2024 Volume 45 Issue 2 Pages 82-88
光免疫療法は,がん特異抗体-光感受性物質複合体の投与とレーザ光照射を組み合わせた,新しい機序の治療である.世界に先駆け本邦では,頭頸部癌に対して保険承認され,頭頸部アルミノックス治療として実臨床で使用可能となっている.新しい治療であり,適応の判断が悩ましい場合も多い.保険適用,禁忌,治療方法,有害事象を踏まえた上で,患者のリスク・ベネフィットを考慮して適応判断していくことが重要である.
Photoimmunotherapy is a novel treatment approach combining the administration of a cancer-specific antibody–photosensitizer conjugate with laser light illumination. Pioneering globally, it has been approved for insurance coverage for head and neck cancer in Japan and is available for clinical use. Owing to its novelty, determining its applicability can often be challenging. It is crucial to make decisions regarding its suitability by considering the patient’s risks and benefits as well as insurance coverage, contraindications, treatment methods, and potential adverse events.
光免疫療法(photoimmunotherapy: PIT)は,がん特異抗体-光感受性物質複合体の投与とレーザ光照射を組み合わせた,新しい機序の治療であり,手術,化学療法,放射線療法,免疫療法に続く「第5のがん治療」とも言われ期待されている1).正常細胞の損傷を抑えて,がん細胞のみを破壊する腫瘍特異性のある治療とされている2).また前臨床では,光免疫療法によって免疫原性細胞死が起こり,腫瘍特異抗原の放出,CD8 + T細胞の活性化を誘導することで,抗腫瘍免疫を促進することも示唆されている3).さらに最近では,ヒトにおいての光免疫療法後の免疫賦活を示唆する報告も出てきている4).本邦では世界に先駆けて保険適用となり,2021年1月から実臨床で使用されてきている.現在,光免疫療法は「頭頸部アルミノックス治療」という呼称が付いており,「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌」のみに使用が可能である.「光免疫療法」という用語は多くの概念を含むため,本稿においては正確を期すために「頭頸部アルミノックス治療」と呼ぶことにする.この治療法は,上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)をターゲットとしており,①光感受性色素(IR700)と抗EGFRモノクローナル抗体の複合体(セツキシマブサロカロタンナトリウム)の投与と②波長690 nmのレーザ光照射の2段階に分かれている5).レーザ光の照射方法にはフロンタル(前方型)ディフューザーまたはシリンドリカル(円筒型)ディフューザーの2種類がある.フロンタルディフューザーは表面から光を当てる方法であり,シリンドリカルディフューザーは穿刺したニードルカテーテルを通して深部に光を当てる方法である.腫瘍の位置,サイズによりこれらを単独もしくは組み合わせて使用する.
頭頸部アルミノックス治療の適応判断は他の治療と比較し少し難しいと感じる.一つ目の理由は,これまでにない新しい治療であり,治療経験が十分には集積していないためである.二つ目の理由は,治療の適用に様々な条件が付いているためである.そのため,ある程度の経験のある医師や施設の経験を共有し,本治療のその特性や条件を理解した上で,適切に症例を選択していく必要がある.本稿では,当院での経験6)も踏まえて,適応と実際の治療について述べていく.
本治療の適応を考えていく上で,まずは保険適用病名に当てはまる必要がある.保険上は「切除不能の局所再発又は局所進行の頭頸部癌」に対しての本治療の適用が認められている.さらには「化学放射線療法等の標準的な治療が可能な場合にはこれらの治療を優先すること」とされている.これは,これまでに行われた臨床試験(第I/IIa相試験(RM-1929-101試験),第I相試験(RM-1929-102試験))が「手術,放射線療法又はプラチナ製剤を用いた化学療法の治療効果が不十分と判断された再発頭頸部扁平上皮癌患者」を対象としていたことに起因する.以上から,現時点では主に手術,放射線治療歴のある再発症例が適応となっている.
切除不能の考え方上述の様な保険適用となっているため,切除不能という条件を満たす必要がある.切除不能な頭頸部癌としては,通常T4b病変(UICC TNM分類 第8版)が当てはまる.例えば,頸動脈の浸潤,広範な頭蓋底浸潤,縦隔または椎骨の浸潤などである.ただし,T4b病変に頭頸部アルミノックス治療を適用することは困難であることがほとんどである.例えば,頸動脈浸潤は治療後の頸動脈破裂の危険性が高いため禁忌に指定されており,頭蓋底浸潤は治療後の髄液漏,髄膜炎・脳炎などの頭蓋内感染症の懸念があり,治療リスクが高いからである.そのため,切除不能と判断する際には他の要因を考慮する必要がある.これまでの臨床実績によれば,T4b病変で適応された病変は限られており,ほとんどの場合は,以下のような総合的な要因に基づいて切除不能と判断されることが多かった.
