昭和医学会雑誌
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牛血清MAOに対するNaNO2, KNO2, NH2OHの影響
金 慶培
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1976 年 36 巻 2 号 p. 163-170

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抄録

牛血清のMAOと牛肝中のMAOの酵素学的性格の差異とそれらに対するNaNO2, KNO2, NH2OHの影響を検討した.
牛血清を飽和硫安で分画し, その30%から50%飽和区分で沈澱したものを集め, これを一夜透析したものを酵素材料として実験に供した.酵素活性はWarburg検圧計を用い, 38℃において1時間の反応中に消費する酸素量を測定して決定した.牛血清MAOの場合には0.1Mのphosphate buffer (pH7.0) を, また牛肝MAOの場合には0.1M Tris-HCl buffer (pH8.0) を用いた.
種々の基質を用い牛血清MAOおよび牛肝MAOの基質特異性を検討した.牛血清MAOはbenzylamineを最も強く酸化したが, β-phenylethylamineはその55%, tryptamineやserotoninはほとんど酸化されなかつた.一方牛肝MAOの場合はtyramineを基質としたときに最高の活性が認められたが, 他のbenzylamine, tryptamine, serotonin, β-phenylethylamineなどのmonoamine類もまたよく酸化され, 牛血清の場合と比較して大きな違いのあることが判明した.benzylamineを基質とした場合の牛血清MAOのpS極大は10mMにあり, 牛肝MAOのtyramineを基質とした場合のそれは30mMにあった.また牛血清MAOの至適pHは7.0であり, 牛肝MAOのそれは8.1であった.NaNO2およびKNO2は牛肝MAO活性をその濃度に比例して著るしく増大させた.一方牛血清MAOの活性は逆にNaNO2, KNO2の濃度に比例して阻害された.他方NH2OHは牛血清MAOおよび牛肝MAOを共に阻害したが, 牛血清MAOを完全に阻害するには0.1mMで十分であったが牛肝MAOを完全に阻害するには0.1Mと, 約1, 000倍の濃度が必要であった.これら各薬物のpS極大や至適pHに対する効果は牛血清MAOと牛肝MAOとで明らかに異なった様相を示した.すなわち, NaNO2, KNO2, NH2OHはいずれも牛血清MAOのpS極大を基質濃度の高い方へ移動させたが, 牛肝MAOのpS極大はこれらの適用によつては全く移動しなかった.一方NaNO2とKNO2はいずれも肝MAOの至適pHを酸性側に移動させたが, 血清MAOの場合にはKNO2のみが至適pHをわずかに移動させたにすぎなかった.牛血清MAOのbenzylamine基質のKmは1.6mMで, これにNaNO2, KNO2, NH2OHを加えるとnoncompetitiveな阻害様式を示した.以上の結果から, ある種の薬物は牛血清MAOと牛肝MAOに対して全く異なった作用をあらわすことが明らかとなり, この事実は牛血清MAOと牛肝MAOとが酵素化学的に同一のものではないことを示唆している.

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