The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
In silico Evaluation Based on Tissue Optics for Picosecond Laser Treatment of Pigmented Lesions
Yu Shimojo Daisuke TsurutaToshiyuki OzawaTaro Kono
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2025 Volume 46 Issue 2 Pages 94-103

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Abstract

形成外科・皮膚科・美容外科でピコ秒レーザーが臨床応用されている.効果的な治療には,適切な照射エンドポイントの設定が重要になるが,レーザーによる皮膚反応は,照射条件だけでなく,スキンタイプや病変の空間分布によっても変動する.これらの要因を考慮したピコ秒レーザー生体作用の解析には,生体組織光学に基づくin silico評価が有効となる.本稿では,色素性疾患を対象として,ピコ秒レーザー治療のin silicoモデル,ヒト皮膚組織の光学特性値計測,計算機シミュレーションによる照射指標の設計,臨床研究との比較による妥当性評価に関する研究を紹介する.

Translated Abstract

Picosecond lasers have been used in plastic surgery, dermatology, and cosmetic surgery. While the appropriate setting of irradiation endpoints is crucial for effective treatment, laser-induced skin reactions vary not only with irradiation parameters but also with skin type and lesion distribution in the skin. In silico evaluation based on tissue optics is effective for analyzing the picosecond laser-skin interactions, taking these factors into account. This article reviews an in silico evaluation based on tissue optics for picosecond laser treatment of pigmented lesions, including an in silico model of picosecond laser treatment, measurement of optical properties of human skin, computational design of an irradiation indicator, and validation of in silico results by comparison with the results from clinical studies.

1.  背景

色素性疾患は,表皮の基底層のメラノサイトによるメラノソームの過剰生成,または真皮の樹状メラノサイトが異常増殖して生じる疾患である.これらの疾患は,メラニンの光吸収が高い可視から近赤外の波長と,標的構造の熱緩和時間より短いパルス幅のレーザーを使用することで,選択的に治療できる1).この理論が基礎となり,ロングパルスレーザー,Intense pulsed light(IPL),ナノ秒レーザー,ピコ秒レーザーなどのデバイスが色素性疾患の治療に応用されている2-5)

色素性疾患の治療戦略は,標的の構造と大きさ,組織内での深さ,照射エンドポイント,再発率を考慮して決定される.効果的な治療には,有効な照射エンドポイントを設定することが特に重要である.老人性色素斑や雀卵斑などの表皮病変の治療では,ナノ秒レーザーが効果的である.照射エンドポイントは,immediate whiteningを引き起こすために必要な出力として定義される6).しかし,アジア人の場合,表皮のメラニン量が多いため,周辺組織への光機械的な損傷が大きくなり,その結果,炎症後色素沈着が高い確率で発生する7).アジア人の表皮病変には,ロングパルスレーザーによる治療も効果的である.表皮の創傷治癒は再生であることから,ロングパルスレーザーによって基底層を剥離し,異常メラノサイトとケラチノサイトを除去できる8).パルス幅を基底層の熱緩和時間(1.6~2.8 ms)より短く設定することで,真皮への熱拡散を抑えて基底層に光熱作用を与えることができる.照射エンドポイントは病変が照射後にやや灰白色になる出力(軽微な水泡形成)として定義される6).ナノ秒レーザーより炎症後色素沈着の発生率が低く,同等の有効性が得られることが報告されている9).真皮病変の治療では,真皮は再生ではなく修復によって治癒するため,正常組織に損傷を与えず異常メラノサイトもしくはメラノソームを破壊することが必要となる8).メラノソームの熱緩和時間は約50ナノ秒であるため,ロングパルスレーザーによる真皮病変の治療は禁忌である.代わりに,ナノ秒と同等か短いパルス幅のレーザーが選択肢になる.この数十年間,波長694,755,1,064 nmのナノ秒レーザーが標準治療であると考えられている10-12).しかし,アジア人では,表皮のメラニン量が多く基底層に損傷を引き起こすため,合併症の発生率が高いことが依然として問題になっている13,14)