1.再建術後であり,再手術のリスクが高い場合.
2.手術による根治性が低く,複数回切除後に再発がある場合.
3.患者の全身状態が悪く,侵襲の大きい手術が困難な場合.
要するに,頭頸部アルミノックス治療の適応を検討する際には,病変のサイズが大きい必要はなく,放射線治療後であるか,上記の切除不能の要件を満たす場合に治療の適応となることがある.ただし,大きな病変は危険臓器に近接しているためリスクが高まり,治療後の合併症やQOLの低下のリスクも考慮する必要がある.
放射線治療の既往本治療の適用には「化学放射線療法等の標準的な治療が可能な場合にはこれらの治療を優先すること」という条件が付いている.多くの頭頸部扁平上皮癌においては,放射線治療の既往がなければ,(化学)放射線治療が優先される.そのため,上記条件を満たすためには,ほとんどの場合ですでに頭頸部領域への放射線治療の既往があり,再照射が困難である必要がある.ただし,部位や組織型によっては,放射線治療が標準的な治療ではないものも存在するので,放射線治療の既往が必要とならない場合もありうる.
禁忌治療を適応するためには,禁忌に該当しないことは必要条件の一つである.アキャルックス®(セツキシマブサロタロカンナトリウム)の添付文書には以下のように示されている.
①本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
②頸動脈への腫瘍浸潤が認められる患者
セツキシマブサロタロカンナトリウムは,その名の通りセツキシマブを含んでいるため,セツキシマブでの過敏症の既往がある患者は禁忌に該当する.また頭頸部アルミノックス治療は,治療後に急速に腫瘍壊死が進むため,頸動脈に腫瘍が浸潤している場合,頸動脈出血のリスクがあるため禁忌となる.頸動脈を完全に取り囲むような腫瘍へのレーザ光照射は当然避けるべきである.ただ,腫瘍が頸動脈に接する程度であっても,頸動脈出血は致命的となりうるため,頭頸部アルミノックス治療を避けることがほとんどである.
組織型臨床試験においては,頭頸部扁平上皮癌が対象となっていたが,実臨床では頭頸部癌全般が適応となりうる.ただし,本治療は腫瘍細胞表面のEGFRをターゲットとしていることから,EGFR発現のない腫瘍は適応にならない.扁平上皮癌においてはほとんどの病変において,EGFRが発現しているとされているため追加の確認は必要はない7).しかし,非扁平上皮癌に対して本治療を適応するには,EGFRが発現していることを確認する必要がある.
2.2 必須条件以外の考慮すべき条件 照射アプローチ本治療では,腫瘍に対して適切に光が当たる必要がある.光が当たらない場合は,十分な治療効果が得られない可能性がある.一方,光が過剰に当たってしまう場合は,組織損傷などによる有害事象が発生する可能性もある.このような特性から,外部からアプローチしやすい頭頸部領域が光免疫療法の最初のターゲットに選ばれた.
また,レーザ光の照射方法には,表面から光を当てるフロンタル(前方型)ディフューザーと,穿刺して深部に光を当てるシリンドリカル(円筒型)ディフューザーの2種類がある.現在はこの2種類のディフューザーによる照射しか選択できない.そのため,腫瘍の位置,サイズによっては,照射アプローチが困難であることが理由となり,頭頸部アルミノックス治療の適応とならない場合もある.
つまり,これらのディフューザーにより適切に照射可能な位置に腫瘍が存在することが適応の必須条件である.ただし,アプローチ法の工夫や新しい照射デバイスの登場により,徐々に適応が広がってきている.
治療のリスク・ベネフィットバランスまた,頸部アルミノックス治療の適応を考える上で重要なのが,治療によるベネフィットがあるか否かである.この治療は,光を当てると腫瘍が何もなかったかのようにきれいに消えていくような治療ではない.腫瘍が急速に崩壊していくことから,壊死・欠損が生じることが多い.このような治療後の変化により,治療後に重篤な有害事象や著しいQOL低下が発生する可能性がある.これを踏まえて,ベネフィットがリスクを上回る場合にのみ,頭頸部アルミノックス治療を適応すべきである.
