昭和医学会雑誌
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犬腸管中のMAOの動態
佐藤 博紀
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1980 年 40 巻 4 号 p. 415-422

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抄録

近年臓器中のMonoamine Oxidase (MAO) の複数性については数多くの報告がある.性質の異なったこれらMAOの生体内分布は一様ではなく種々臓器によりそれらの含有率も相違しているといわれており, またそれぞれの臓器においてそれぞれ特有の生理機能を持っているとも考えられている.今回, 小腸中に含まれるMAOについてその基本的性質を検討した.実験材料としては犬の小腸を0.25M sucroseを含むpH7.4, 10mM phosphate bufferで1: 4のhomogenateとし, これを酵素材料とした.MAO活性はワールブルグ検圧計を用い60分間または180分間における反応中の酸素消費量をもって測定した.
空腸および回腸中に含まれるMAO活性の基質特異性を検討したところ, このMAOはtyramine, serotonin (5-HT) を強く酸化したがbenzylamine, β-phenylethylamine (PEA) はほとんど酸化しなかった.一方十二指腸中のMAO活性は動物の個体差により異なり一定した基質特異性は得られなかつた.さらに胃における基質特異性を検討したが, 十二指腸の場合と異なり個体差は認められず空腸, 回腸と同様にtyramine, 5-HTを強く酸化した.さらに空腸MAOに対する各種阻害剤の影響を検討した.Tyramine, 5-HT, PEAの3種の基質を用いてそれぞれのMAO活性に対するcatron, KCN, clorgyline, harmine, depreny1, pargylineなどの影響を検討した.3mM KCNは3基質に対しほとんど影響を示さなかった.これに対し10μMのcatronは強い阻害作用を示した.従って腸管MAOは血清MAOと異なりいわゆる臓器MAOの部類に属するものと思われる.Type A MAOの特異的阻害剤であるclorgylineは5-HTを基質にして使用した時もっとも強い阻害を示し, その際のpI50は0.04μMであった.PEAの場合には最も弱く, tyramineの場合は前2者の中間であり, その阻害曲線はシングルシゲモイド型でpI50は0.5μMであった.Harlnineの場合においても基質として5-HTを使用した時最も強い阻害作用を示し, その際のpI50は0.3μMであった.PEAの場合はもっとも弱く, tyramineの場合は中間の阻害作用が認められpI50は1μMであった.次にtype B MAOの特異的阻害剤であるdeprenyl, pargylineを使用して同様の実験を行った.その結果いずれの基質を用いた場合でもpIカーブはほぼ同様で, その阻害作用はclorgylineおよびharmineのそれと比較すると弱く1mMのdeprenylを使用してもMAO活性は基質5-HT, tyramine, PEAではそれぞれ45%, 50%, 20%阻害されたに過ぎなかった.100μMのpargylineを使用した場合においても基質5-HT, tyramineではそれぞれ90%, 80%阻害されたのに対し, PEAを基質とした時は35%しか阻害されなかった.次に犬腸管MAOに対する酸素濃度の影響を5%から10096まで変化させ, 各酸素濃度におけるMAO活性値を比較検討した.いずれの基質を用いた場合でも酸素濃度20%まで急激な活性の増加を認めたが20%から100%の濃度範囲では活性増加は緩慢で3基質問には全く差が認められなかった.
以上の結果から犬腸管中にはtype A MAOが優位に存在することが示唆された.

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