ナノ秒レーザー治療の安全性の改善に向け,波長532,730,755,1,064 nmピコ秒レーザーが臨床研究されている.これらのレーザーは,メラノソームに光を吸収させ,ナノ秒レーザーより効率良く熱を閉じ込める.そのため,ピコ秒レーザーは,周辺組織への熱拡散を抑えつつ,急激な温度上昇に伴う体積膨張によってメラノソームを選択的に破壊し,効果を得ることができる15).ただし,ピコ秒レーザーは,約30年以上の臨床実績があるロングパルスレーザー,IPL,ナノ秒レーザーと異なって症例数が限られており,明確な照射エンドポイントが確立されていない.現状,ピコ秒レーザーの照射エンドポイントは,ナノ秒レーザーを模してimmediate whiteningを利用することが多いが4),興味深いことに,この現象を生じない程度の低い照射フルエンスでも太田母斑や異所性蒙古斑に有効であったことが報告されている16).これは,ピコ秒レーザーの照射エンドポイントが観察可能な現象だけで定義できないことを示唆すると同時に,ピコ秒レーザー照射条件の更なる臨床的な比較検証が必要であることを意味する.しかし,臨床試験の統計的な評価手法に基づく性質上,比較検証に多大な時間やコストが生じることは避けられず,これは,術者による最適な治療法の選択や患者の利益の最大化に影響を与えざるを得ない.時間的に効率的で再現性の高い治療効果の評価手法が開発されれば,臨床エビデンスを補強し,有効な照射エンドポイントの設計を迅速化することが期待される.

ピコ秒レーザーを皮膚組織に照射すると,病変内のメラノソームが光を吸収し破壊される.このレーザーによる皮膚反応は,照射パラメータだけでなく,スキンタイプやメラノソーム分布にも影響を受け,病変組織の破壊程度や周辺組織の損傷が変動する.しかし,この現象は超高速であるため,組織内光分布やそれに随伴する物理現象を実験的に計測し,治療効果の差分を評価することは,現状の測定技術では困難である.この関係で,計算機モデリングとシミュレーションに基づくin silico手法が開発されている.この手法では,これまで物理空間で実施されていた前臨床試験や臨床試験を計算機上の仮想空間で再現し,物理的な実験の部分的な代替や実測困難なデータの補完を行う.これにより,迅速かつ低コストな医薬品および医療機器の臨床応用に向けた評価が実現できる.近年,確度の高いin silico手法が開発されるようになり,ステント治療やがん免疫療法の分野では,実際の臨床試験結果の再現や臨床試験デザインを支援できることが実証されている17,18).レーザー治療分野では,モンテカルロ法を用いた確度の高い組織内光伝搬シミュレーションが開発され,光線力学治療の照射計画システムの開発やレーザー焼灼術の前臨床試験の補完に向けた研究が活発に行われている19,20).色素性病変に対するレーザー治療においても,スキンタイプやメラノソーム分布を考慮したin silicoモデルが開発されている21-23).これらのモデルを用いた計算機シミュレーションにより,ピコ秒レーザーによる治療効果を定量的かつ再現性の高く評価することが期待される.

本稿では,レーザー治療の生体組織光学に基づく評価の事例として,色素性疾患に対するピコ秒レーザー治療のin silicoモデル,ヒト皮膚組織の光学特性値計測,計算機シミュレーションによる照射指標の設計,臨床研究との比較による照射指標の妥当性評価に関する研究を紹介する.