頭頸部アルミノックス治療の目的には,①根治目的,②非根治例での局所制御目的などがあると考える.根治目的であれば,重大なリスクでなければ,多少QOL低下が予想されたとしても,適応とするだけのベネフィットがある.しかし,非根治例では,治療によりQOLが低下することは避けなければいけない.このように,治療目的によりリスク・ベネフィットバランスが変化することにも留意しておく必要がある.
2.3 適応判断を補助する仕組みこのように,頭頸部アルミノックス治療の適応を検討する際には,様々な要因を考慮する必要がある.しかし,これまでに述べてきた内容を言葉では理解していたとしても,具体的な症例のイメージとなると中々想像できないと思われる.そのため,本邦では日本頭頸部外科学会主導で「頭頸部アルミノックス治療 本邦での治療実施症例の要約」が定められている(https://www.jshns.org).各部位毎にどのような症例がこれまで適応となってきたか,どのような有害事象に注意すべきか記載されており,適応を判断する上で参考になる.また,日本頭頸部外科学会に頭頸部アルミノックス治療運営委員会が設置されており,施設の3施術目までは,術前検討会が義務付けられている.施術を考慮している施設の担当医と本治療の経験が豊富な委員との間で,適応判断や治療方法についての検討が行われ,治療の有効性や安全性を維持する仕組みが設けられている.
上述のような説明のみでは,頭頸部アルミノックス治療に対するイメージが湧かないと考える.まずは実際の症例を供覧し,適応,治療経過,治療の特徴について述べていく.
3.1 症例1:80歳代,男性病変位置:左頸部
病歴:X−13年に右中咽頭癌(扁平上皮癌 p16不明)に対して放射線治療を行ったが再発し,X−11年に右頬粘膜~中咽頭切除,右頸部郭清術,オトガイ下皮弁再建を行っている.X−1年に口腔底癌(扁平上皮癌)にて局所切除施行したが,頸部リンパ節転移を来し左頸部郭清術を施行している.今回,左頸部皮下と皮膚に再発病変を認めた.
治療方針の検討:すでに放射線治療後であり,根治照射は困難であった.再建手術後であり,再度の手術は切除リスクが高く困難であると判断した.薬物療法は根治治療とならないため,根治の可能性のある頭頸部アルミノックスを選択した.
治療前所見(Fig.1):左顎下に腫瘤を認め,CTでは,皮膚浸潤を認めており,口腔底の裏面まで進行していることが分かる.舌骨前,甲状軟骨前方にも皮下の小病変を認める.いずれの病変も,頸動脈からの距離は保たれていた.
Preoperative imaging findings of Case 1. a) Photo of external appearance. CT images: b) c) Submandibular lesion, d) Ventral lesion of the hyoid bone, e) Ventral lesion of the thyroid cartilage (arrow: tumor).
治療経過:・1サイクル目
レーザ光照射前日のセツキシマブサロタロカンナトリウムの投与は問題なく終了した.レーザ光照射は,手術室にて全身麻酔下に行った(Fig.2).顎下の病変に関しては,表面部分はフロンタルディフューザーで照射,深部部分はシリンドリカルディフューザーでの治療を行った.さらに舌骨腹側,甲状軟骨腹側の病変に対してはシリンドリカルディフューザーでレーザ光照射を行った.シリンドリカルディフューザーを使用するためには,ニードルカテーテルという中空のニードルを穿刺する必要がある.いずれの病変に対しても,エコー補助下での穿刺を行った.治療後の喉頭浮腫が予想されたため,レーザ光照射後に気管切開を行った.
Photographs during the first cycle of laser illumination. a) Illumination with cylindrical diffusers, b) Illumination with frontal diffusers.
手術直後から痛みの訴えあり,フェンタニル持続静注,NSAIDs点滴静注,アセトアミノフェン点滴静注を行った.照射後1日目には痛み軽快し,フェンタニルは終了した.喉頭浮腫を認めたが,照射後3日目には軽快した.照射後7日目に退院となった.
治療後に顎下病変は黒色変化を来した(Fig.3).CTでは顎下病変の大部分は壊死したが,深部に造影効果を認め,深部の残存を疑う所見であった.舌骨腹側病変は縮小,甲状軟骨腹側の病変は消失した.そのため,残存病変に対して2サイクル目の頭頸部アルミノックス治療を計画した.
