昭和医学会雑誌
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71 巻, 1 号
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特集:消化器癌に対する低侵襲性手術
教育講演
原著
  • 小林 玲音
    2011 年71 巻1 号 p. 56-63
    発行日: 2011/02/28
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
    全身麻酔中の体温の低下により出血量増加,術後感染,周術期心筋梗塞など多くの合併症が発症する.従って,温風吹送式加温器や特殊な被覆類を用いて対処しているが,使用台数が制限され,操作が煩雑であるため常時施行するのは難しい.一方,術中に投与するだけで術中の体温の低下が軽減すると報告されているアミノ酸製剤の輸液は安価で,特殊な操作も一切不要なため簡便である.しかし,その投与によって血清インスリン値が上昇し,低血糖が発症する可能性が示唆されている.そこで,全身麻酔下に股関節手術が予定された39症例において,アミノ酸製剤を麻酔導入前1時間に輸液し,術中の低体温予防効果と血糖値の推移を検討した.対象は人工股関節置換術および回転骨切り術を予定された39名でアミノ酸製剤を5ml・kg-1・h-1で輸液した群(A群)と2.5ml・kg-1・h-1で輸液した群(B群)およびアミノ酸製剤非投与群(C群)の3群に対象患者を無作為に分けた.全群において麻酔導入前1時間に輸液を行ったが,A群は混合アミノ酸製剤(アミパレン®)を5ml・kg-1・h-1,一方,B群は混合アミノ酸製剤(アミパレン®)と酢酸リンゲル液(ヴィーンF®)を同時に2.5ml・kg-1・h-1ずつ投与した.C群は酢酸リンゲル液(ヴィーンF®)5ml・kg-1・h-1だけを投与した.食道温を麻酔導入直後から麻酔導入後120分まで測定し,血糖値,血清インスリン値,血清アドレナリン値,血清ノルアドレナリン値などはアミノ酸製剤投与前,麻酔導入直後,麻酔導入後15分,30分,60分,90分,120分に測定した.体温は3群において麻酔導入後より経時的に低下したが,低下度はA群で最も小さく(p<0.05),A群とC群との間には麻酔導入後15分から120分まで有意差を認めた.血清インスリン値は麻酔導入直後にA群とB群では著しく上昇した.その程度はA群では投与前値の15倍,B群では投与前値の5倍であった.3群における血糖値の推移は近似し,各測定時期の平均値は80-100mg・d-1であった.血清インスリンの増加にもかかわらず,全群において低血糖は見られなかった.血清アドレナリン値,血清ノルアドレナリン値には全測定期間中において3群に有意な差は認められなかった.股関節手術において,麻酔導入前1時間にアミノ酸製剤の輸液投与により,術中の体温低下を軽減でき,また,危惧された低血糖も起こさなかった.術中の低体温予防として,麻酔導入前のアミノ酸投与は有用と思われた.
  • ―内視鏡的所見を反映し得る病理組織学的因子の検索―
    伊達 博三, 大池 信之, 斉藤 光次, 松尾 海, 落合 康雄, 野垣 航二, 保母 貴宏, 高野 祐一, 諸星 利男, 伊達 由子, 浜 ...
    2011 年71 巻1 号 p. 64-70
    発行日: 2011/02/28
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
    材料内視鏡的技術の進歩に伴い,食道癌初期段階,すなわち上皮内腫瘍や表在型癌を含むいわゆる食道表層性腫瘍性病変(SNLsE)の診断治療ならびに,適切な治療が可能となった.特に拡大・特殊光観察(NBI)は表在血管構造を視認することが可能であるという理由でその有効性が注目されている.そこで著者らは,SNLsEにおける毛細血管の動向について病理組織学的,および生物計測学的観察をすることによりNBIシステムの有効性を検討することとした.外科的に切除されたSNLsE,計16例より52病変を抽出し材料とした.HE染色の他,血管内皮マーカーであるCD31抗体を利用して免疫染色を施行,標本を作製し光学顕微鏡的観察を行った.食道癌取扱い規約に準じて非腫瘍性および腫瘍性病変を組織学的異型度とその深達度から,7群(G0~G6)に分類した.次いでその各々の病変部位につき,上皮厚(表面~上皮最深部までの距離),血管径および最浅血管位置(表面~最浅血管までの距離)について,光学顕微鏡下,マイクロメーターを利用し実測しその計測平均値を求め比較検討した.上皮厚計測値は,統計学的に組織学的異型度・深達度が増すにつれ有意に増大する傾向を示した(P for trend<0.0001).血管径に関し,上皮内病巣の異型度と浸潤病巣の深達度増加に従い,血管径平均値は増大し,正の関連性を認めた(P for trend<0.0001).最浅血管は,上皮内病巣の異型度増加にともない,より浅い(表面に近い)位置を示し,浸潤病巣においても,深達度が粘膜下浅層にとどまる群までは,順に浅くなる傾向が見られたが,統計学的に有意差は認められなかった.SNLsEにおいては,上皮厚と毛細血管の血管径は,組織異型度と深達度に従い増大する傾向にあった.これらの結果は,NBIを用いた深達度診断においての血管構造の変化像に矛盾しないものであった.以上より,毛細血管の動向は上皮の変化に随伴した変化であり,内視鏡的所見に浅在微小血管を観察することは,SNLsEの診断治療に有効であることが示唆された.