2.  色素性疾患におけるピコ秒レーザー治療モデル

ピコ秒レーザーは,周辺組織を損傷させずにメラノソームを破壊することができ,ナノ秒レーザーよりメラノソームの周囲に形成される空胞のサイズは小さい24).しかし,フルエンスを過剰に照射すれば,表皮や血管に損傷を与え,瘢痕や過度な炎症後色素沈着,炎症後色素脱失などの合併症のリスクが高まる.ピコ秒レーザーの光を吸収させる主要な標的はメラノソームであることから,正常組織の損傷を最小限に抑えて効果を得るには,メラノソームの破壊閾値フルエンスと同等なフルエンスに標的を暴露させることが必要となる.さらに,皮膚組織に照射されたレーザー光は,標的へ到達するまでに光吸収と光散乱を繰り返しながら組織内を伝搬する.このヒト皮膚組織の光学特性は,組織の種類やスキンタイプによって大きく変化する.すなわち,メラノソームを選択的に破壊するためには,標的の深さと組織光学特性を考慮に入れて照射条件を設定することが必要になる.このとき,入射フルエンスF[J/cm2]は,3次元ベクトルrを標的的メラノソームの位置,A[cm2]をスポットサイズ,I[1/cm2]を単位エネルギーがスポットサイズAで照射された際の標的でのフルエンスとすると,

  
Fλ,A,rIλ,A,r,μa,μs',g,nAHthλ(1)

で表される25)Hth[J/cm2]は,メラノソームの破壊閾値フルエンスであり,波長532 nm,パルス幅294 psで0.95 J/cm2,730 nm,246 psで2.25 J/cm2,755 nm,550 psで2.19 J/cm2,755 nm,750 psで2.49 J/cm2,1,064 nm,339 psで6.5 J/cm2であると報告されている25,26)Iは,モンテカルロ光伝搬計算で取得することが可能であり,照射条件だけでなく,組織の光学特性値(吸収係数μa,換算散乱係数μs',異方性因子g,屈折率n)によっても変化する.これらの光学特性値に,対象とする皮膚組織の数値を入力することで,スキンタイプが照射条件の設定に与える影響を加味できる.ここで,I·Aは,スポットサイズAで単位エネルギーを入射した際の標的でのエネルギーを表すことから,組織表面から位置rまでの光伝搬効率α[−]を定義した.αを式(1)に代入することで,式(2)が得られる.

  
Fλ,A,rαλ,A,r,μa,μs',g,nHthλ(2)

左辺は,入射フルエンスFで照射されたピコ秒レーザーが光伝搬効率αで組織内の標的まで伝搬した際のフルエンス,すなわち,標的での局所的なフルエンスを意味する.このモデルは,標的での局所的なフルエンスがメラノソームの破壊閾値フルエンスより大きくなる照射条件であれば,組織内の標的メラノソームを破壊できることを表している.この式を用いることで,標的の深さと組織光学特性に応じたピコ秒レーザーの波長,パルス幅,入射フルエンス,スポットサイズの関係を計算することができる.

3.  ヒト皮膚組織の光学特性値計測

ヒト皮膚組織内の光伝搬シミュレーションには,組織構造を反映した数値モデルが必要となる.皮膚組織は,表皮,真皮,皮下脂肪の3層モデルで表現されることが多い(Fig.1).各層の構造や光学特性は,スキンタイプや部位によって異なるため,レーザー治療のin silico評価のための数値モデルには光学特性値の違いを考慮に入れた解析が求められる.3層モデルでは,表皮,真皮,皮下脂肪の各層と血管の領域にそれぞれの光学特性値を入力し,数値モデルが作成される.ヒト皮膚組織の光学特性値は,これまで多くの文献で報告されているが,ほとんどがコーカソイドやアフリカンを対象としていた27,28).アジア人については,光吸収体等の濃度から推定した値が使用されているが,実測値が無いため,その妥当性を検証することは困難であった.アジア人の皮膚組織の光学特性値を実測し,実測値に基づく光伝搬シミュレーションを行えば,アジア人皮膚組織内の光分布の確度が向上することが期待される.そこで,本章ではアジア人皮膚組織の光学特性値計測を紹介する.

Fig.1 

Three-dimensional numerical model of human skin.

