2024 Volume 45 Issue 2 Pages 181-187
波長755 nmのナノ秒アレキサンドライトレーザーを皮膚から一定距離を離すことで低フルエンスとし,スキンリジュビネーションを兼ねて色素性疾患の治療目的に全顔に照射している.回数は要するものの,レーザーで炎症後色素沈着を生じることなくノーダウンタイムの治療が行える意義は大きい.色素脱失や瘢痕などの合併症も認めず,安全で効果的な治療法であると考えている.
To achieve low fluence, the nanosecond alexandrite laser with a wavelength of 755 nm is applied at a specific distance. The entire face is irradiated for the treatment of pigmented lesions and skin rejuvenation. While several sessions may be required, it is of significance that this laser treatment can be performed without downtime and without causing post-inflammatory hyperpigmentation. No complications such as depigmentation or scarring have been observed, making this treatment safe and effective.
2008年のPolnikornのナノ秒Nd:YAGレーザーによる肝斑への低フルエンス照射の症例報告1)以降,この手法が‘レーザートーニング’として本邦を含め主にアジアで広く普及した.一定の有効性は見られるものの,白斑形成2,3)と再発4)という問題点が多数報告されている.‘レーザートーニング’に明確な定義はない.一般的に,波長1,064 nmのナノ秒Nd:YAGレーザーを,大口径かつ2~3 J/cm2程度の低フルエンスで,フリーハンドで中空照射する手法と捉えられている.エンドポイントである軽度紅斑が見られるまで肝斑部位あるいは顔全体に複数パス重ねる.治療間隔は1~2週間で10回以上と高頻度に繰り返すことが多い.
筆者は2014年から,波長755 nmのナノ秒アレキサンドライトレーザーによる低フルエンス照射を,肝斑を含めた色素性疾患の治療目的で行っている5,6).主な適応は,老人性色素斑および雀卵斑であるが,治療時期と設定を慎重に見極めた上で肝斑の症例にも取り入れており,概ね良好な結果を得ている.本稿では,本治療法の特性や臨床経過について述べる.
レーザー治療機器は,発振波長755 nm,パルス幅50 nsecのナノ秒アレキサンドライトレーザー(ALEXLAZRTM,SYNERON CANDELA社製,米国)を用いている.スポットサイズ4 mm,繰り返し照射スピード5 Hzで,フルエンスは4.5 J/cm2から,肝斑は3.0 J/cm2から開始し,初回治療後の反応を確認して,2回目以降は5.5 J/cm2,肝斑は4.0 J/cm2を上限としスキンタイプや色調によりフルエンスを調整する.照射間隔は原則として4週以上としている.ALEXLAZRTMは皮膚からの距離が長くなればフルエンスが低下するため,距離を離すことで低フルエンスとしている.しかし,中空照射では,一定距離すなわち一定フルエンスを保つことは不可能であり,照射条件を統一することができない.過剰なフルエンスとなることを回避し,一定の条件で安全に照射するためには接触照射の方が適している.そこで,10 cmのディスタンスゲージ(Fig.1)6)を特注して使用している.この先端を皮膚に軽く接触させて照射する.
Handpieces with distance gauges of 3 cm (left) and custom-made 10 cm (right)
この設定は実際にはどの程度のフルエンスで皮膚に照射されているのかを推測するため,バーンペーパーに4 mmスポットサイズのハンドピースでレーザーを照射し,変化した領域のビーム径からフルエンスと照射面積を算出した.4.0 J/cm2で照射した場合のハンドピース先端から皮膚(照射面)までの距離とフルエンスの関係を示す(Fig.2)5).機器に表示される数値は,従来の3 cmのディスタンスゲージを使用した際のフルエンスであり,表示が4.0 J/cm2の場合,10 cm離れると0.4 J/cm2,約1/10となる.ハンドピース先端からの距離と照射面積の関係をみると,3 cmでは0.1 cm2であり,10 cm離れると1.1 cm2と11倍まで拡がる(Fig.3)5).
Negative correlation between fluence and distance from handpiece to skin
When the fluence is set to 4.0 J/cm2 with a 10 cm distance gauge, the actual fluence amounts to 0.4 J/cm2, almost one-tenth of the set fluence.