Postoperative findings after cycle 1 of Case 1. a) Photo of external appearance. CT images: b) c) Submandibular lesion, d) Ventral lesion of the hyoid bone, e) Ventral lesion of the thyroid cartilage (arrow: tumor).
・2サイクル目
1サイクル目同様に,顎下の病変に関しては,表面部分はフロンタルディフューザーで照射,深部部分はシリンドリカルディフューザーでの治療を行った.舌骨腹側の病変に対してはシリンドリカルディフューザーでレーザ光照射を行った.いずれの病変も,エコー補助下でニードルカテーテルの穿刺を行った.気管切開は1サイクル目から気管カニューレ留置継続していた.術後経過は1サイクル目同様であり,手術直後から疼痛の訴えがあったが,フェンタニル,NSAIDs,アセトアミノフェンにてコントロール可能であった.口腔内の浮腫を認めたが,施術2日後には改善した.経口摂取可能であり,施術7日後に退院となった.2サイクル目以降,顎下病変部の潰瘍は軽度縮小した(Fig.4).CTでは,顎下病変はほぼ全体的に壊死に置き換わり,深部の造影効果も縮小傾向であった.しかし,舌骨腹側病変は増大傾向であり,左頸部皮下に新規病変の出現を認めた.そのため,3サイクル目の頭頸部アルミノックス治療を計画した.
Postoperative findings after cycle 2 of Case 1. a) Photo of external appearance. CT images: b) c) Submandibular lesion, MRI images: d) Ventral lesion of the hyoid bone, e) Subdermal metastasis of left neck (arrow: tumor).
・3サイクル目
今回は,深部の病変が治療の標的となっていたため,顎下病変,舌骨腹側病変,左頸部皮下病変すべてシリンドリカルディフューザーでのレーザ光照射を行った.顎下病変の最深部を治療するために,エコーに加えて口腔内からの触診も併用しながら,ディフューザーの先端が口腔底に貫通する様に留置して照射を行った.術後経過は,1サイクル目,2サイクル目と同様であり,施術10日後に退院となった.
効果判定のCTでは,両側頸部皮下に複数の転移病変出現し,顎下の深部や舌骨腹側病変も増大していた.頭頸部アルミノックス治療での制御は困難と判断し,免疫チェックポイント阻害薬による治療に切り替えた.
3.2 頭頸部アルミノックス治療の特性この症例の治療経過を通じて,頭頸部アルミノックス療法に関する複数の重要な特性を理解することができる.
1つ目は,頭頸部アルミノックス治療は複数回施行可能であるということである.正確には28日以上の間隔を空けて4サイクルまで施行可能である.そのため,病変位置や有害事象などを考慮し,あらかじめ数サイクルの治療を想定したレーザ光照射プランを立てることも可能である.
2つ目は,特有の有害事象への対策が必要ということである.治療後の疼痛が高度であることが多いため,フェンタニル点滴静注を含めた複合的な疼痛対策が必要である.また,高度の浮腫が生じることがあり,あらかじめ喉頭浮腫が予想されるような症例では,気管切開または術後の挿管管理を含む,気道確保を考慮することが重要である.
3つ目は,局所治療の意味合いが強い治療であるということである.本症例においては,治療を行った病変に関しては概ね縮小が得られていたが,他部位に新規病変が出現したため薬物療法に切り替えた.特に皮膚・皮下転移の様な病変に関しては,本症例の様な経過をとることも多い.現時点では,アブスコパル効果ありきでの治療適応は避けるべきであろう.このことから,本治療の適応のタイミングは,手術や放射線治療も含めた局所治療の最終ラインとなることが多い.
3.3 症例2:70歳代,女性病変位置:右鼻腔
病歴:X−53年に右上顎癌(扁平上皮癌)に対して,手術,術後放射線治療を行った.X−13年に局所再発に対して,前中頭蓋底切除,遊離腹直筋皮弁再建を行って.その後も局所再発を繰り返し,X−2年に鼻腔腫瘍切除,X−1年に上顎部分切除を行っている.今回,右鼻腔に局所再発病変を認めた.
治療方針の検討:放射線治療の既往があり,根治照射は困難であった.再建手術後であり,再度の手術はリスクが高いと判断した.薬物療法は根治治療とならないことから,根治の可能性のある頭頸部アルミノックスを選択した.
治療前所見(Fig.5):右鼻腔内の再建皮弁の内側に腫瘤を認めた.頭蓋底は以前の手術により欠損していた.腫瘍から頭蓋内までの距離は保たれ,頸動脈からの距離も十分に保たれていた.
