昭和医学会雑誌
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原著
圧脈波伝播による人工血管の管粘弾性の評価
飯塚 弘文
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2012 年 72 巻 5 号 p. 553-559

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抄録

内径5mm以下の人工血管は早期の血栓形成などにより狭窄や閉塞が生じやすく,長期開存は期待できない.人工血管の開存に関連する因子として,管粘弾性の重要性が指摘されているが,圧脈波伝播と管粘弾性の関係についてはあまり研究されていない.今回,人工血管(expanded polytetorafuluoroethylene(ePTFE))を用いたin vitroの閉鎖回路において,圧脈波伝播による粘弾性の変化を評価した.閉鎖回路の一部を35cmの人工血管(ePTFE 5mm,10mm)で置換し,拍動型ポンプで毎分60回の拍動を加えた.管粘弾性は管内圧に依存するため,人工血管入口部での平均内圧は100mmHgに規定した.各伝播距離(入口部,10cm,20cm,30cm)における,断面積変化および管内圧変化を,レーザー変位計および先端トランスデューサー圧センサを用いて経時的に測定した.血管弾性(distensibility)は内圧変化と血管断面積変化より評価した.粘性(viscosity)は内圧変化と,断面積変化率から描出されるhysteresis loop内の面積から評価した.内径10mmの人工血管弾性は入口部では9.1 × 10-5mmHg-1,伝播距離10cmでは5.6 × 10-5mmHg-1,20cmでは4.0 × 10-5mmHg-1,30cmでは3.5 × 10-5mmHg-1と低下した.内径5mm の人工血管弾性は入口部では2.8 × 10-5mmHg-1,10cmでは2.6 × 10-5mmHg-1,20cmでは1.9 × 10-5mmHg-1,30cmでは1.1 × 10-5mmHg-1と低下した.内径10mmの人工血管粘性は入口部では2.6mmHg,伝播距離30cmでは0.81mmHgと低下し,内径5mmの人工血管粘性では入口部では0.49mmHg,伝播距離30cmでは0.26mmHgと低下した.また,レーザー変位計による人工血管の伝播速度は20~40m/sであり,伝播速度に内径による差は認めなかった.人工血管の弾性および粘性は,小さな内径の方がより低かった.また,伝播距離30cmでは弾性も粘性も1/3にまで低下していた.人工血管では動脈の弾性特徴であるクッション効果,Windkessel効果が小さく,伝播により更に低下するために開存性が低下している可能性が示唆された.今回の結果は今後人工血管の力学的特性と長期開存との関連性の解明に寄与すると思われた.

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© 2012 昭和大学学士会
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