生体組織の光学特性値は,組織を伝搬した反射光や透過光を分光計測し,その計測結果と光学特性値を予測パラメータとした光伝搬計算の結果が一致することで,予測した光学特性値を真の光学特性値として決定するという間接的な手法がよく使用される.これは,生体組織は高散乱体であるため,入射光は多重散乱の影響を大きく受け,透過光や反射光の光量が変化することから光学特性値を直接計測することが困難なためである.本研究では,双積分球光学系による拡散光の分光計測と光伝搬モンテカルロ法に基づく逆問題解析(逆モンテカルロ法)を用いてヒト皮膚組織の光学特性値を計測している29).双積分球光学系による計測は,サンプル形状に関わらずサンプル中の同一点の拡散反射率や総透過率を同時に測定でき,幅広い波長域をカバーできるなどの特徴があり,生体組織の光学特性値計測におけるゴールドスタンダードとされている.逆モンテカルロ法は,広範囲な光学特性値の組み合わせに対して拡散反射率と総透過率を計算するため広波長域での光学特性値の算出に適しており,精度の高い解を取得できる.この計測手法の他にも,拡散光イメージングや空間周波数領域イメージングなど様々な手法でヒト皮膚組織の光学特性値は計測されており,詳細は他の文献を参照されたい30-32)

Fig.2にコーカソイド,アジア人,アフリカンにおける各皮膚組織層の吸収係数,換算散乱係数を示す.換算散乱係数μs'は,μs' = (1 − g) μsと表され,等方散乱近似における散乱係数となる.各層の吸収係数,換算散乱係数はともに波長の増加に対して減少する傾向がある.表皮の吸収係数は,コーカソイド,アジア人,アフリカンの順で大きい.メラニン濃度はコーカソイド,アジア人,アフリカンの順に増加するためと考えられる.一方で,真皮,皮下脂肪の吸収係数については,スキンタイプでほとんど差異は無いことがわかる.また,換算散乱係数についても,コーカソイド,アジア人,アフリカンで大きな差異は無い.これは,コラーゲンやエラスチンなどの散乱体のサイズや密度がスキンタイプで類似していることを示唆している.これらの結果は,ヒト皮膚組織の光学特性値におけるスキンタイプの差異は,表皮のメラニン濃度に大きく影響されることを示している.取得した光学特性値をFig.1に示す皮膚組織の各組織構造の領域に割り当てることで,組織内光伝搬シミュレーションで必要となる数値モデルを構築できる.3層モデルの他にも,皮膚組織の組織学的知見に基づいて,3層構造をより細分化した7層構造モデルや9層構造モデルが提案されている33).さらに,不均質な構造を考慮するために,光干渉断層撮影で取得した皮膚組織の画像から数値モデルを構築する手法も提案されている34).今後,実際の患者における皮膚組織のデータ解析を通じて,より確度の高い光伝搬計算を実現するヒト皮膚組織の仮想モデルが期待される.

Fig.2 

Comparison of absorption and reduced scattering coefficients of (a) epidermis, (b) dermis, and (c) subcutaneous fat between Caucasian, Asian, and African skins. The shaded areas and error bars represent the standard deviations. Figure was modified from Ref. [29].

4.  計算機シミュレーションによるピコ秒レーザー照射指標の設計

ピコ秒レーザー治療モデルを用いた計算機シミュレーションによって,ピコ秒レーザー治療における照射指標を設計できることを紹介する.光伝搬効率の計算機シミュレーションには,モンテカルロ法を使用する35).モンテカルロ法に基づく光伝搬シミュレーションでは,光を光子のような粒子の集まりと捉える.各光子は,微小球によって散乱され方向を変え,進行中に媒質により吸収されて,組織内を進んでいく.光子の散乱方向は,位相関数に基づいて確率的に決定される.光子の平均自由行程は,一様乱数から決定される.計算機内で膨大な光子の追跡を繰り返し,各点で吸収されたエネルギーからフルエンスを計算し,その空間分布を得る.この計算機シミュレーションにより,独自の光学特性を持つ複数の組織構造で構成された生体組織におけるフルエンス分布を計算することができる.シミュレーションでは,ガウス分布のパルス波形をもつコリメートビームが,皮膚表面の中心へ垂直に照射されると仮定し,ビームプロファイルを円形のトップフラットに設定する.病変組織による光吸収は,皮膚組織内の任意の深さに位置する単一のメラノソームが水中のメラノソームと同じようにレーザーを吸収すると仮定している.