Preoperative findings Case 2. a) Endoscopic image of the nasal cavity. MRI images: b) Nasal cavity lesion inside the reconstruction flap (axial), c) Nasal cavity lesion inside the reconstruction flap (coronal) (arrow: tumor).
治療経過:
・1サイクル目
レーザ光照射前日のセツキシマブサロタロカンナトリウムの投与は問題なく終了した.レーザ光照射は,手術室にて全身麻酔下に行った.シリンドリカルディフューザーでの治療を行った.ニードルカテーテルの穿刺は,手術用ナビゲーション補助下で行った(Fig.6).治療部位から喉頭までの距離は十分離れていると判断し,気管切開は行わなかった.
Intraoperative photos of Case 2. a) Surgical navigation system. b) Puncture while checking the navigation screen. c) Performing a needle catheter puncture using a navigation probe.
施術後,フェンタニル持続静注,NSAIDs点滴静注,アセトアミノフェン点滴静注で疼痛コントロールは良好であった.照射後1日目には痛み軽快し,フェンタニルは終了した.顔面浮腫を認めたが,照射後3日目には軽快した.照射後7日目に退院となった.
治療後に病変は縮小し,画像上も大部分が消失しているように見えた(Fig.7a).しかし,その後の生検にて扁平上皮癌が検出されたため,2サイクル目の頭頸部アルミノックス治療を計画した.
Postoperative findings after laser illumination of Case 2. a) MRI image 38 days after cycle 1, b) CT image 56 days after cycle 1, c) MRI image 18 days after cycle 2 (arrow: tumor).
・2サイクル目
2サイクル目を待機している間に腫瘍は再増大し,ほぼ治療前と同程度の状態まで増大した(Fig.7b).レーザ光照射は,1サイクル目同様に,手術用ナビゲーション補助下にシリンドリカルディフューザーでの治療を行った.術後の経過も良好であり,施術7日後に退院となった.
1サイクル目から2サイクル目までの間隔が73日間であり,その間に腫瘍の再増大を認めたことから,2サイクル目施行前に3サイクル目の日程を確保し,治療効果に関わらず3回目のレーザ光照射を行う方針としていた.そのため,2サイクル後の生検にて悪性所見を認めず,MRI上も著明な腫瘍縮小を認めていた(Fig.7c)が,予定通り3サイクル目を施行した.
・3サイクル目
治療方法,術後経過は,1サイクル目,2サイクル目と同様であり,施術8日後に退院となった.
治療後,1年3ヶ月経過しているが,CR(complete response)を維持している.
3.4 治療効果を高める工夫本症例は頭頸部アルミノックス治療によって,腫瘍制御可能であった症例である.これまで,薬物療法しか残されていなかった症例に対して,機能低下を回避した状態でCRを得ることが可能であった.なぜCRを得ることが出来たのであろう.現時点で,その問いに対する確定的な回答を行うことは難しい.本症例において行った工夫が治療効果に影響したか立証することは困難ではあるが,参考のために以下に示す.
1つ目は,正確なレーザ光照射のために,手術用ナビゲーションを用いた点である.光を正確に当てることが,より良い治療効果に繋がると考える.そのため,画像補助下にレーザ光照射を行うことが重要である.症例1ではエコー補助下,症例2では手術用ナビゲーション補助下に施術を行った.
2つ目は,施術間隔をより短期間とした点である.前述のように頭頸部アルミノックス治療は28日以上の間隔を空けて4サイクルまで施行可能である.しかし,治療効果を判定してから,次のサイクルを予定すると治療間隔が延びて,腫瘍の再増大を来すことがある.あらかじめ,施術前に次のサイクルの日程を押さえることも考慮する必要がある.
3つ目は,腫瘍の残存が明確でなくても,追加の照射を行った点である.頭頸部アルミノックス治療は,治療後に壊死を伴うこともあり,治療効果判定が難しい.例え壊死の深部に腫瘍が残存していても,画像や生検で検出することは困難である.そのため,今回は画像判定や生検の結果のいかんに関わらず3サイクル目を施行した.
頭頸部アルミノックス治療の登場により,これまで薬物療法しか残されていなかった症例に対しても,根治の可能性のある治療選択肢を提供することが可能となった.既存の治療と異なる特性を有するため,適応する場合にはリスク・ベネフィットを慎重に判断する必要がある.今後さらに経験を集積し,最適な治療対象,レーザ光照射の方法,治療スケジュールを検討していく必要がある.
なお,本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない.