような症例には,加齢黄斑変性に使用されるPDTが有効であると報告されている26).PDTでは中心窩付近の漏出やびまん性の漏出であっても治療することが可能であり,異常な脈絡膜血管の透過性亢進が抑制され網膜下への漏出が停止することで網膜下液の吸収が促進するとされる.しかしながら,現在は保険適応外の治療であり治療費が自己負担となるため高額になることや,治療時に使用するベルテポルフィリンは光感受性物質であり投与後5日間程度は強い直射日光を避けるといった日常生活の制限の必要があること,また脈絡膜循環への影響も大きい.
SRTはRPE細胞のみを標的として治療できるため,CSCでは,異常RPE細胞のバリア修復とポンプ機能を正常化する良い適応とされる.CSC症例に対するSRTでは,治療後に異常RPE細胞からの漏出は消失し,漿液性網膜剥離も吸収され,視力改善もみられたとの報告が多い27-30).我々の施設でも,CSCの症例にSRTを施行後に,漿液性網膜剥離は吸収され,視力改善が得られるのと同時に,局所網膜感度も改善が得られたのを報告した29).さらに,SRT施行時には本照射の前に正常網膜の血管アーケード部周囲にテスト照射を行うが,その部位の局所網膜感度の低下はみられず,SRTが視機能に悪影響を及ぼす事無く治療ができている事を示唆するものと考えられる(Fig.5).
A representative case of central serous chorioretinopathy. Color fundus image (left), horizontal scan of optic coherence tomography (OCT) (middle), and fluorescein angiography (FA) (right) of pretreatment (superior), 3 months after SRT (inferior). Subretinal fluid and the leakage on FA disappeared at 3 months follow-up after SRT.
②糖尿病黄斑浮腫(diabetic macular edema: DME)
DMEは糖尿病患者の視力障害の主要な原因の一つであり,高血糖や炎症,酸化ストレスから黄斑部網膜の毛細血管が障害され血管透過性が亢進し網膜内浮腫を引き起こすとされている31,32).過去にはDMEに対し格子状光凝固の有効性が報告されているが33),凝固斑の拡大や暗点などのレーザーによる組織障害が黄斑部に引き起こされると視機能低下に直結するため,現在では抗VEGF薬の硝子体内注射が主流の治療法となっている34-36).しかしながら,硝子体注射は継続が必要なことも多く治療回数や金銭面での患者側また医療者側の負担といった問題がある.
DMEに対するSRTでは,黄斑浮腫の軽減,視力の維持に効果があったとされる37-40)(Fig.6).我々の検討でも,DMEに対するSRT後6カ月では95%で視力が維持され,黄斑浮腫は有意に減少し約半数で改善を認めた40).また,SRTを行った症例のうち,約半数は何らかの治療歴があったが,黄斑浮腫の改善に影響した因子には,過去の網膜光凝固との関連はみられたが,手術や抗VEGF薬治療の既往と関連はみられなかった.Roiderらの報告でも,浮腫軽減と蛍光眼底造影での漏出の度合いとの関連はみられなかったとされ37),これはSRTの作用機序が抗VEGF薬のそれと異なる可能性が考えられる.今後はSRTに抗VEGF薬を併用する等の検討が期待される.
A representative case of diabetic macular edema. Color fundus image (left), horizontal scan of optic coherence tomography (OCT) (middle), and fluorescein angiography (FA) (right) of pretreatment (superior), 6 months after SRT (inferior). Macular edema decreased while the leakage on FA was not changed at 6 months follow-up after SRT.
③傾斜乳頭症候群(tilted disc syndrome: TDS)
TDSは先天的な視神経乳頭の形態学的な異常のひとつで,後部強膜ぶどう腫を伴うことで様々な黄斑疾患,脈絡膜新生血管,ポリープ状脈絡血管症,色素上皮異常,漿液性網膜剥離等を合併する41,42).黄斑部の漿液性網膜剥離はその中でも比較的によくみられる視機能に関わる合併症であり,遷延すると網膜は菲薄化し不可逆な視力低下の原因となり得る.病理学的なメカニズムはまだ解明されておらず,フルオレセイン蛍光眼底造影でCSCと同様の漏出点を認めることから,後部ぶどう腫の存在によって強膜が突出し機械的な伸展が加わることで網膜や脈絡膜の状態が変化し二次的にRPEの機能が障害されSRDが引き起こされるのではないかと言われている.TDSに随伴する黄斑部の漿液性網膜剥離に対し確立された治療法はいまだなく,局所光凝固,光線力学的療法,抗血管内皮増殖因子の硝子体内注射といった様々な治療の報告があるがいずれも効果として十分ではない43-45).
我々はTDSに伴う漿液性網膜剥離に対しSRTを行い,平均24.4カ月の経過観察期間のうち,55%で網膜剥離の消失を認めたことを報告した46).これまでのPDTや低侵襲網膜レーザーと比較しても,SRTの有効性はあったと考えられえるが,まだ十分に満足のいく結果とは言い難いのが現状である.今後はさらに症例を蓄積し,照射方法,照射部位,照射時期などの適切な条件を検討する事により,SRTの効果が最大限に生かせる方法論を模索していく必要がある.
④その他の疾患
裂孔原性網膜剥離の手術後に遷延した網膜下液に対し,SRTを施行すると網膜下液の吸収促進に効果があったとの報告がある47).また,加齢黄斑変性の前駆病変の1つであるドルーゼンに対しては,SRT照射により減少したものもみられるが,不変であったものも多くこれはまだ十分な検討には至っていない48).脈絡膜母斑は中心窩下にできる事があり,それに伴う網膜下液はCSC等と同様視力低下の原因となる.我々は脈絡膜母斑に伴う網膜下液に対しSRTを施行し,最終的に下液消失が得られ,その後3年間再発を認めなかったことを報告した49).
このように様々な黄斑疾患で有効性が確認され,応用が期待されるが,注意しなければいけない疾患もある.萎縮型加齢黄斑変性では,SRTを施行すると施行した部位に萎縮が拡大したとされる50).SRTの治療効果は,破砕部位周囲のRPE細胞の増殖や遊走などの機能により,健常なRPEが再構築されることによって発揮される.萎縮型加齢黄斑変性のような萎縮を伴う病変ではRPE細胞のこれらの機能が障害されているため,SRT照射が逆に萎縮を誘発してしまう可能性がある.
SRTはこれまでの網膜のレーザー治療とは作用機序の違う独自のコンセプトのもとに検証がなされ,臨床応用に向けて開発されてきた.SRTは,神経網膜や脈絡膜といった周囲組織への直接の影響がほぼ皆無である事から,治療部位や治療回数などの制限が少なく,様々な疾患へ応用できる可能性を秘めている.しかしながら,適応疾患や最適な治療方法,また他の治療法との比較などに関する知見は未だ十分ではなく,多数例や無作為の臨床試験が行われるのが望ましいと思われる.
利益相反なし.