2025 Volume 45 Issue 4 Pages 398-408
光音響(photoacoustic: PA)イメージングは光学イメージングの高コントラストと超音波イメージングの深達性を組み合わせた技術であり,レーザー波長の調整により特定の組織や病変を高い感度と特異性で識別することができる.この技術は,手術中に正確な組織の位置や状態をリアルタイムで把握することを可能にし,治療の精度と安全性を大幅に向上させることができる.さらに,PAイメージングとロボット工学を統合することにより,これらの利点をさらに拡張し,より効果的で安全な治療介入を実現することが期待されている.
Photoacoustic (PA) imaging is a technology that combines the high contrast of optical imaging with the deep penetration of ultrasound imaging. By adjusting the wavelength of the laser, it can identify specific tissues and lesions with high sensitivity and specificity. This technology enables the real-time determination of the precise location and condition of tissues during surgery, significantly enhancing the accuracy and safety of treatment. Furthermore, integrating PA imaging with robotics is expected to extend these advantages further, enabling more effective and safer therapeutic interventions.
画像ガイドを用いた治療介入は臨床現場での重要性が高まっており,低侵襲で良好な手術を実現する.イメージング技術としては超音波(US),コンピュータ断層撮影(CT),磁気共鳴画像法(MRI),核イメージングが代表例として挙げられるが,画像ガイドという目的においてそれぞれに長所と短所を有している.手術中に得るべき情報は手技や疾患によって異なるが,必要な情報がリアルタイムに得られない場合,治療の精度や安全性が低下するリスクがあるため,各イメージング技術の進化およびその適切な選択が重要となる.光音響(photoacoustic: PA)イメージングは,手術のガイダンスに用いるイメージング技術として近年注目を浴びており,様々な研究開発が行われている.PAイメージングはパルスレーザーを照射し,それを受けた対象が発する超音波を受信することによって描出を行う技術であることから1),光学イメージングの高コントラストと超音波イメージングの深達性という両方の長所を兼ね備えている.特に照射するレーザー波長を変化させることによる分光PAイメージングを行うことで特定の対象を高感度・高特異度で識別できる点も特筆すべき特徴である.組織の吸光度特性は血中酸素飽和度,血流,分子特性等によって変化するため,分光PAイメージングを活用することで各種機能イメージングを行うことも可能となる.これにより,組織とカテーテルの正確な位置関係や,アブレーション治療中における組織の状態,詳細な血管分布などといった画像ガイドにおいて重要な情報を術者に提供することができる.このような強力なメリットから,PAイメージングに大きな注目と期待が寄せられているが2,3),いくつかの技術的な課題や限界も存在している.例えばUSイメージングと比較しても深さ方向の画角が比較的限られることやレーザー装置が必要になるという点などは臨床での幅広い利用に向けて障壁となっている.一方で,直近の各技術の進歩やPAイメージング領域での標準化に向けた取り組みなどにより,臨床への応用に向けて大きな前進があることも事実である.
また,手術ロボットは近年臨床応用も含めて急速に普及・発展を続けており,それ単独でも大きな価値を発揮しているがPAイメージングとの統合によってより高い治療効果および安全性を実現できる可能性について活発に提案がなされている.あるいは,一般的なロボットアームなどを活用することでPAイメージングの可能性をより引き出すアプローチや弱点を克服するための提案も数多く存在する.
本章では,PAイメージングに基づく画像ガイド下の治療介入およびロボット技術との統合における様々なアプローチについて検討することでPAイメージングがその強みを発揮し,臨床をどのようにサポートできるかについて考えることを目的とする(Fig.1).特にPAイメージングが組織の特徴を描出する原理と,どのようにして手術中に安全性を担保しながら治療支援を行うかに焦点を当てる.加えて,特定の治療法に特化して開発された装置の事例を紹介し,それらを最新の光音響イメージングと併せて画像ガイダンスが臨床にもたらす価値の可能性について考察する.
Overview of photoacoustic image-guided intervention. (Left) Development of customized photoacoustic devices for each application, (Right) Examples of photoacoustic-based functional imaging.
生体組織は吸収する光波長にそれぞれ特徴があり,これを利用することでPAイメージングは組織の種類を区別することが可能となる.組織の吸光度に影響する要素として,内因性のもの(例:ヘモグロビン,脂肪,メラニン)4,5)と外因性のもの(例:造影剤,金属ナノ粒子)6,7),そして各治療の結果としてもたらされる吸光度の変化(例:熱アブレーションによる壊死組織の生成)8-13)などが挙げられる.以下では,これらの吸光度特性をPAガイダンスの基本的な概要と,臨床での応用例について述べる.
