The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Experience in the Treatment of Acquired Dermal Melanocytosis Using the Fractional Q-Switched Ruby Laser
Kaya Hara
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2024 Volume 45 Issue 2 Pages 176-180

Details
Abstract

後天性真皮メラノサイトーシス(Acquired Dermal Melanocytosis: ADM)はQスイッチレーザーによる治療効果が高いが,照射後に高頻度で見られる炎症後色素沈着が問題となることが多い.しかしながら,Qスイッチルビーレーザーをフラクショナルハンドピースを用いて照射することで,色調改善に要する照射回数は増えるが,従来の治療よりもダウンタイムを短くすることができる上に,炎症後色素沈着のリスクも軽減する.

Translated Abstract

Acquired dermal melanocytosis (ADM) is a skin condition that can be effectively treated with Q-switched lasers. However, post-inflammatory hyperpigmentation, a common side effect of irradiation, can be problematic. The use of Q-switched ruby laser irradiation with a fractional handpiece can mitigate post-inflammatory hyperpigmentation, resulting in a shorter downtime compared to conventional treatments. However, it is important to note that the number of treatments required for colour improvement may increase with this approach.

1.  背景

後天性真皮メラノサイトーシス(Acquired Dermal Melanocytosis: ADM)は1984年にHoriらにより報告された1)真皮メラノサイトーシスである.女性に多く,発症年齢は15歳から30歳代に多く,20歳代にピークがある2).露光部の下眼瞼から頬部,前額部,鼻翼に多く見られるこの疾患は,Qスイッチレーザーでの治療が確立されているが,治療後に炎症後色素沈着(post inflammatory hyperpigmentation: PIH)を高頻度に生じるため3,4),治療前後のハイドロキノン・トレチノイン外用による漂白療法の併用など5)PIHを起こさない様々な工夫が行われている.著者は2015年よりFractional Q-switched Ruby Laser(QSRFax)を用いたADM治療を行っており,概ね良好な結果が得られている.本稿では,当院での治療経験を報告する.

2.  対象と方法

2.1  対象

2015年4月から2023年8月までに63例のADMに対しQSRFaxによる治療を行った.症例の内訳としては男性1人,女性62人であり,年齢は23歳から59歳(平均37.88歳)であった.レーザー照射間隔は1ヶ月から3ヶ月を目安とし,10回を目安に繰り返し治療を行った.

2.2  前処置

治療前に臨床写真の撮影と皮膚解析装置アンテラ3D®(MIRAVEX社)を用いて診察を行い,肝斑の有無,PIH,色素脱失を確認する.特に初診時において肝斑が疑われた場合,トラネキサム酸750 mg/dayとVitamin C 3,000 mg/dayの内服を2ヶ月行った後にレーザー照射を行った.初回照射後は2週目の再診を必須とし,色調変化を確認した.照射後に色調の悪化を認めた場合は,自宅での外用(0.05%トレチノイン,0.1%ハイドロキノン等)を指示した.来院の度に必ず色調を確認し,日焼けを含め前回よりも色調が濃くなっている場合には,レーザー照射を行わず,保存的加療にとどめた.

2.3  麻酔

照射に際し,希望に応じて10%リドカイン含有クリームの密封塗布もしくはリドカインテープ貼付を行った.照射範囲が小範囲な場合や麻酔の希望がない場合は保冷剤による冷却下に照射を行った.

2.4  使用機器

当院では2015年よりBISON社RubyStarを使用し2023年よりQutanta社Q-PlusRを使用している.共に,波長694 nmパルス幅30 nsecのQ-switched Ruby Laserであり,ハンドピースの交換のみでフラクショナル照射が可能である(Fig.1).フラクショナルハンドピースのビームプロファイルは機械により異なる.例えばBISON社RubyStarにおいては,DOE(diffractive optical elements )を通し作成されており,実際の照射面積は6 × 6 mmの四角形で,その中に9 × 9個のマイクロスポットが並ぶ.一つのマイクロスポットの形状は560 × 480 μmの楕円形で,一度の照射でのcover rateは37.51%である.一方Quanta社のQ-PlusRにおいては,MLA(micro-lens arrays)を通し作成されており,実際の照射面積は直径9 mmの円形であり,この中に66個のマイクロスポットが並ぶ.一つのマイクロスポットの形状は直径500 μmで,照射のcover rateは40%である.(Fig.2

