日本レーザー医学会誌
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総説
頭頸部アルミノックス治療(光免疫療法)によるQOLへの影響
岡本 伊作
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2024 年 45 巻 2 号 p. 96-104

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Abstract

頭頸部領域は咀嚼・嚥下・呼吸・発声など患者のQuality of Life(QOL)に関与する重要な器官を有している.これらの領域に生じた頭頸部癌の局所制御はQOLの維持だけでなく,生存期間の延長にもつながる.さらに整容面においても多大な影響を及ぼす.局所制御が困難な場合はQOLが低下する可能性がある.我々の施設では,頭頸部アルミノックス治療によるQOL評価について後方視的研究を行った.本稿では,この研究の解説と我々の経験した症例を提示しながら,頭頸部アルミノックス治療によるQOLの影響について解説する.頭頸部アルミノックス治療を施行した9名の患者では,全てのQOL評価項目において,治療前後で有意な変動はみられなかった.切除不能な頭頸部癌に対して,頭頸部アルミノックス治療はQOLが低下せず,良好な局所制御率が見込める治療であった.また,安全性に関しても許容できる結果であった.頭頸部アルミノックス治療という選択肢を積極的に使っていくことで,頭頸部癌の生存期間の延長につながる可能性がある.

Translated Abstract

The head and neck region contains important organs that influence patient quality of life (QOL) by facilitating mastication, swallowing, breathing, and speech. Local control of head and neck cancer in these areas can maintain QOL while prolonging survival. It also has a significant cosmetic impact. Inability to address a cancer by local control alone may decrease QOL. We conducted a retrospective study of patients at our institution to assess the impact of Alluminox treatment for head and neck cancer on QOL. This article describes our study and presents our conclusions regarding the impact of Alluminox treatment on QOL. In nine patients treated with Alluminox, no significant changes were observed in any QOL endpoints before or after treatment. For unresectable head and neck cancer, Alluminox treatment did not decrease QOL and was associated with a good local disease control rate. Safety was also acceptable. Aggressive use of Alluminox treatment as an option may prolong survival in head and neck cancer.

1.  はじめに

頭頸部アルミノックス治療(光免疫療法)は頭頸部癌の局所制御を目的として開発された治療である1,2).本治療は薬剤投与後に特定波長のレーザ光を照射することで抗腫瘍効果を示す.日本では,2020年9月に薬剤であるセツキシマブサロタロカンナトリウム(遺伝子組み換え)(アキャルックス®)およびレーザ光照射用のデバイス(BioBlade®レーザシステム)が製造販売承認を取得し,2021年1月から『切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌』に対する治療戦略の一つとして,頭頸部アルミノックス治療が実臨床で選択可能となった.保険診療として本治療が行われるようになってから約3年が経過し,国内での治療実績も徐々に増えてきた印象である3-12).しかしながら,実臨床ではまだまだ様々なClinical Questionに遭遇し,そのうちの一つがQuality of Life(QOL)である.本治療は薬剤が結合した細胞に690 nmの赤色光を照射することで細胞膜が破壊されると考えられている.薬剤は抗ヒト上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor: EGFR)を標的としたセツキシマブに光感受性物質のIR700を結合させた抗体-光感受性物質である.そのためEGFR発現細胞に特異的な細胞壊死を示し,正常組織への影響が限定的でQOLに及ぼす影響も少ないと考えられる.頭頸部領域は咀嚼・嚥下・呼吸・発声など患者のQOLに関与する重要な器官を有している.これらの領域に生じた頭頸部癌の局所制御は,QOLの維持だけでなく,生存期間の延長にも寄与する.さらに整容面においても多大な影響を及ぼす.局所制御が困難な場合はQOLが低下する可能性がある.

頭頸部アルミノックス治療が頭頸部癌患者のQOLに関してどのような影響を及ぼすかは非常に興味深いテーマである.そこで我々は,「頭頸部アルミノックス治療を施行した切除不能な局所進行/局所再発頭頸部癌患者のQOLを評価すること」を目的とした後方視的な研究を行い,2022年にcancersに報告した4)

本稿では,この研究の解説と我々の経験した症例を提示しながら,頭頸部アルミノックス治療によるQOLの影響について解説する.