2.1 内因性組織評価先述の通り,PAイメージングは吸光度特性に基づいて生体組織の特徴を評価することが可能であり,手術中に解剖学的構造を正確に識別し,区別することができる.これにより手術中の精密なガイドが可能となり,意図しない組織へのダメージやミスの可能性を減らすことができる.例えば内視鏡を使用する腹腔鏡手術においては,神経や血管を選択的に描出することによってその損傷防止に寄与している.腹腔鏡手術は従来の開腹手術に比べて低侵襲性などのメリットが多いものの14),内視鏡カメラでは描出が難しい組織表面下を走る血管や神経などを傷つけるリスクがある.血管損傷や神経損傷は典型的な有害事象であり15-17),場合によっては素早い開腹手術への切り替えが必要となる.画像によるリアルタイムの画像支援として超音波イメージングは広く用いられているが,血管や神経,その他の軟部組織を識別するうえではその限界も指摘されている.ドップラー超音波によって血管の位置は選択的に描出可能なものの,神経など動きを伴わない対象を特定することは現時点でも容易ではないとされる.これに対して,PAイメージングは複数のレーザー波長を照射することでこれらの組織も選択的に描出できる15-17).このPAイメージングの効果を検証するための試験として,組織表面下にある血管や神経位置を特定することを目的として生体組織に対して分光PAイメージングを実施した.腹腔鏡用の超音波プローブにPAイメージングのための光ファイバーを搭載したシステムと皮膚を取り除き筋肉層を露出させた状態のラット献体を準備した.Fig.2に示されるように神経と血管が視覚的に確認できるが,分光法に基づいたアルゴリズムを使用することでPAイメージングによってこれらを識別することを試みた.この際,酸素化・脱酸素化ヘモグロビンを血管検出,脂質を神経検出の代表要素として想定し,それぞれの吸光度特性に照らし合わせることで識別を可能にしている.
Spectroscopic photoacoustic tissue characterization highlighting neurovascular anatomy on ex-vivo model18).
Fig.2右上段に示されるように,700 nm波長のレーザー光を使用することで組織の解剖的特徴を捉えること成功している.さらに他の波長を使用したPAイメージングを行うことで,血管(Fig.2右中段)や神経(Fig.2右下段)といった特定の対象位置を特定可能となる.ヘモグロビンの信号は酸素化および脱酸素化の状態両方を考慮して計算しており,組織の表面から約8.69 mmの深さに大きな血管を特定している.さらに脂肪を対象とすることで神経束領域を強調することに成功している.本実験に,神経や血管を選択的に識別し,それぞれを強調することができるというPAイメージングの有効性を示していると言える.
2.2 外因性分子イメージングPAイメージングを用いた組織特性評価の別のアプローチとして造影剤等を用いた外因性分子イメージングがある6,7).すでに述べたような組織それ自身の吸光度特性を利用した内因性のPAイメージングも有効であるが,周囲の組織と比較して吸光度特性が乏しい組織(例:腫瘍)に対しては組織自身の吸光度特性に依存したPAイメージングによる視覚化は困難となる.このような場合,外部から色素体を造影剤として使用することが効果的である.外因性分子イメージングは,特定の細胞プロセスを標的とするために外部から投与される分子やプローブを活用したイメージング技術であり,これらのプローブは特定の分子に結合するように設計されている.腫瘍治療においては正常細胞とがん細胞の識別が容易でない場合も存在するが19),外因性分子イメージングにより細胞プロセスの視覚化および病理状態の識別が可能となり,特定の組織や構造の可視性の向上およびそれに伴う手術精度の向上等を期待することができる.このような利点から,本技術はがん診断,ドラッグデリバリー,疾患モニタリングなど多岐にわたる分野で様々な応用がなされている.分子PAイメージングは,分子や細胞プロセスの可視化を可能にすることでこれまで医療診断・研究の分野に大きな変化をもたらした.疾患の研究,治療のモニタリング,創薬を大きく推進できる可能性を秘めており,今後も新しいプローブやイメージング技術の開発に伴って外因性分子イメージングは生物学や病気の理解を深める役割を果たし続けることが期待される.腫瘍を標的としたイメージングは典型的な応用例の一つであり,各標的腫瘍に合わせて造影剤のカスタマイズが可能であるため,様々な種類の標的に対して応用が薦められている20).脳腫瘍領域における例としては,Wuらが神経膠腫を標的としたナノ粒子の可能性を調査しており21),乳がんについてはWilsonらが抗体を標的としたインドシアニングリーン(ICG)を用いることで正常な乳房組織と乳がんとを識別している22).