Fig.1 

Ruby Star fractional handpiece beam profile

Spot size: 6 × 6 mm

micro spot: ellipse 560 μm wide, 480 μm long

Number of spots:81

Coverage: 37.51%

Fig.2 

Q-Plus R fractional handpiece beam profile

Spot size: 9 mm in diameter

micro spot diameter: 500 μm

Number of spots: 66

Cover rate: 40%

2.5  照射方法

照射は基本的にImmediate Whitening Phenomenon(以下IWP)が見られる最低限の出力で照射を開始した.色素斑よりもスポットサイズの方が大きい場合は,色素斑の中心に照射径の中心を合わせて1パス照射を行った.照射時の出力は,機種により数値に差がある.例えばBISON社のRubyStarのQSRFrax治療で IWPが見られる出力は2.5~3.5 J/cm2程度であるが,Quanta社のQ-PlusRにおいて1.2 J~1.8 J/cm2程度である.この数値の違いは,フラクショナルハンドピースを通過する前の出力の値で表記されているか,皮膚に実際に当たる出力を推測した値であるか,という点で異なる表記になっている.Quanta社のQ-plusRにおけるQSRFrax照射の際の出力が画面上で1.2 J/cm2である場合,1 cm2あたり1.2 Jという値はMLA通過前のエネルギーであり,MLAを通過すると40%の面積で1.2 Jのエネルギーを放出することになる.つまり,単位面積当たりの換算で3 Jとなるため,皮膚に当たる出力としては計算上3 J/cm2である.

2.6  照射後の処置と注意

照射後はステロイド含有軟膏を照射部位に塗布し,10分程度冷却し終了とする.数時間から1日程度赤みが持続する.赤みが収まった後,照射部位の色素斑上にドット状の痂疲が形成されると,1週間程度で脱落することが多い.照射部位はガーゼによる被覆は行わない.照射後のホームケアとして,ワセリン塗布と遮光を指示し,翌日以降のメイクアップは許可した.

2.7  評価

毎照射前に視診とアンテラ3Dを用いて色調の変化を確認した.アンテラ3Dでは真皮病変の判断が難しいため,PIH・色素脱失・肝斑の三項目を確認する.有効性評価としては,同条件にて撮影された施術前後の臨床写真を元に2名の医師が行い,Excellent,Good,Fair,Poorの四段階評価とした.

3.  結果

代表症例

症例1 26歳 両頬ADM

BISON社RubyStar QSRFrax 3.5 Jで照射,内服・外用なし

治療前(Fig.3(a)),5治療後1か月(Fig.3(b)),11回治療後11か月(Fig.3(c))

Fig.3 

A 26-year-old female with Acquired Dermal Melanocytosis. Use of Ruby STAR by BISON. Irradiated at 3.5 J using a fractional handpiece. No oral medication. No topical medication. (a) Before treatment (b) 1 month after fivesessions. (c) 11 months after 11th treatment. Pigmentedlesions have improved.

症例2 52歳 両頬ADM

BISON社RubyStar QSRFrax 3.5 Jで照射,内服・外用なし

治療前(Fig.4(a)),3回治療後1か月(Fig.4(b)),11回治療後1か月(Fig.4(c))

Fig.4 

A 52-year-old female with Acquired Dermal Melanocytosis. Use of Ruby STAR by BISON. Irradiated at 3.5 J using a fractional handpiece. No oral medication. No topical medication. (a) Before treatment (b) 1 month after threesessions. (c) 1 months after 11th treatment. Pigmentedlesions have improved.

症例3 49歳女性 肝斑・ADM

BISON社RubyStar QSRFrax 3.5 Jで照射,トラネキサム酸・ビタミンC内服,トレチノイン外用併用

治療前(Fig.5(a))内服開始後2か月(Fig.5(b),3回治療後2か月(Fig.5(c)),12回治療後4か月(Fig.5(d))

Fig.5 

A 49-year-old female with Acquired Dermal Melanocytosisand melasma. Use of Ruby STAR by BISON. Irradiated at 3.5 J using a fractional handpiece. With internal medication And topical medication. (a) Before treatment (b) 2 months after start of oral administration (c) 2 months after 3rd treatment. (d) Four months after the 12th treatment. Pigmentedlesions have improved.

男性1人女性62人のうち,5例が途中で脱落した.内訳として,肝斑の悪化により途中で治療を中断したものが4例,5回目の照射後に2 mmの色素脱失を自覚し中断を希望したものが1例であった.色素脱失を自覚した症例に関して,1ヶ月毎に照射を行っており,短い照射間隔が原因と考えた.この症例以降,最低照射間隔を2ヶ月とし,その後明らかな色素脱失は経験していない.

