抄録
豚腎ミトコンドリア中に存在するMAOを界面活性剤Triton X-100およびsodium cholateで可溶化し, その酵素化学的性格を検討したところ以下の結果を得た.豚腎皮質ミトコンドリアに1%Triton X-100および, 0.5%sodium cholateを加え0℃にて4時間攪拌したのち100, 000×gにて1時間超遠心を行った.この結果酵素活性は可溶性分画中に認められ, 不溶性分画中にはほとんど認められなかった.したがってMAOはほとんど完全に可溶化されたものと考えられる.豚腎ミトコンドリアMAOの基質特異性を検討したところ, tyramineを最も強く酸化し, そのQO2は118μlO2/hr/0.5ml Enzで, 以下iso-amylamine (97μlO2) , serotonin (69μl O2) , octopamine (40μl O2) , β-phenylethylamine (29μl O2) , benzylamine (28μl O2) の順であった.次にこのミトコンドリアを1% Triton X-100およびsodium cholateを用いて可溶化し, 基質特異性を検討したところ, tryptamineを最も強く酸化し, そのQO2は115μlO2/hr/0.5ml Enzで, 以下tyramine (90μlO2) , iso-amylamine (86μl O2) , serotonin (39μlO2) , octopamine (27μl O2) , benzylamine (25μl O2) , β-phenylethylamine (17μl O2) の順であった.すなわちtryptamine酸化が約30%以上増加し, その他の基質を用いた場合にはすべて減少した.同様のtryptamine酸化の増加現象は牛腎においても認められたが, ラット肝, 豚脳では認められず, これは腎に特異的な現象であることが判明した.次にTriton X-100とsodium cholateの混合液, Triton X単独, sodium cholate単独のそれぞれで可溶化した場合を比較検討したところ, Triton X-100とsodium cholateの混合液を用いた時に38%と最も高いtryptamine酸化の増加が認められ, 次いでTriton X-100単独を用いた時に18%の増加を認めたが, sodium cholateのみを用いた場合には逆に50%の減少が認められた.またmg-protein当たりのspecific activityを比較検討したところ, 混合液を用いた場合には76%, Triton X単独では74%のtryptamine酸化の増加を認めたが, sodium cholateのみを用いた場合は18%の減少を認めた.したがってtryptamine酸化の増加現象はTriton X-100の関与によっておこるものと考えられる.次にミトコンドリアMAOと可溶化MAOの阻害剤に対する感受性を検討したところ, harmineに対する感受性には両者の間に大きな差異を認めなかったが, pargylineに対する感受性はtyramine, tryptamineのいずれの基質を用いた場合でも可溶化MAOの方がミトコンドリアMAOよりも強かった.以上の結果から, 腎にはtryptamine代謝に関係の深い特別なMAOの存在する可能性が示唆された.