2.  論文の概要

Quality-of-Life Evaluation of Patients with Unresectable Locally Advanced or Locally Recurrent Head and Neck Carcinoma Treated with Head and Neck Photoimmunotherapy. Isaku Okamoto, Takuro Okada, Kunihiko Tokashiki, Kiyoaki Tsukahara Cancers. 2022 Sep 11; 14(18): 4413.4)

この研究は,頭頸部アルミノックス治療を受けた切除不能頭頸部扁平上皮癌患者のQOL評価を検証した単施設の後方視的研究である.2021年1月20日から2022年4月30日の期間に東京医科大学病院で頭頸部アルミノックス治療を施行した切除不能な局所進行/局所再発頭頸部癌の患者のうち,QOL評価票を記載した9名の患者を対象とした.

主要評価項目はQOL評価とし,悪性腫瘍患者を対象とした基本的なQOL質問票であるEORTC QLQ(Quality of Life Questionnaire)Core 30 Module(QLQ-C30)13)と頭頸部癌に特異的な質問票であるEORTC QLQ Head and Neck Cancer Module(QLQ-H&N35)14)を用いて評価した.頭頸部アルミノックス治療前と治療4週後の2つのポイントで両QOL質問票による調査を行った.QOLスコアの統計解析は,各スコアを従属変数とし,時間を固定因子,症例を変量因子とし,反復測定共分散構造を複合シンメトリとする,反復測定線形混合モデルを実施した.この時,各測定点におけるLeast square meanとその95% CIを算出した.更に,頭頸部アルミノックス治療前からの変化量についても同様に推定平均値と95% CIを算出し,頭頸部アルミノックス治療前に対する変化量の有意検定を行った.EORTC QLQ-C30では,機能的尺度(Physical functioning, Role functioning, Emotional functioning, Cognitive functioning, Social functioning)とGlobal health status/QOLを,EORTC QLQ-H&N35では,Pain,Swallowing,Sense problems,Speech problems,Trouble with social eating,Trouble with social contact,Less sexualityの計13項目を評価した.頭頸部アルミノックス治療前後では,全てのQOL評価項目において有意な低下や改善が認められた項目はなかったが,傾向としては改善が5項目(Emotional functioning, Swallowing, Sense problems, Trouble with social eating, Less sexuality),悪化が6項目(Physical functioning, Role functioning, Social functioning, Global health status/QoL, Pain, Trouble with social contact),変化なし(Cognitive functioning, Speech problems)が2項目であった(Fig.1A, B).また同研究では有効性についても確認をしており,Complete Response 2例,Partial Response 6例,Stable Disease 1例で奏効率は89%,病勢コントロール率は100%であった.

Fig.1A 

Quality of life (QOL) assessments.

(A) Functional scales (physical, role, emotional, cognitive, and social activities) and (B) global health status were assessed using the EORTC QLQ-C30.

Fig.1B 

Continued.

(C) Domain scales (pain, swallowing, sense problems, speech problems, trouble with social eating, trouble with social contact, and reduced sexuality) were assessed using the QLQ-H&N35.

本研究の結論としては,切除不能な頭頸部癌に対する頭頸部アルミノックス治療はQOLが低下せず,局所制御率も良好であり,安全性に関しても既存報告と変わらず許容できる結果であった.ただし,本研究は限られた症例数であり治療部位にバラつきがある.頭頸部アルミノックス治療の選択にはリスクを想定し,ベネフィットが得られる患者を選定していくことで必要である.次項にて頭頸部アルミノックス治療後にQOLが改善した症例を提示する.

3.  症例提示

70代女性で中咽頭扁平上皮癌の患者である.治療歴は,X−9年に化学放射線療法(シスプラチン3サイクル,70 Gy/35回)を施行,X−5年に局所再発がみられ,右中咽頭部分切除術,右頸部郭清術,下顎辺縁切除術,上顎部分切除,遊離前腕皮弁による再建術を施行した.X年に前腕皮弁再建部前方の下顎歯肉周囲に再々発がみられ(Fig.2A, B),口腔内の出血と経口摂取が困難となった.化学放射線療法後,遊離皮弁再建後の周囲組織への再々発病変であり,切除後の再建は困難であるため,切除術を行った場合,経口摂取困難の悪化,整容面の変貌といったQOLの低下が懸念され,頭頸部アルミノックス治療の方針とした.標的病変は右下顎歯肉から口腔底にかけて存在し,大きさは20 × 24 × 30 mmであった.

Fig.2 

Target lesion before photoimmunotherapy.

A. Endoscopic findings of target lesion (arrows)

B. Computed tomography (CT) (axial and coronal planes) of the target lesion (dotted lines).

頭頸部アルミノックス治療 サイクル1

全身麻酔下に,経口腔アプローチにて40 mmのシリンドリカルディフューザーを用いて計16か所に照射した(Fig.3).照射した病変は術後3日目から壊死がみられ,14日目で壊死組織が脱落した(Fig.4A~D).

Fig.3 

Photoimmunotherapy Cycle1.

Fig.4 

Endoscopic findings of target lesion after photoimmunotherapy Cycle 1.

A. five hours later.

B. three days later.

C. eight days later.

D. fourteen days later.

頭頸部アルミノックス治療 サイクル2

サイクル1施術後1か月で,内視鏡とCTで標的病変の深部も含めた腫瘍の縮小は確認したが残存腫瘍が認められた.そのため残存微小病変も含め根治を目指し広範囲な照射を経口腔アプローチにて計18か所,20 mmと30 mmのシリンドリカルディフューザーを用いて行った(Fig.5).

Fig.5 

Photoimmunotherapy Cycle2.

頭頸部アルミノックス治療 サイクル3

サイクル2施術後3か月で,腫瘍はさらに縮小したが残存を確認したため,20 mmのシリンドリカルディフューザーを用いて計6か所の照射をした(Fig.6).サイクル3終了後4か月に内視鏡とCTで標的病変の消失を確認し,CR評価となった(Fig.7A, B).

Fig.6 

Photoimmunotherapy Cycle3.

Fig.7 

Target lesion after photoimmunotherapy Cycle3.

A. Endoscopic findings.

B. CT (axial and coronal planes).

QOLの経時的変化

頭頸部アルミノックス治療前からサイクル3施行後までのQOLスコアの変化を(Fig.8)に示す.Global health status/QOLおよびEORTC QLQ-H&N35は治療の経過とともに改善傾向が認められた.EORTC QLQ-C30は治療中に一時悪化が認められたが,サイクル3終了後は治療前と同程度のスコアであった.

Fig.8 

Change in QOL score (Global health status/QOL, EORTC QLQ-C30 and EORTC QLQ-H&N35) with photoimmunotherapy.

頭頸部アルミノックス治療前にみられた口腔内の出血は,サイクル1後から改善した.また切除を行った場合に懸念された経口摂取困難の悪化は,頭頸部アルミノックス治療後に改善し,常食摂取が可能となるまで軽快した.整容面に関しては,治療の影響で一過性の腫脹はみられたものの,1週間程度で改善し,整容面の変貌はみられなかった.

4.  局所進行・局所再発の頭頸部癌の治療

近年は再発転移頭頸部癌に対する治療選択肢が増え,シークエンスな治療を目指した戦略をたてる必要性が高まっている.

現在,再発転移頭頸部癌の治療はペムブロリズマブやニボルマブといった免疫チェックポイント阻害剤を中心とした薬物療法が主流15,16)で,薬物療法のファーストラインとして用いられることが多い.頭頸部アルミノックス治療は局所再発の頭頸部癌に適応とされており,切除不能な局所再発頭頸部癌に対して薬物療法とどちらを優先して行うべきか意見が分かれるところである.我々の施設では,切除不能の再発頭頸部癌の治療選択として,局所制御の可能性がある場合は,全身療法である薬物療法の前に頭頸部アルミノックス治療を優先すべきと考えている.

薬物療法でのPhase 3試験15,16)における奏効率は13~36%である.頭頸部アルミノックス治療のPhase 1/2a試験3)(RM-1929-101試験)では奏効率43%,我々の研究4)では奏効率89%,頭頸部領域のQOL評価項目であるSwallowingやTrouble with social eatingにスコアの改善傾向が認められた.これは,咽頭内腔の再発病変が原因で食事摂取が困難となっていた患者が頭頸部アルミノックス治療による局所制御により通過障害が改善され食事摂取が容易に可能となったことなどが影響している可能性がある.このようにQOLは低下せず,局所制御の可能性が期待できる病変に対しては,薬物療法の前に頭頸部アルミノックス治療を優先することでより良い予後につながる可能性が高い.一方,頭頸部アルミノックス治療でQOLが低下し,薬物療法へ移行できないような状況が想定される場合では薬物療法を優先すべきである.このように頭頸部アルミノックス治療の選択において,QOLを低下させずに施行が可能かを判断することが非常に重要な因子である.

まとめ

切除不能な再発転移頭頸部癌のシークエンス治療の確立には,局所制御によるQOLの維持を考慮した戦略が重要である.QOLの低下が想定されず,治療適応があれば頭頸部アルミノックス治療という選択肢を積極的に使っていくことが望ましい.知見を蓄積して適切なシークエンス治療を確立することで,最終的には,頭頸部癌の生存延長につながる可能性がある.

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講演料(楽天メディカル株式会社)

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