Positive correlation between area of irradiation and distance from handpiece to skin
The area of irradiation is 0.1 cm2 with the 3 cm distance gauge, and it increases elevenfold to 1.1 cm2 with the 10 cm distance gauge.
顔全体に1,500~2,000ショット程度1~2パス,口唇や鼻も局面に沿って丁寧に照射する.眼瞼はアイガードをずらしながら眼球を保護して慎重に照射する.老人性色素斑や雀卵斑にはスタッキング(同一部位の重複照射)を行う.痛みと炎症の緩和目的に照射前からアイシングを行い,照射後も5分程度継続し熱感を抑える.‘レーザートーニング’では,エンドポイントを軽度紅斑としている報告が多いが,本法ではアイシングによって既に紅斑が生じてしまうため,これは目安としていない.経験的に,上記条件が安全な設定と考えている.
照射間隔は,原則として4週以上とし,まず5回程度を目安とする.症状がある程度改善された後は,希望があれば間隔を空けて治療を継続する.
初回から色調の改善を認める場合もあるが,2~3回目より色素斑が徐々に改善していく.小じわや毛孔開大など肌理の改善には更に回数が必要である.
肝斑はあくまでも保存的加療が基本である.すなわち,スキンケア指導・トラネキサム酸内服・ハイドロキノン外用およびケミカルピーリングとトラネキサム酸導入をまず行う.炎症をおさえて肌状態を整える期間として2~3か月は続け,その後に本法を開始することが多い.ただし,肝斑が単独で存在することは少なく,多くの症例は当然光老化を伴っており,老人性色素斑も混在している.肝斑のみならず光老化皮膚の改善を兼ねて本法を行う.
2014年11月~2021年2月までに,肝斑に対して前述した条件で3回以上治療を継続し,最終治療1か月後の写真をもとに色調と面積の改善度を69症例で評価した.全例女性,年齢30~66歳(中央値48歳),治療回数は3~13回(中央値5回),その内訳は,著効7例(10.1%),有効34例(49.2%),やや有効25例(36.2%),無効3例(4.3%)であった6).初期に,照射が契機と考えられた肝斑の悪化例を経験し,フルエンスが過剰であったと考えて上限を4.0 J/cm2(推定値0.4 J/cm2)とした後は経験していない.
全症例を通じ色素脱失や瘢痕形成などの合併症は認めなかった.元々存在した白斑が顕在化した症例を3例認めた.元々白斑が存在する症例は少なくなく,周囲の色調が均一化されることで白斑が顕在化する可能性を治療前に説明しておく必要がある.
代表症例を示す.
症例1.63歳女性 雀卵斑と老人性色素斑が顔全体に広く散在(Fig.4(a)).3回治療で著明な改善を認めた(Fig.4(c)).
63-year-old female with freckles and solar lentigines. (a) Before treatment. (b) After one session. (c) After three sessions. Pigmented lesions have improved markedly.
症例2.44歳女性 老人性色素斑と毛孔開大
色調の改善の後に毛孔開大の改善を認めた(Fig.5).
44-year-old female with solar lentigines (a) Before treatment. (b) After five sessions. (c) After twenty sessions. Improvement of pigmented lesions and large pores was observed. (Arrow indicates high-fluence irradiation)
症例3.69歳女性 眼瞼の小じわ 老人性色素斑の改善とともに小じわが改善(Fig.6)
69-year-old female with solar lentigines. (a) Before treatment. (b) After three sessions. Improvement offine wrinkles and pigmented lesions.
症例4.37歳女性 口唇色素沈着 色調の改善とともに小じわやはり感が改善(Fig.7)
37-year-old female with pigmentation of lip. (a) Before treatment. (b) After three sessions. Improvement of fine wrinkles and color tone.
症例5.51歳女性 雀卵斑,肝斑,ADM(Acquired Dermal Melanocytosis)が混在.初診時の主訴は,他院でのIPL治療により頬の色素斑は改善したが,眼瞼の色素斑が残っていることだった.胃腸症状のためトラネキサム酸内服が困難だったこともあり,肝斑の改善は得られなかったが(無効例),雀卵斑とADM(高フルエンス照射)の改善を認め治療後の患者満足度は良好である(Fig.8)6).