2.2.1 前立腺がんを標的とした分子PAイメージングここから具体的な例を考えながらPAイメージングの可能性について検討していく.前立腺がんは男性のがん関連死亡原因の代表例であるが,効果的な治療を行う上で早期発見が重要となる.この目的のために,前立腺特異的膜抗原(prostate specific membrane antigen: PSMA)を選択的に標的とするPA造影剤が登場している.PSMAは前立腺がん細胞の表面で過剰発現するタンパク質であり,がんイメージングのための標的として有望視されている23,24).実際に,Dograらは2種類の異なるPSMAを標的とした造影剤を使用し,生体外環境で前立腺がん細胞を識別したことを報告している25).PSMAを用いた別の例として,生体内での変化を時系列的にモニタリングした研究も報告されている26).Fig.3に示されるように2)腫瘍が陽性の領域では造影剤を注入してから24時間後も蛍光を示しているのに対し,陰性(コントロール)領域では24時間経過タイミングで蛍光が失われた.この結果はPAの腫瘍識別能力を示す例であると共に,このような時系列データを取得できることは非侵襲的かつ撮像に長い時間を要しないPAイメージングの強みを示す例であるとも言える.
In-vivo demonstration of tumor-targeted photoacoustic contrast agent. The targeted contrast agent remains enhancing tumor contrast after 24 hours since injection2)
造影剤には先述のような位置特定の役割に加え,その濃度情報を介してターゲット部位の性質や時系列的な情報を引き出すという役割も存在する.ターゲット部位での造影剤濃度を定量化するにあたって一般的なアプローチは造影剤が放出するPA信号の強度と濃度の間に線形の相関を想定することで得られた信号強度から濃度を推定する方法である22).一方で,信号強度と濃度が非線形な関係を示す造影剤も存在しており27),線形相関を仮定する手法の限界もBorgらによって指摘されている.この課題に対する解決策の一つとして近年ではDeep Learningを用いた手法も研究が進められている.例としてCaiらは分光PAデータを入力として酸素飽和度とICG濃度を同時に推定するためのニューラル・ネットワークを報告しており26),Durairajらは教師なし学習を用いた分光PA技術を提案している28).別の例では,分光PA技術を応用することでPSMAを標的とした造影剤の濃度推定が進められている29).対象とされた造影剤は非線形な信号強度と濃度の関係を示しているが,濃度推定誤差が提案手法では平均1.80 μMであるのに対し,従来の線形関係を想定した手法では平均15.89 μMとなることが報告されている.さらなる検証は求められるものの,これらの濃度推定手法は有望なアプローチと言える.
2.3 熱アブレーション治療モニタリングPAを使用した組織特性評価は,熱を用いたアブレーション治療のモニタリングにも活用できる.熱を用いたアブレーション治療ではターゲット組織に熱を導入し損傷を与えることが目的であるが,治療が不完全,あるいは過剰に行われた場合,それぞれ完全な治療効果が得られない,術中・術後の合併症に繋がる等のリスクがあり治療を正確に行うことは重要となる30-32).PAを用いたアブレーションモニタリングでは組織に熱を加えることによって組織のPAスペクトラムに変化が起きることを想定しており,これを根本原理としている.このスペクトラム変化の典型例は赤身肉を熱調理した際に色が変化する現象が関連していると考えられており,これは筋細胞に酸素を蓄えるタンパク質であるミオグロビンに含まれる鉄の原子が酸化することによって起こる33).このようなスペクトラムの変化を分光PAによって時系列的に追跡することで治療過程をリアルタイムに把握でき,医師がより良い判断・操作を行えるようサポートすることが期待される.ラジオ波(RF)アブレーションは,PAイメージングを用いてモニタリング可能な治療の一つとして知られている.RFアブレーションは,電流によって標的を熱的に治療する低侵襲な治療法であり不整脈や腫瘍治療などに広く使用されている.一般的なアブレーション治療と同様にRFアブレーションにおいても術中の正確なモニタリングが重要となる.MRIやCTが熱による壊死組織形成の術後評価に用いられることがあるが,どちらもリアルタイム性に課題があり,術中での応用に関してはまだ初期段階にある.これまでにRFアブレーションのモニタリングにPAイメージングを応用した例が複数報告されており,アブレーション前後のPAスペクトルの変化を捉えることでアブレーション領域の可視化が試みられている8).現時点,PAスぺクトルの変化が確認されている部位の例としては心臓,肝臓,脳(灰白質)などが挙げられる12,13,34).それぞれの部位に対してより詳細な検証が必要ではあるが,このようにPAイメージングによるアブレーションモニタリングは広範な対象に使用できる可能性を持つ点も特筆すべき点である.以下にいくつかの報告についてより詳細に紹介する.