脱落症例を除いた評価の内訳としてはExcellent 28例(48.28%),Good 17例(29.31%),Fair 12例(20.69%),Poor 1例(1.72%)であった.Excellentの評価の症例においては,治療回数が平均8.46回(最低4回,最高13回)治療期間は平均18.60週(最低6週,最高66週)であった.Goodの評価の症例においては,治療回数が平均6.76回(最低3回,最高18回)治療期間が平均16.11週(最低5週,最高44週)であった.Fairの症例においては,治療回数が平均6.66回(最低3回,最高9回)治療期間は平均12.58週(最低6週,最高23週)であった.Poorの症例においては,治療回数が3回,治療期間は8週であった.治療効果は,治療回数が多く治療期間が長いほど良い効果が得られる傾向を示した.

合併症としては,肝斑の悪化が4例と最も多く,PIHが3ヶ月以上続く症例は認めなかった.色素脱失については前述の1例に加え,7回目の照射後に照射部位全体の色調変化(白色変化)を一過性に認めた症例が1例あった.脱落症例を除く58症例のうち,トラネキサム酸とビタミンCの内服を併用したものは26例であり,内服を併用している症例の評価はExcellent 13例(50%),Good 8例(30.77%),Fair 5例(19.23%)であった.これは全体における割合と大きく変わらない.つまり,内服にて肝斑のコントロールが可能であればQSRFrax照射によってADMの改善が期待できると考える.しかしながら,肝斑が悪化した脱落症例に関しても全例内服を併用しており,コントロール不良な肝斑をADMに併発している症例に関しては,治療が困難であった.

4.  考察

ADMの治療において最も問題となる点はPIHの遷延である3,4).KunachakらはQSRLで治療したADMの患者の3.6%にPIHの長期化を認め,2.1%においてPIHの持続を認めたと報告している6)が,今回のQSRFrax治療においてPIHが3ヶ月以上継続した症例は認めていない.フラクショナルレーザー治療とは,きわめて微細なレーザー光を一定の密度で皮膚に照射する治療法である.この照射法においては周囲の皮膚が熱緩和の役割を果たし,表皮や真皮に対してのburn-like thermal damageを最小限に抑えることができる7)ため照射によるダメージが少なく回復が早い.ADMのQSRFrax治療においてPIHが治療の妨げになりにくい理由はこのためだと考える.また,今回の経過中に認めた色素脱失については,①日焼けやPIHに注意する②メラニン選択性が高くパルス幅の短いレーザーを漫然と短いインターバルで照射しない.この2点を念頭に置き,治療を行うことで不可逆的な色素脱失は防げると考える.

治療の必要回数に関して,色素の量や色素の存在する深さが関与するが,治療の目的が整容的改善であるため,希望する治療のゴールは患者により異なる.症例によっては,パス数を増やすことで効率良く,少ない回数で治療が可能な場合もあるが,同時にPIHのリスクも上がるため,見極めが重要である.

肝斑に対するQSRFraxの照射が有効であったとの報告がある8).自験例において,肝斑を認めた場合には前述した内服によるプレメディケーションを2ヶ月間行った後に照射を開始しているが,内服下でも照射によって色調の悪化する症例があり,治療に難渋した.この経験より,日本人の肝斑の治療におけるQSRFraxの照射は,IWPが認められる程度の出力においては改善が困難であると考える.

5.  結論

ADMは思春期以降の女性の顔面に認めることが多く,患者は「シミができた」と認識し美容皮膚科等へ通うことが多い.非侵襲的治療のニーズが高い現代において,治療回数こそ増えるものの,ダウンタイムが少なく,日常生活を送りながら治療を継続できるQSRFraxはADMに悩む世代の治療の選択肢として潜在ニーズの高い,有意義かつ安全性の高い治療と考える.また,臨床写真や画像診断機でも映らない,肉眼でようやく確認できる僅かな色調に対して,更なる治療を継続する患者が一定数存在するが,そのような場合においても,QSRFrax照射は有効である.適切な設定で照射を継続すると,数時間継続する発赤程度の軽微なダウンタイムのみで,更なる改善がみられ,色素脱失や色素沈着等の合併症のリスクは極めて低い.今後の検討課題としては治療効率の最適化である.適切な治療間隔と,より低出力の照射における改善の度合いの確認,フラクショナルのパス数を重ねる等の工夫による治療期間の短縮等を検討していきたい.

利益相反の開示

利益相反なし.

引用文献
 
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