51-year-old female with freckles, melasma and ADM (a) Before treatment. (b) After six sessions. In this case, tranexamic acid could not be administered due to gastro intestinal symptoms. Improvement of melasma was not obtained (invalid case), but the patient was satisfied. (arrow indicates high-fluence irradiation)
症例6.47歳女性 肝斑 6か月の保存的治療で効果が横ばいとなった(Fig.9(b))ため,本法を開始し改善を認めた(著効例)(Fig.9(c))6).
47-year-old female. (a) Before treatment. (b) After six sessions of chemical peeling. Melasma has improved but the effect plateaued. (c) After five sessions, 10 months later. Melasma has almost disappeared with no recurrence.
ナノ秒アレキサンドライトレーザーは,老人性色素斑,雀卵斑,ADMなどの色素性疾患の治療に汎用されているレーザーである.これを,低フルエンスで照射する手法の報告は少ない.通常の色素斑に照射する1/10程度のフルエンスでも,スタッキングを行ったり,繰り返し照射することで,一定の効果を得ることができる.加えて,小じわや毛孔開大など質感の改善も期待できる.
比較的小さい老人性色素斑が散在する症例や雀卵斑が最も良い適応である.比較的大きいあるいは厚みのある老人性色素斑は適応外である.また,ADMなど真皮の病変にも効果はない.
肝斑に対しても,治療の流れを誤らず,過度な熱影響を与えない十分慎重な設定であれば,安全で効果的な治療法の一選択肢であると考えている.‘レーザートーニング’が発表される以前は,肝斑にはナノ秒レーザー治療は禁忌であると考えられており,アレキサンドライトレーザーにおいても,高フルエンス(5.0~7.0 J/cm2)照射では重篤な炎症後色素沈着を生じ効果的でなかったとする報告7)があった.低フルエンス照射が行われるようになってからは,ナノ秒Nd:YAGレーザーとのコンビネーション治療8)やFabiらのハーフサイドでの比較検討9)でその有効性が報告されている.Fabiらの報告では,両者で有効率および合併症頻度に差異はないと結論づけている.
‘レーザートーニング’と異なり,10 cmのディスタンスゲージを用いる接触照射である本法は,確実に一定距離を離すため,一定のフルエンスで照射することができる.また,このディスタンスゲージは細い先端を接触させるのみで照射部位を覆わないため,病変を直視でき,かつ鼻や眼瞼などの局面も容易に照射できる.つまり,病変に合わせて照射法をコントロールしやすい点が大きなメリットである.回数は要するものの,炎症後色素沈着を生じることなく,レーザーでノーダウンタイムの色素性疾患の治療が行える意義は大きい.
‘レーザートーニング’後の組織学的変化に関して,Munらは,メラノサイトの樹状突起が減少し,メラノソームを破壊するが,メラノサイトは破壊されないsubcellular selective photothermolysisという概念を提唱した10).一方で,Andersonのselective photothermolysis理論11)においては,700 nmの波長では,わずか0.1 J/cm2で,メラノソームの選択的破壊を生じるとしている.高フルエンスでのエンドポイントがIWP(Immediate Whitening Phenomenon)であるのに対し,低フルエンスでは一般的に,軽度紅斑を生じる程度とされている.しかし,実際には,低フルエンスでもIWP様白色変化を来すことがあり(Fig.10)6),この場合微細な痂疲を形成もしくは色調が濃く変化したのち,数日で脱落していくという経過をたどる.紅斑の部位は,痂疲形成は生じずに2~3週間で色調が低下していくことが多い.本治療の作用機序を考察すると,Selective photothermolysisに準じた変化と,IPLのような光熱作用の可能性が考えられる.経験的に,IPLと比較し再発が少ないことから,色素斑の改善には前者がより大きく関わっているのではないかと考えている.
(a) Before irradiation. (b) Immediately after irradiation with an estimated value of 0.5 J/cm2. Immediate whitening phenomenon was observed.
ナノ秒アレキサンドライトレーザーによる低フルエンス照射について,筆者が行っている方法を述べた.本法は,色素性疾患に対して安全かつ有効な治療法であると考えられた.
申告すべき利益相反なし.