  • 石原 里美, 有泉 裕嗣, 矢持 淑子, 塩沢 英輔, 佐々木 陽介, 瀧本 雅文, 太田 秀一
    2011 年71 巻1 号 p. 71-78
    発行日: 2011/02/28
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
    成人T細胞性白血病/リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma; ATLL)は, 臨床的にヒトT細胞好性ウイルス(human T-cell lymphotropic virus type-1; HTLV-1)感染細胞のモノクローナルな増殖を証明しない限り,組織形態学的には末梢性T細胞リンパ腫–非特定型(PTCL-NOS)との鑑別は困難である.しかし免疫組織学的にATLLとPTCL-NOSの発現に違いがあれば,HTLV-1の感染情報がない場合でも,両者の鑑別が可能と考えられる.1983年11月~2009年9月末までに昭和大学病院でWHO造血器・リンパ系腫瘍分類第4版に基づきATLL又はPTCL-NOSと診断された37例のホルマリン固定パラフィン包埋組織切片を免疫組織化学的に以下の抗体を用いて発現の違いを検討した.CD7,CD25,CD56,CCR4,TIA-1においてATLLとPTCL-NOS間で有意差が認められた.ATLL症例は全例でCD7の減弱が見られた.CD25はATLL症例の72%で陽性で,PTCL-NOSより有意に多かった(P=0.005).CCR4はATLL症例の72%で陽性で,PTCL-NOSより有意に多かった(P<0.001).PTCL-NOS症例はATLL症例に比べてCD56,TIA-1陽性例が有意に多かった(CD56,P=0.01; TIA-1,P=0.03).以上より,ATLLとPTCL-NOSを鑑別する上でCD7,CD25,CD56,CCR4,TIA-1の免疫組織化学検索が有用と考えられた.またATLLのCD25およびCCR4発現率は高く,ATLLの治療法として抗CD25抗体,抗CCR4抗体の有効性が期待された.
  • 池田 賢一郎, 嶋根 俊和, 卯月 彩, 杉本 茜, 森 智昭, 秋山 理央, 五味渕 寛, 小林 斉, 三邉 武幸
    2011 年71 巻1 号 p. 79-83
    発行日: 2011/02/28
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
    頭頸部癌に対し,化学放射線同時併用療法(以下CCRT)が広く行われるようになってきている.機能・器官・形態の温存の面から,手術的治療よりも患者のQOLを保つことが出来ると考えられているが,最近では治療後の合併症で日常生活に支障をきたし,必ずしも手術療法より患者のQOLが保たれているとはいいがたい面もある.これまでにわれわれは,CCRTによる治療を受けた患者に治療後の合併症についてアンケート調査を行い,治療後の口渇が患者のQOLを著しく低下させていることを報告している.今回対象を両側の大唾液腺への照射量が36GyのCCRTを行った20例(以下36Gy群)と,放射線単独(以下RT単独)治療を行った照射量が40Gyの15例とした.ガムテストを行った結果,36Gy群では,平均11.2ml,RT単独群では,平均6.0mlであった.検定の結果,36Gy群とRT単独群では唾液分泌量に有意差があるとはいえなかった.今回の検討では,放射線療法に化学療法を追加し同時に治療を行っても,治療後の唾液腺機能に影響を及ぼさない可能性が考えられた.