Fig.3にスポットサイズを2,3,4 mmとした際の,それぞれ光伝搬効率分布αを示す.光伝搬効率のばらつきは,個人差や部位差に由来する各組織層のμaμs′の標準偏差を用いて推定している.レーザーは,放射状に拡散し,光伝搬効率は皮膚組織の深さが増加するにつれて低下した.深部への光伝搬効率は,波長が長くなるほど,スポットサイズが大きくなるほど,高くなった.しかし,波長532 nmでは,光伝搬効率が真皮で急激に低下し,スポットサイズ間で深さ方向への光伝搬効率の変化はほとんど観察されなかった.波長532 nmでは光散乱が他の波長と比較して非常に強く,入射光が表層で強く減衰されるためである.血管では血液の光吸収により,光伝搬効率が低下した.

Fig.3 

Spatial distributions of light propagation efficiency in the Asian human skin when (a) 532-nm, (b) 730-nm, (c) 755-nm, and (d) 1,064-nm picosecond lasers were irradiated to the skin surface for spot sizes of (i) 2 mm, (ii) 3 mm, and (iii) 4 mm. Figure was modified from Ref. [26].

Fig.4に,入射フルエンスの計算結果を示す.入射フルエンスは,標的メラノソームが深くに分布するにつれて増加する傾向があった.波長532 nmでは,血液の吸収係数が高いため,血管の位置でピークが現れた.基底層のメラノソームの破壊に必要な入射フルエンスは,メラノソーム破壊閾値フルエンスより低かった.これは,皮膚組織による後方散乱の影響を受けて,表層での光伝搬効率が増強されるためである.一方,標的が深くに位置するにつれて光伝搬効率が減少するため,真皮メラノソームの破壊に必要な入射フルエンスは増加した.波長532 nmでは光が散乱によって強く減衰されるため,入射フルエンスは組織深部で急激に増加したが,近赤外波長域では可視波長域より散乱が低いため,入射フルエンスの増加は緩やかであった.

Fig.4 

Incident fluence of (a) 532-nm, 294-ps, (b) 730-nm, 246-ps, (c) 755-nm, 550-ps, and (d) 1,064-nm, 339-ps lasers for spot sizes of (i) 2 mm, (ii) 3 mm, and (iii) 4 mm to disrupt melanosomes distributed at different depths in the Asian human skin. The vertical dotted lines at a depth of 0.1 mm indicate a boundary between the epidermis and the dermis. Figure was modified from Ref. [26].

