昭和医学会雑誌
Online ISSN : 2185-0976
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原著
食道扁平上皮内腫瘍および表在型癌における毛細血管の動向
―内視鏡的所見を反映し得る病理組織学的因子の検索―
伊達 博三大池 信之斉藤 光次松尾 海落合 康雄野垣 航二保母 貴宏高野 祐一諸星 利男伊達 由子浜谷 茂治小風 暁村上 雅彦
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2011 年 71 巻 1 号 p. 64-70

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抄録
材料内視鏡的技術の進歩に伴い,食道癌初期段階,すなわち上皮内腫瘍や表在型癌を含むいわゆる食道表層性腫瘍性病変(SNLsE)の診断治療ならびに,適切な治療が可能となった.特に拡大・特殊光観察(NBI)は表在血管構造を視認することが可能であるという理由でその有効性が注目されている.そこで著者らは,SNLsEにおける毛細血管の動向について病理組織学的,および生物計測学的観察をすることによりNBIシステムの有効性を検討することとした.外科的に切除されたSNLsE,計16例より52病変を抽出し材料とした.HE染色の他,血管内皮マーカーであるCD31抗体を利用して免疫染色を施行,標本を作製し光学顕微鏡的観察を行った.食道癌取扱い規約に準じて非腫瘍性および腫瘍性病変を組織学的異型度とその深達度から,7群(G0~G6)に分類した.次いでその各々の病変部位につき,上皮厚(表面~上皮最深部までの距離),血管径および最浅血管位置(表面~最浅血管までの距離)について,光学顕微鏡下,マイクロメーターを利用し実測しその計測平均値を求め比較検討した.上皮厚計測値は,統計学的に組織学的異型度・深達度が増すにつれ有意に増大する傾向を示した(P for trend<0.0001).血管径に関し,上皮内病巣の異型度と浸潤病巣の深達度増加に従い,血管径平均値は増大し,正の関連性を認めた(P for trend<0.0001).最浅血管は,上皮内病巣の異型度増加にともない,より浅い(表面に近い)位置を示し,浸潤病巣においても,深達度が粘膜下浅層にとどまる群までは,順に浅くなる傾向が見られたが,統計学的に有意差は認められなかった.SNLsEにおいては,上皮厚と毛細血管の血管径は,組織異型度と深達度に従い増大する傾向にあった.これらの結果は,NBIを用いた深達度診断においての血管構造の変化像に矛盾しないものであった.以上より,毛細血管の動向は上皮の変化に随伴した変化であり,内視鏡的所見に浅在微小血管を観察することは,SNLsEの診断治療に有効であることが示唆された.
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© 2011 昭和大学学士会
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