  • 桑島 淳氏, 阿部 琢巳, 谷岡 大輔, 佐々木 晶子, 山本 剛, 立川 哲彦
    2011 年71 巻1 号 p. 84-91
    発行日: 2011/02/28
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
    Stem cellは,自己複製能力やホルモン産生細胞へ分化する能力を有し,下垂体腺腫形成に関わる可能性が示唆されている.近年,Stem cellの能力を用いて新しい臨床応用の可能性が検討されはじめ,基礎研究としてStem cellの性質分析と細胞分化系譜を明確にすることが急務とされている.本研究は,各下垂体腺腫に含まれるStem cellのspecific markers発現を解析し,Stem cellの臨床応用への基礎研究として下垂体腺腫Stem cellの性状分析を行った.手術で摘出された下垂体腺腫から凍結切片を作成後,Laser Microdissectionを用いて腺腫細胞だけを回収した.Total RNA抽出後,RT2Profiler PCR Array Systemを用いてcDNAを合成し,ABI PRISM®7000 Sequence SystemでPCRを行った.PAHS-405A Arrayプレートに準じてspecific markersを検索し,正常下垂体組織RNAデータで補正後,ΔCT法にて解析した.神経形成に関わるNEUROG2は,機能性下垂体腺腫よりも,下垂体ホルモンを分泌しない非機能性下垂体腺腫で低値を表し,ホルモン分泌機能の働きが弱いことを明示した.下垂体特有のProp1,pit1の補助因子SOX2は,機能性下垂体腺腫で認めたが,非機能性下垂体腺腫では検出されなかった.非機能性下垂体腺腫では検出されなかったことから,非機能性腺腫はSox2の影響を受けずにホルモンを分泌しない細胞となることが明らかとなった.胚細胞の分化に関与する遺伝子ISL1は,機能性下垂体腺腫で検出されず,非機能性下垂体腺腫で検出されたことから,非機能性下垂体腺腫は,ラトケ嚢原基細胞Stem cellを有していることが明らかとなり,非機能性下垂体腺腫細胞のなかに未分化な細胞を有することが示唆された.下垂体腺腫細胞に含まれる下垂体Stem cell specific markers発現の検索を行った.機能性下垂体腺腫よりも非機能性下垂体腺腫で多くの未分化細胞の存在を認め,ホルモンを分泌しない非機能性下垂体腺腫にstem cell細胞が多いことが示唆された.Stem cell発現を調整する遺伝子をしらべることで,各下垂体腺腫に含まれるStem cellの存在を明らかとし,将来の下垂体腺腫遺伝子治療への臨床応用の可能性を提示した.
  • 加藤 晶人, 佐藤 啓造, 藤城 雅也, 入戸野 晋, 林 大吾, 鬼頭 昌大, 根本 哲也, 李 暁鵬, 林 宗貴, 成原 健太郎
    2011 年71 巻1 号 p. 92-101
    発行日: 2011/02/28
    公開日: 2011/09/01
    ジャーナル フリー
    来院時心肺停止(cardiopulmonary arrest:CPA)事例が救命されずに死亡した場合,死因を究明するには解剖が必要なことが多い.しかし,わが国の現状では監察医制度が完備した地域を除き,解剖はほとんど行われない.監察医制度が不備な地域の臨床現場で,来院時CPA事例の死因は既往歴や前駆症状,外表所見,画像所見を含む臨床データなどから推定されているが,これらのうち何が最も参考になるか,これらをどのように組み合わせて推定すべきか検証した報告は見当たらない.本研究では2007年9月1日から2010年8月31日までの3年間に昭和大学藤が丘病院救命救急センターへCPAで搬送され,死亡に至った1121例について臨床資料をもとに死因調査をやり直し,死因究明方法について検証した.同時に,法医学教室で扱った行政解剖例で前駆症状として頭痛を訴えていた内因性急死15例について死因,痛みを伴う前駆症状,痛み以外の症状,既往歴,死亡時の状況などを検証した.臨床資料の詳細な検証で死因が推定できたのは652例(58.2%)で,内訳は心疾患67例,大動脈疾患61例,呼吸器疾患75例,脳疾患44例,消化器疾患25例,腎疾患20例,全身性疾患57例,外因性死亡303例であり,死因不詳は469例であった.コンピュータ断層撮影(Computed tomography:CT)が行われたのは291例(26.0%)であり,心疾患の55%,大動脈疾患の8%,呼吸器疾患の35%,脳疾患の82%,消化器疾患の32%,腎疾患の40%,全身性疾患の25%,外因性死亡の27%でCTが施行されていた.CTが行われても死因が推定できなかったのは75例(CT実施の26%)に留まった.何らかの前駆症状が記録されている事例は300例(26.8%)あり,延べ379件の症状が記録されていた.呼吸困難は呼吸器疾患で,胸痛は心・大動脈疾患で,頭痛は脳疾患で多くみられたが,他の疾患でもみられることが判明した.既往歴は疾患との関連が多少みられたものの,補助的な役割しか果たさなかった.剖検例では頭痛を訴えていた15例のうち,脳疾患は6例(40%)に留まった.一方,CTは特定の疾患を診断あるいは否定するには大いに有用であり,確定的な診断が下せない事例においても,CT以外の情報と併せて総合的に死因を推定することが多くの事例で可能であった.来院時CPA事例の死因究明には監察医制度が全国レベルで整備されることが最善であるが,次善の策として死後CTを普及させることが正確な死因統計の作成,ひいては公衆衛生の向上に肝要である.来院時CPA死亡例の臨床的死因推定には既往歴,前駆症状,外表所見およびCT(生前CTが実施できなければ死後CT)を総合的に判断する必要があることが示唆された.
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