Fig.5に表皮,真皮上部,真皮下部に位置するメラノソームの破壊に必要な波長,入射フルエンス,スポットサイズの関係を示す.波長532 nmの光では,スポットサイズを変更しても,表皮メラノソームの破壊に必要な入射フルエンスはほとんど変化しなかった.しかし,真皮以深への光伝搬効率はスポットサイズの減少によりわずかに低くなった(Fig.3a).波長532 nmの光は,メラニンだけでなくヘモグロビンにもよく吸収される.小さいスポットサイズを使用し,真皮以深の血管に到達する光量を減少することで,損傷リスクを低減できる.実際のところ臨床では,高出力な設定でなければ,血管損傷はほとんど見られない.波長1,064 nmの光は,理論的には表皮メラノソームを破壊することが可能であるが,組織透過性が高く(Fig.3d),血管損傷のリスクが高い.近赤外波長域の光で表皮メラノソームを破壊するには,波長1,064 nmよりメラニンの光吸収が高く,組織透過性が低い波長730 nmや755 nmを使用することが推奨される.真皮メラノソームの破壊では,波長532 nmの光は必要なフルエンスが非常に高くなるため,使用を避けるべきである.波長730,755,1,064 nmでは,スポットサイズを2 mmから4 mmに変更すると,入射フルエンスは,表皮のメラノソームでは20%,真皮上部のメラノソームでは30%,真皮下部のメラノソームでは46%減少した.スポットサイズが大きくなるほど,メラノソームの破壊に必要な入射フルエンスは低下した.真皮メラノソームの破壊には,波長730,755,1,064 nmのピコ秒レーザーを使用するべきであり,スポットサイズを大きくすると,スポットサイズ2 mmと比較して入射フルエンスを約半分に減少することできる.これは,スポットサイズを選択する際,病変の面積だけでなく病変の深さも考慮に入れることの重要性を示している.これらの結果は,組織の光学特性や標的の深さに応じて,ピコ秒レーザーの波長,入射フルエンス,スポットサイズを選択する際の数値的な照射指標を示している.

Fig.5 

Relationships between irradiation wavelength, incident fluence, and spot size of 532-nm, 294-ps, 730-nm, 246-ps, 755-nm, 550-ps, and 1,064-nm, 339-ps lasers when melanosomes are located at the epidermis (E, z = 0.1 mm), upper dermis (UD, z = 0.4 mm), and deep dermis (DD, z = 1.0 mm). Figure was modified from Ref. [26].

Table 1 

List of clinical studies for 755-nm picosecond laser treatment of dermal pigmented lesions. Patient information, treatment parameters, and clinical outcomes were extracted.

# Lesion type No. of patients Age
[year]
Ethnicity/
Skin type
Pulse width
[ps]
Fluence
[J/cm2]
Spot size
[mm]
No. of sessions Intervals Length of follow-up
[year]
Efficacy (>75% clearance) Complication
A Nevus of Ota 305 0–12 Asian/III, IV 750 2.83–4.07 2.5–3.0 1–6 3–6 months 3–5 134 patients None
B Nevus of Ota 15 0.4–29 Asian 550–750 5.25–6.37 2 1 NA 3/12 3.51±0.87
(5-point scale)
PIH 20%
PIHo 13%
C Nevus of Ota 9 24–70 Asian/III, IV 550 2.33–3.36 2.5–3 4.2 (mean) 6–8 weeks 6/12 9 patients None
D Nevus of Ota 86 3.6±2.6 Asian/III, IV 750 1.59–2.08 3.5–4.0 4–6 3–4 months 9/12–3 86 patients PIH 1%
E Nevus of Ota 6 1–19 Asian 750 2.49–3.25 2.8–3.2 1–2 NA 11/12–25/12 2 patients None
F Nevus of Ota 53 18–54 Asian/III, IV 750 1.59–6.37 2.0–4.0 <6 12 weeks 3/12 53 patients PIH 26%
PIHo 21%
G Acquired bilateral nevus of Ota-like macules 30 18–50 Asian/III, IV 750 4.07–6.37 2–2.5 3 6 months 6/12 23 patients PIH 28%
H Nevus of Ota 5 27.4
(mean)
Asian 750 4.07–6.37 2.0–2.5 2.5 (mean) 3.8 months (mean) 3/12 4 patients PIH 23%
I Nevus of Ota
Hori macules
5 NA Asian/III, IV 750 1.76–4.80 2.3–3.8 3–8 NA 6/12 3 patients PIH 20%

5.  臨床研究との比較による妥当性検証

開発したピコ秒レーザー照射指標の妥当性を評価するために,臨床研究で報告されている照射条件および治療成績との比較検証を行った.治療の対象には,臨床研究の文献が多く報告されている波長755 nmピコ秒レーザーを使用した真皮病変を選定した.Table 1に比較検証に使用した臨床研究の患者情報,治療条件,治療成績を示す36-44).全ての臨床研究において,患者はアジア人であり,多くはスキンタイプがIII,IVであった.新生児から成人まで幅広い年齢層の患者が含まれており,臨床研究によって年齢分布は異なっていた.多くの臨床研究で治療間隔は2ヶ月以上の期間が空いていたが,最終治療後からの追跡期間は臨床研究によって数ヶ月から1年以上とばらつきがあった.治療成績は,全ての研究で有効性が報告されていた一方,合併症(炎症後色素沈着,炎症後色素脱失,瘢痕)の発生率は,研究間でばらつきが見られた.Fig.6にピコ秒レーザーの理論的な照射条件と臨床研究で使用された照射条件の比較を示す.理論照射条件の範囲は,標的が真皮に位置する際の入射フルエンスから取得した.臨床研究A36,C38,D39,E40,I44の照射条件は,理論照射条件の範囲と概ね一致していた一方,臨床研究B37,F41,G42,H43の照射条件は,一部の条件が理論照射条件の範囲から大きく外れていた.臨床研究A,C,D,E,Iの結果では,合併症の発生率が低かったが,臨床研究B,F,G,Hの結果では他の臨床研究と比較して合併症の発生率が高く報告されていた.理論照射条件に対して過度な入射フルエンスの設定により,合併症の頻度が高くなったと考えられた.これらの結果は,理論照射条件によって,有効性が高く合併症の発生率が低い結果を説明できることを示しており,後ろ向きな比較から開発した照射指標の妥当性を実証している.本照射指標は,異所性蒙古斑のような再発リスクが無い疾患の治療において,有効な照射エンドポイントを提供する可能性がある.対象とする光吸収体は異なるが,刺青除去にも同様の理論が応用可能である.これまでに本指標で示した照射条件によって,合併症を発生せずに炎症後色素沈着を治療できたことが報告されている45).これは,開発した照射指標が照射エンドポイントの定義に活用できることを示唆している.一方,老人性色素斑や雀卵斑,太田母斑,後天性真皮メラノサイトーシスなどの色素性疾患は,再発リスクがあるため,異常なメラノサイトもしくはケラチノサイトを除去することが必要である.今後,メラノソームを含有した異常細胞の破壊に必要な照射条件を解析することで,再発リスクがある疾患に対しても数値的な照射指標を設計することが期待される.

Fig.6 

Comparison of theoretical irradiation parameters with clinical irradiation parameters for (a) 755-nm, 550-ps laser and (b, c) 755-nm, 750-ps laser.

6.  まとめ

本稿では,色素性疾患におけるピコ秒レーザー治療の評価において,生体組織光学に基づくin silico評価の事例を報告した.メラノソーム破壊閾値フルエンスと組織内光伝搬シミュレーションに基づく手法は,これまでに臨床報告されているピコ秒レーザー治療の有効性・安全性をレーザー生体相互作用に基づいて説明することが可能であり,数値的な照射指標の開発につながることを示した.本照射指標の実臨床での照射エンドポイントへの応用可能性を評価するには,従来の照射エンドポイントを対象群とした前向き比較試験が必要になるが,本照射指標の活用によって疾患別の治療戦略の再構築が可能となり,科学的根拠に裏付けられたピコ秒レーザー治療の実践に貢献すると考えられる.本稿で紹介したようなレーザー治療のin silico評価が治療効果の新たな評価手法として活用されれば,新規レーザー照射器の迅速な臨床応用や再現性および安全性の高いレーザー照射管理につながり,より効果的なレーザー治療の実現に貢献する基盤技術として期待できる.

利益相反の開示

第一著者と第二著者は申告すべき利益相反なし.第三著者は,株式会社ミルボンとの共同研究寄附講座に所属しており,株式会社ミルボンから研究費と寄附金,株式会社日本触媒から寄附金を受けている.第四著者は,シネロン・キャンデラ社,サイノシュアー社,Dr.キッズより講演料を受けている.

引用文献
 
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