抄録
外科治療は低侵襲,無侵襲の方向へ向かい進歩しており,とくに胎児治療においては低侵襲治療への期待が大きい.深部組織を標的としながら,その標的のみにしか作用を加えない強力集束超音波(High Intensity Focused Ultrasound: HIFU)は,その低侵襲性から将来性が期待されている.一方,胎児仙尾部奇形腫の低侵襲性治療としては,栄養血管の遮断を目的としたものを含めこれまで様々な方法が試行されているが,いまだ確立された治療法はない.今回,われわれは最も低侵襲性の治療方法としてHIFUが有用であると考え,動物実験モデルを用いてさまざまな基礎実験を行った.全身麻酔下に,5羽の白色家兎(体重2.5~3.0kg,雄)の左腎臓を体外へ脱転,露出し,腎実質の動脈を対象としてHIFU照射(5秒間×3回)を行った.使用した振動子は,周波数4.44MHz,焦点距離42mmのものである.このHIFU照射を術後7,14日に同様に反復して行い,3か所ずつ計9か所に照射した.28日後に両側腎臓を摘出し重量を測定した.また,照射前と28日後に腎動脈の直径(2r・cm)および平均血流速度(v・cm/sec)を測定し,血流量(60πr2v・ml/min)を算出した.腎動脈の血流量は5羽すべてに減少を認め,減少率は照射前の1.7~82.7(平均52)%であった.5羽中4羽で,HIFU照射側の腎が非照射側に比べ重量が減少する傾向にあった.摘出した腎組織のHE染色で,HIFU照射側腎には肉眼的にみた楔状域に尿細管の拡張所見を認めた.Elastica van Gieson染色では,血管内フィブリン塊形成,血管壁の弛緩があり,虚血性の変化が示唆された.血流量の豊富な腎臓において,腎動脈の腎組織内分枝へのHIFU水中照射を行うことより,胎児仙尾部奇形腫の栄養血管閉塞のモデルとした.これにより腎血流量は最大で約83%減少した.この結果から,HIFUを胎児仙尾部奇形腫の治療に応用することにより,高拍出性心不全から胎児水腫にいたる致死的な状況を回避し得る可能性が示唆された.HIFU照射は低侵襲で,かつ繰り返し施行できるという利点のあることからこれを生かし,さらに安全性,確実性を一層高めることにより胎児治療の手段として有用な手技となろう.