Gaoらはすでに提案されていた二値的にアブレーション領域を判定するアイデアを基とし,連続値でアブレーションの進行度合いを定量可能にすることを目的としてNecrotic Extent(NE)と呼ばれる指標を提案している.NEはアブレーション領域と非アブレーション領域それぞれからのPA信号強度の和でアブレーション領域からのPA信号強度を割ることによって定義され,NE = 0,NE = 1がそれぞれアブレーション治療前,アブレーション完了後に対応する12).NEは0から1の連続値としてPA画像の各ピクセルで計算できるため,術者に対してはカラーマップとして視覚化を行うことができる.本コンセプトに対しては豚モデルを使用した生体内実験が行われ,拍動する心臓表面に対するアブレーション組織の評価を行っている.組織スペクトラム分析のためにレーザー波長は740,760,780 nmが選定されている.本実験においては心臓の拍動を伴うため,得られた画像フレームの中から心拍周期を考慮して適切なフレームのみを採用するアルゴリズムを使用しているため,拍動による画像への影響を抑制している.NEカラーマップは想定したアブレーション部位を治療が施された領域としてより1に近い値で示しており,他の殆どの領域はアブレーションされていない領域として表示されこれは想定と矛盾しない結果となっている(Fig.4).
In-vivo demonstration of spectroscopic photoacoustic guidance in cardiac radiofrequency ablation. The ablation-induced lesion was detected and highlighted on the beating heart34)
先述の通り,同様のコンセプトが脳組織に対しても検証されており,生体外での実証実験が報告されている(Fig.5).この例ではヤギの脳組織表面にある灰白質部分に対してアブレーションを行い,それを分光PAによって分析している.心臓などの例と同様に治療後の部位はその色に変化が見られ(Fig.5b),分光PAでの計測結果としても現れている(Fig.6a).計測した例の中の一例に対してNEカラーマップの作成を試みたところFig.6bに示すようにアブレーション領域と想定される部分が高いNEを持つという他の部位と同様の傾向が見られた.
(a) The diagram of the experimental setup involving the photoacoustic (PA) system and the ablation device, (b) Top view of the prepared goat brain with partial ablation13).
(a) Collected spectra from ablated and non-ablated regions, (b) Generated necrotic extent (NE) map13).
手術支援におけるPAイメージングの有用性は示されつつあるが,この技術を実際の医療現場に効果的に組み込む事を考えた場合,適切なイメージング機器の設計と選択も重要な観点となる.この際,特に考慮すべきは光の減衰が音響信号の減衰に比べて著しく大きく,超音波イメージングと比較して組織内の深達度が大幅に制限される点である.このためレーザー照射と超音波信号の受信を行う位置の設計が極めて重要になる.例としては,独立した光ファイバのみを体内に送り,体表面等で超音波信号を受信するという方法などが提案されている35-37).この方法では光の減衰に関する制約を回避しつつ,超音波信号の深達度の利点は生かすことができるため,有効なアプローチと言えるが照明領域が限定されることや,ファイバとトランスデューサのアライメントが容易でないなどの課題がある.特にアライメントの課題に対応するため,USトランスデューサのイメージング平面とレーザーによる照明領域が一致するように設計時から工夫された低侵襲のPAデバイスが提案されており,サイドファイアリング方式はその一例である.本セクションでは,光拡散および反射の原理を活用した2種類のPAデバイスを紹介する.
3.1 拡散光ファイバによる小型PAプローブPAデバイスを小型化することにより限られた空間内でプローブを操作することができ,それにより最適な視野を術者に提供することができる.Fig.7(左)は光拡散ファイバを採用したサイドファイヤリング方式のPAデバイスであり,ファイバと超音波プローブの統合には3Dプリントした部品を使用している.また,同様のコンセプトでさらに直径を4 mm以下まで小型化したPAカテーテルも提案されている(Fig.7(右)).ここで使用している光拡散ファイバはエッチングにより実現しており,シリカコアとポリマーのクラッドで構成される光ファイバのポリマー部分に加工を施している36).したがって,エッチングの有無によって所望の指向性を実現することが可能となる.
Miniaturized photoacoustic probes using diffusing fibers18).
PAイメージングは手術支援の領域で高いポテンシャルを示しているが,他の医療イメージング手法と同様に弱点もある.そのため,PAに限らず複数の医療イメージング手法を併せて使用することが重要となる.先にも述べた通り,PAイメージングは光減衰により視野の広さに課題があり,超音波イメージング自体もMRIやCTのような全身画像を取得できる手法に比べて視野が限られる.このことは大きいターゲットを扱う場合やターゲットとその周辺組織の位置関係を考慮しながら治療を行う際に重要となる.このような背景から,PAデバイスをMRIなどのイメージング手法と互換性を持たせることが重要となる場合がある.例としてMRIに対する互換性を確保することを考えた場合,磁場,磁場勾配の変化,ラジオ波パルスなどMRIの特性に起因する課題が存在する.これらの特性により,PAデバイスにおいて磁性材料の使用が困難になり,非磁性金属であっても使用を最小限にすることが求められる.ここで非磁性金属の制限は発熱やMRI画像内のアーチファクト等の問題を防ぐために必要となる.MRI対応デバイスとして提案されている経直腸PA/USデバイスを例にとって紹介する.本デバイスはMRI対応PA/USイメージングプローブとMRI対応の駆動モジュールを備えている.設計においては先述のMRI対応要件を満たすため,磁性材料を避け,非磁性金属の使用も抑えられている.またサイドファイヤ方式とMRI対応を両立させるため,金属を用いない誘導体ミラーを組み込み,レーザー光と超音波の両方を反射する機構となっている.本デバイスの検証実験がPA/USデバイスをMRIスキャナ内に設置した状態で実施されている.実験では大きく,1)PA/USイメージングをMRI内で実施できるか,2)PA/USデバイスが設置された状態でMRI画像が適切に取得できるか,の2点に着目しており,ターゲットとしてPAイメージング用のICG溶液,MRI用の造影剤,そしてこの2つの溶液の混合物を採用している.結果として,USとMRIはチューブの構造をそれぞれ抽出することに成功しているが3つの溶液を区別することは難しい(Fig.8).一方で,PA側併せて使用できることによりPA造影剤を含むチューブを視覚化することに成功している.この例の場合,3つのイメージングが並行して実現できることにより,PAのリアルタイム機能イメージング,USのリアルタイム構造イメージング,MRIの全体イメージングといったそれぞれの長所を同時に活用することができ,PA/USデバイスをMRI対応化させるメリットを示す一例となっている.
Mirror-reflecting side-firing photoacoustic imaging device. Tri-modal imaging results with tube phantom containing three contrast-enhancing solutions
(image from Murakami et al. In-bore MRI-compatible Transrectal Ultrasound and Photoacoustic Imaging. Last Accessed on June 28, 2024. bioRxiv. 2023; 2023.11.27.568947. https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2023.11.27.568947v1).
以上の例のように,MRIに代表される他のイメージング手法とPAイメージングを組み合わせることにより,PAイメージングの拡張性と互換性を強化し,疾患の診断と治療の安全性・有効性の強化が期待できる.
3.3 ロボットシステムへの組み込みロボット支援手術は近年急速に医療現場に浸透してきており,医師が複雑な手技をより精密かつ容易に行えるよう支援することが基本的な役割である.現在市場に登場している代表的な腹腔鏡ロボットシステムには,ダビンチサージカルシステム(インテュイティブサージカル合同会社,東京都港区)38),センハンス・デジタル・ラパロスコピー・システム(アセンサス・サージカル・ジャパン株式会社,東京都品川区)39),HugoTM手術支援ロボットシステム(コヴィディエンジャパン株式会社,東京都港区)40),そして国産ロボットとして注目を集めているhinotoriTM(株式会社メディカロイド,兵庫県神戸市)41)などがある.本節では,ダビンチシステムを用いた腹腔鏡下PAイメージングの実装と,手術支援のための具体的なPA情報処理について述べる.Fig.9に示されるように,ダビンチリサーチキット(dVRK)(米 Intuitive Foundation)42)のアームの一つに対して先述のPAプローブが統合されており,標準的な鉗子ツールは直径が8 mmであるが,直径10 mmのプローブに対応できるよう調整が施されている.PA画像の視野とダビンチシステムの内視鏡カメラとの間の位置・姿勢関係を3次元的に捉えるために4つのArUcoマーカーがプローブに配置されており43),PA情報をダビンチシステムの映像画面へ投影することを実現している.ここではPAを併用することによって組織表面下の血管系を描出し内視鏡視野に追加情報として表示が行われている(Fig.9).内視鏡画面内の中心には開発したPAプローブとダビンチシステムの鉗子を確認することができる.
ダビンチのような手術用ロボットとの統合だけでなく,より汎用的なロボットアームに対してPAイメージングを統合する試みも報告されている46).汎用的なロボットをスコープにいれることによって臨床現場でのコスト,サイズ,導入の難易度などの観点におけるハードルが大きく下がることが期待できる.さらに手術ロボットのように特化型のロボットではないため,アームの移動範囲やソフトウェアの開発において大幅な柔軟性も期待できる.一例として,汎用ロボットアームにPAイメージングデバイスを統合した肝臓のスキャンニングを紹介する(Fig.10).これは肝虚血・再灌流障害リスクを軽減するための移植前スクリーニングへの応用として開発されたものであり47),分光PAイメージングを活用することで肝臓内の酸素飽和度を測定でき,ロボットアームに統合されていることから複数のPAイメージをつなげて肝臓全体をスキャンすることができる点が特徴である.この例に代表されるように,汎用ロボットアームとの統合により,診断能力の向上,臨床応用における術前評価の改善などが期待される.
Robot-assisted wide area photoacoustic system47).
ロボット工学の観点から見れば,PAイメージングの機能を統合することはロボットに対して新たな「目」を与えることに相当し,ダビンチシステムの例で示されるようにロボットがより精密・安全な手術を行うことを支援する(「PA→ロボット」と表記).一方で,汎用アームの例のようにロボットアームがPAイメージングの能力を拡張する役割を果たしている点も併せて意識することが重要である(「ロボット→PA」と表記).このように両者の統合は一方的でなく相互に影響し合っており,この相互作用を意識しながら,PAイメージングとロボット工学を統合するメリットと留意事項について以下のように整理することができる.
4.1.1 期待されるメリット- PA→ロボット
○ 新たなリアルタイム情報提供による治療・診断の有効性・安全性向上
■ 解剖的情報:
● 血管・神経位置情報,組織形状など
■ 機能的情報:
● 腫瘍悪性度,酸素飽和度,治療進行状況,温度など
- ロボット→PA
○ PAプローブの位置・姿勢情報の数値的記録・制御によるPAの機能拡張
■ 画角拡大:
● PA画像と取得位置情報の照らし合わせによる仮想的な画角拡大
■ 画質向上:
● 複数PA画像を使用した画質向上アルゴリズムの適用(Synthetic Aperture Focusingなど)
■ 3次元イメージング:
● PA画像の組み合わせによる2次元画像からの3次元ボリュームデータ生成
■ 経過モニタリング:
● 数値位置情報に基づきプローブを正確に制御できることにより再現性のあるプローブ操作
4.1.2. 要求事項ロボットとPAイメージングの統合はそれぞれ単独では達成し得ないメリットを生み出すことが期待できる一方で統合実現に向けて以下に代表されるような要求事項が発生する.
- ハードウェア:
○ PAイメージングが高空間分解能を有することによるロボット側の高精度機構
○ アタッチメント等が基本的に存在しないことによる独自開発・カスタマイズ
- 座標系変換:
○ PAプローブの位置・姿勢を数値化するための機構追加
■ 磁気または工学トラッカー,ArUcoマーカーなど
- データ解析:
○ 2次元あるいは3次元のPA画像データのリアルタイム処理
■ 超音波イメージング領域で培われた高速化の知見活用など
- データ通信:
○ リアルタイム性を維持しつつ,ロボット・PA両者の機能に干渉しないデータ通信手法
■ Robot Operating System(ROS)の活用など
4.2 PA機器のカスタマイゼーションここまで紹介したようにPAイメージングが臨床において発揮する強みは組織の構造的・機能的な情報を提供する能力に由来しており,適切に応用によって大きなメリットをもたらすことが期待される.一方で,多様な臨床応用においてPAイメージングがその力を発揮するためには各応用先における要件を満たすためのカスタマイズについて検討する必要がある.PAデバイスのカスタマイズは各疾患そのものに適合させる目的はもちろんのこと,これまでに紹介したような他のデバイスとの統合や他のイメージング技術との併用という観点でもメリットが期待できる.前者の場合,例えば既存のアームに適合するようなアタッチメントを独自に用意することや,それぞれの機器から得られるデータを融合するためのソフトウェア開発も広義のカスタマイズと捉えられる.一方,後者の場合,MRI対応の例でみたように別のイメージング技術が使用している物理現象との相性を検討する事が重要となる.本セクションではPAデバイスカスタマイズのメリットと課題についてその全体像を簡潔に示す.以下のような点を検討することで,カスタマイズがもたらす影響をバランスよく評価し,適切な意思決定につなげることを目指す.
最初に明らかなメリットとして,市販のデバイスではなくカスタマイズを行うことで,材料やサイズの選択性,ハードウェア互換性,ソフトウェア実装性といった様々な要素において高い柔軟性を実現することができる.これにより,特定の研究要件に合ったデバイスを用意できるようになると同時に,時には市販品では実現できないような実験デザインを考えることが可能となり,臨床応用・研究活動における競争力を高めることが可能となる.また,必要に応じてデザインやソフトウェアを自由にアップデートできる点も大きな利点の一つであると言える.加えて独自の装置を検討することで知的財産の確保につながる可能性があり,それによって新たな研究資金の獲得や社会実装を見据えた企業設立などの際に大きな強みとなる.
次にカスタマイズの課題について検討する.まず,実際の研究に導入する際には市販製品を利用する場合に比べ,より長い立ち上げ期間が必要となることが一般的である.求める機能が既存の製品で実現できる場合,その製品を選択するほうが効率的な選択肢となりうる.さらに,設計やプロトタイピングのためのコストは一般に高価となる.別の観点からの課題として,カスタマイズされたデバイスは基本的にサポート体制を含めた信頼性が低く,スケーラビリティが低い点などが挙げられる.当然ながら多くの場合,カスタマイズを行った場合は購入した部品を除いて信頼性が保証されていない.この問題そのものが研究スケジュール全体のリスク要因となり,遅延等に繋がる可能性を考慮にいれる必要ある.さらに,カスタマイズされたデバイスの製造プロセスには大量生産される市販品に見られるような生産の最適化が行われていないことがほとんどのため,多くの同様の機器が必要となった場合に問題が生じる可能性がある.例えば,臨床データ収集のために相当数の医療関係者にデバイスを配布するなどの目的でカスタマイズされたデバイスを大量に生産することは一般に困難であるが,市販デバイスを使用した場合はこの問題を回避できる可能性が高い.
PAイメージング技術は,その機能イメージング能力,リアルタイム性,そして解像度の高さから手術ガイダンスのための技術として大きな可能性を秘めているこれらの特徴により,医師が十分な情報に基づいた判断を行えるようサポートし,手術精度の向上および合併症リスクの低減に貢献することが期待される.ロボット工学技術とPAイメージングを統合することで相互作用によりそれぞれの強みが拡張し,弱みが補完できる可能性についても述べた.また,PAイメージング装置のカスタマイズを選択肢とすることで,この技術を既存の医療機器や画像診断装置と統合し,マルチモーダルイメージングや包括的な組織特性の解析へ繋げることも可能となる.一方で,深達度の制限,他のイメージング手法との統合における課題,コスト,人材の観点など臨床現場への普及においては注意深く考慮すべき要素も存在している.このような課題はありながらも研究者,医療従事者,技術者らの協働によりPAに関する技術は日々進歩しており,実際の臨床へのPAイメージングを導入するための最適化も進められている.PAイメージングの進歩は,外科治療に革命をもたらし,低侵襲治療のさらなる発展における一つの方向性を示すことが期待される.
本発表は,アメリカ国立衛生研究所(National Institute of Health (NIH))(課題番号「R01CA166379」,「R01CA134675」,「R01CA134675」,「R01DK133717」,「DP5OD028162」),Worcester Polytechnic Institute Transformative Research and Innovation, Accelerating Discovery(TRIAD),および,Gapontsev Family Collaborative Venture Fund Seed Grantの助成を受けたものです.
開示すべき利益相反はありません.