昭和医学会雑誌
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42 巻, 3 号
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  • ―術前・術中・術後管理―
    太田 秀男, 新井田 修, 石井 淳一
    1982 年42 巻3 号 p. 281-284
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
  • 豚ミトコンドリアMAOの酵素化学的特異性, 特に界面活性剤による影響について
    萩原 高士
    1982 年42 巻3 号 p. 285-291
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    豚腎ミトコンドリア中に存在するMAOを界面活性剤Triton X-100およびsodium cholateで可溶化し, その酵素化学的性格を検討したところ以下の結果を得た.豚腎皮質ミトコンドリアに1%Triton X-100および, 0.5%sodium cholateを加え0℃にて4時間攪拌したのち100, 000×gにて1時間超遠心を行った.この結果酵素活性は可溶性分画中に認められ, 不溶性分画中にはほとんど認められなかった.したがってMAOはほとんど完全に可溶化されたものと考えられる.豚腎ミトコンドリアMAOの基質特異性を検討したところ, tyramineを最も強く酸化し, そのQO2は118μlO2/hr/0.5ml Enzで, 以下iso-amylamine (97μlO2) , serotonin (69μl O2) , octopamine (40μl O2) , β-phenylethylamine (29μl O2) , benzylamine (28μl O2) の順であった.次にこのミトコンドリアを1% Triton X-100およびsodium cholateを用いて可溶化し, 基質特異性を検討したところ, tryptamineを最も強く酸化し, そのQO2は115μlO2/hr/0.5ml Enzで, 以下tyramine (90μlO2) , iso-amylamine (86μl O2) , serotonin (39μlO2) , octopamine (27μl O2) , benzylamine (25μl O2) , β-phenylethylamine (17μl O2) の順であった.すなわちtryptamine酸化が約30%以上増加し, その他の基質を用いた場合にはすべて減少した.同様のtryptamine酸化の増加現象は牛腎においても認められたが, ラット肝, 豚脳では認められず, これは腎に特異的な現象であることが判明した.次にTriton X-100とsodium cholateの混合液, Triton X単独, sodium cholate単独のそれぞれで可溶化した場合を比較検討したところ, Triton X-100とsodium cholateの混合液を用いた時に38%と最も高いtryptamine酸化の増加が認められ, 次いでTriton X-100単独を用いた時に18%の増加を認めたが, sodium cholateのみを用いた場合には逆に50%の減少が認められた.またmg-protein当たりのspecific activityを比較検討したところ, 混合液を用いた場合には76%, Triton X単独では74%のtryptamine酸化の増加を認めたが, sodium cholateのみを用いた場合は18%の減少を認めた.したがってtryptamine酸化の増加現象はTriton X-100の関与によっておこるものと考えられる.次にミトコンドリアMAOと可溶化MAOの阻害剤に対する感受性を検討したところ, harmineに対する感受性には両者の間に大きな差異を認めなかったが, pargylineに対する感受性はtyramine, tryptamineのいずれの基質を用いた場合でも可溶化MAOの方がミトコンドリアMAOよりも強かった.以上の結果から, 腎にはtryptamine代謝に関係の深い特別なMAOの存在する可能性が示唆された.
  • 狩野 元成, 岡崎 雅子, 中山 貞男
    1982 年42 巻3 号 p. 293-300
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    diisopropyl 1, 3-dithiol-2-ylidene malonate (malotilate) の薬理学的研究の一環として, 抗炎症作用, 創傷治癒に及ぼす影響ならびに生体膜安定化作用について検索した.マウスを用いた酢酸ならびにbradykinin腹腔内投与による血管透過性亢進に対して, malotilateは明らかな抑制作用を示した.酢酸による血管透過性亢進に対しては250mg/kg, p.o.で, bradykininのそれに対しては100mg/kg, p.o.でaspirin 100mg/kg, p.o.と同程度の抑制作用を示した.ラット足蹠部を用いたcarrageenin, formalin浮腫に対して, malotilateは50mg/kg p.o.から明らかな抑制作用を示し, その作用はformalin浮腫に比しcarrageenin浮腫において著明であった.抗浮腫作用は250mg/kg, p.o.でaspirin 100mg/kg, p.o.と同程度であった.ラットを用いたformalin浸漬濾紙埋没法ならびに寒天移植法による肉芽腫形成に対して, malotilateは肉芽形成の促進作用を示した.本薬物投与で増生された肉芽の組織学的所見は線維芽細胞と新生血管の増殖であり, 異常と思われる変化は認められなかった.ラット背部に作成した直径2cmの円形皮膚欠損創を用いた創傷治癒に対して, malotilateは500mg/kg, p.o.で明らかな治癒促進作用を示した.創傷治癒過程における病理組織像においてもmalotilateの250ならびに500mg/kg, p.o.では, 新生血管, 線維芽細胞の増殖を併う肉芽組織の増生, 線維化と膠原線維の形成が著明であり, 創面の表皮再生促進を認めた.この250, 500mg/kg, p.o.による創傷治癒促進作用はsolcoseryl 0.2ml/kg, p.o.のそれと同程度であった.膜安定化作用では赤血球加熱溶血試験において, malotilateは1×10-5Mでaspirin 5×10-4Mと同程度の溶血抑制を示した.ラット肝のlysosmeからの酵素逸脱に対してはacid phosphataseには影響を認めなかったが, β-glucuronidaseの逸脱は高用量において増加を認めた.これはaspirin適用においても同様の傾向を示した.lysosome酵素の活性に対する直接作用をみると, maolotilateは高用量においてacid phosphatase活性の上昇を示したが, β-glucuronidase活性に対しては影響を認めなかった.以上のようにmalotilateは種々炎症モデルに対して抗炎症作用を示し, 赤血球膜安定作用も有することが認められた.
  • とくに血液凝固線溶能について
    小沢 啓子
    1982 年42 巻3 号 p. 301-309
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    蛋白生成促進作用等の肝細胞賦活作用を有すると思われるdiisopropyl 1, 3-dithiol-2-ylidene malonate (malotilate) を用い, 蛋白生成阻害, 脂肪肝等を起すethionine肝障害ウサギに及ぼす影響を血液凝固線溶能の測定により検討した.実験動物は2.5~3.5kgの成熟白色雄性ウサギを用いた.ethionineはDL-ethionineを2%水溶液とし, malotilateは溶媒にて250mg/ml懸濁液として用いた.実験群はethionine群 (100mg/kg/24hr, s.c.×2) , malotilate群 (250mg/kg, s.c.×1) , ethionine+malotilate群 (ethionine 100mg/kg/24hr, s.c.×2, malotilateはethionine2回目投与直後に250mg/kg, s.c.×1) , 溶媒群 (1ml/kg, s.c.×1) とした.検査項目は, thrombelas-tography (TEG) , hepaplastintest (HPT) , prothrombin time (PT) , partial thromboplastin time (PTT) , plasminogen (PLG) , plasmin inhibitor (PL-inhibitor) , total protein (TP) , transaminase (s-GOT, GPT) とした.ethionine群では, TEGは2日目をピークとし, r値, r+k値が延長し, blood thromboplastin形成が障害されている事を示した.HPT, PTTでは1日目, PTでは2日目に最大となり, 活性低下, 凝固時間延長を示し, 血液凝固能が低下していることを認めた.PLG値も活性の低下を示した.2日目をピークに, TPも減少し, transaminaseも上昇した.malotilate群では, TEGは1日目から14日目まで, r値, r+k値は短縮し, ma値は増大していた.HPTは3日目 (controlに対し78%) をピークとし, 14日目 (13%) まで活性値の増加を示した.PTでは1日目を最大とする凝固時間の短縮を示し, PTTでは2日日に凝固時間の短縮を示した.PLG値も活性が増加した.溶媒群では, TEG, PT, PTTでは著明な変化は示さなかったが, いずれも傾向としてはmalotilate群と同様であった.HPTにおいても, 2日目 (56%) をピークとして活性値が増加し, malotilate群と同様の傾向を示した.ethionine+malotilate群では, TEGはr値, r+k値の延長を示したが, ethionine群に比べその程度は少なかった.HPTで活性値の低下, PTで凝固時間の短縮を示したが, いずれも有意にethionineの作用を抑制した.PLG値においても同様に, 有意な抑制を示した.TP, transaminaseについても抑制傾向を示した.以上より, malotilateは血液凝固能亢進, PLG値増加により, ethionine肝障害にみられる血液凝固能, PLG値低下に対し抑制的に働き, 結果的にethionine肝障害の肝機能を改善した.これにはmalotilateの有する蛋白生成能促進作用が重要な因子として関与している事が想定された.
  • 石浦 哲
    1982 年42 巻3 号 p. 311-320
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    ヒト卵管膨大部の摘出短冊状標本を用いて, その自動性収縮及び電気的活動を性周期に分けて記録し, コンピューターによりその波形分析を行った.また, 卵管は豊富な交感神経支配をうけているので, catecholamineの作用を検討した.即ち, noradrenalineの作用前後の比較的平均収縮下面積 (relative average area under curve) , 反応の高さをコンピューターにより解析し, 薬物による変化度を定量的に検討した.なお, 性周期の決定は子宮内膜を組織学的に検索する方法により行った.自動性収縮は性周期により変化する.即ち, 頻度は増殖期中期より増加し, 波形も漸次規則的になる.増殖期後期には, さらに規則的になるが, 排卵期を境として頻度は減少しはじめ, 波形も不規則になり, 分泌期後期には多くの収縮が加重された様な形となる.これをコンピューターで分析すると, 増殖期初期ではmaximum power component即ち, スペクトルのピークは9.1秒の所に見られ, 増殖期後期には7.2秒の所に見られ, その幅はほとんどないが, 分泌期初期には11.7秒となり, この他に13~16秒, 25秒前後の所にも小さなcomponentが見られるようになる.分泌期後期には25.9秒にmaximum power componentがあり, この他に14~16秒, 35~37秒, 40~42秒の所にも小さなcomponentが存在し, 収縮が不規則であることを示している.このことは, 平滑筋細胞のnexusの状態が, progesteroneにより変化し, 興奮の筋-筋伝導が悪くなったためと考えられる.Noradrenalineを作用させ, α, βの遮断剤を用いた結果, α作用により収縮が亢進し, β作用により抑制が見られた.増殖期には, 過半数に明確なるα作用が見られるが, 分泌期にはα作用は出現しなかった.一方, β作用は各性周期を通じて出現した.Noradrenalineの収縮力に及ぼす作用を, 比較的平均収縮下面積より比較検討した.増殖期ではnoradrenaline作用後135.1%に増加し, 分泌期では作用後55.7%に減少した.増殖期ではα作用による収縮の亢進, 分泌期ではβ作用による抑制であった.このことより, 増殖期から分泌期になると, ヒト卵管膨大部はα優位からβ優位となることが知られる.Adrenalineでもnoradrenalineと同様に, α作用により亢進, β作用により抑制が見られたが, isoproterenolではβ作用による抑制のみが見られた.
  • ―Scorpion venomが特に膵に与える影響について―
    中村 直文
    1982 年42 巻3 号 p. 321-334
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    急性膵障害を作製し, その初期像から進転に至る過程を明らかにする目的で実験病理学的研究を行なった.膵障害作製の為に高アミラーゼ血症を来たすことで知られるサソリ毒 (Leiurus quin-questriatus) を家兎に対しては耳静脈より致死量に近い量の2.44×10-4mg/gとその1/2量を3時間, 6時間, 12時間, 24時間間隔で投与した計8群, モルモットに対しては皮下より2.44×10-4mg/g, その1/2量, 1/4量の連日投与および1/2量を隔日にて週3回注射し, 1カ月後に1/4量を増量した計4群, 総計12群に対して投与した.これら投与群に対して, 膵を中心として病理組織学的検索を行なうとともに, 生化学, 電顕的検索, 数種の膵刺激剤を用いた対照実験を加えて行なった.病理組織学的には, 静脈投与では各群において膵における間質の水腫, 毛細血管および導管の拡張, 部分的には腺房細胞の濃縮, 膨化を認め12時間間隔2.44×10-4mg/g投与群, 3時間, 6時間間隔の1/2量投与群では, これらの所見に加えて腺房細胞の空胞形成から崩壊に至る組織像が認められた.皮下投与群では, 恒常的変化は毛細血管網の拡張による目立ちと腺房細胞の変性性障害であり, 長期投与群になるに従いこれら変化が高度になり, 多数の腺房細胞の空胞形成, 脂肪浸潤を認めた.電顕的には耳静脈投与家兎, 皮下投与モルモットの両方に, チモーゲン顆粒の減少, 腺房腟拡大, 粗面小胞体, ミトコンドリアの変性, 空胞形成が種々の程度で認められた.生化学的検索では, 膵腺房細胞の変性性病変が高度の場合には血清および尿アミラーゼ値が漸次上昇する傾向がみられ, 上昇したアミラーゼは3: 8程度で唾液腺型アミラーゼの優位な上昇を示した.以上.サソリ毒投与により, 主に膵においてその腺房細胞に変性性病変を主体とする過分泌を伴う膵障害を起こさしめ得ることを確認した.そしてサソリ毒の短期大量投与群では, 主に水腫を中心とする変性性病変を認め, 長期投与の場合は緩徐な持続分泌による機能亢進の為の細胞疲労, 消耗と思われる変性性変化の過程であり, 両者とも急性膵炎の組織表現と思考する.また当教室における膵障害分類では, 急性障害の内の変性型, すなわち急性実質性膵炎に相当するものである。
  • 道端 哲郎
    1982 年42 巻3 号 p. 335-346
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    輸血合併症の防止および血液節減の目的で, 開心術にさいし術中, 術後を通して同種血液を全く使用しない, いわゆる無輸血開心術を試み, 本法の適応と限界, 無血充填希釈体外循環の病態生理, 低体温の併用, 術中, 術後出血量, 術後貧血および術後経過について検討した.対象は心房中隔欠損閉鎖術10例, 弁手術38例, A-Cバイパス術5例の計53例であるが, 無輸血開心術を行いえた症例は心房中隔欠損閉鎖術10例 (100%) , 開心僧帽弁交連切開術10例 (91%) , 僧帽弁置換術11例 (73%) , 大動脈弁置換術8例 (89%) , 僧帽弁置換術+大動脈弁置換術2例 (67%) , A-Cバイパス術3例 (60%) で, 全体としては83%であった.本法の成否は灌流時間 (p<0.01) , 術後出血量 (p<0.05) に大きく左右されるが, 灌流時間120分以内の症例では30例中28例 (93%) に, 120分以上では23例中16例 (70%) に無輸血開心術が可能であり, また無輸血例の術後出血量は心房中隔欠損閉鎖術症例306±103ml (Mean±S.D) , 弁手術およびA-Cバイパス術症例505±256mlと, 同種血輸血例の907±319mlに比べて有意 (P<0.05) に少なかった.また術後出血量は灌流時間と正の相関 (P<0.01) を, 灌流中Ht値および術直後血小板数と負の相関 (P<0.05) を示したことから, 灌流時間120分以内, 灌流中Ht値15~20%の高度希釈, 血小板数100×103/mm3以上という条件は無輸血開心術となる可能性を高めると考えられる.無血充填希釈体外循環は高度希釈となる可能性が高く, 60分以上の体外循環を要する症例では心筋保護を必要とし, さらに酸素運搬能の低下に対し鼻咽頭温と灌流中酸素消費量は正の相関 (P<0.001) を示すという結果から低体温の併用は不可欠と考えられる.希釈安全限界の術中水分バランス, 術後PaO2, Respiratory indexによる検討では高度希釈 (Ht値15~20%) 群は中等度希釈 (Ht 20~28%) 群に比べ術中水分負荷も多い (P<0.01) が尿排泄量も多く (P<0.01) Homeostasisが働いていると考えられる.PaO2は灌流直後に高度希釈群が中等度希釈群に比し低値 (P<0.05) を示し, またRespiratory Indexは灌流直後, 術直後に高度希釈群が中等度希釈群に比し高値 (P<0.05) を示したことから軽度の血管外水分貯留が示唆される.したがって, 血液希釈はHt15%以上が安全と考えられる.無輸血例の術後最低Ht値は心房中隔閉鎖術群35.2±2.9%, 弁手術およびA-Cバイパス術群30.0±4.8%と低値を示したが, 貧血の術後経過に対する影響は少ないと考えられた.術後の不快な合併症である術後肝炎は1例も認められず, 本法は術後肝炎の防止に有用と考えられる.以上のことから, 無輸血開心術はすべての症例に適用できる方法ではないが, 大多数の症例に適応可能であり, 術中, 術後の経過において同種血輸血症例に比べても何ら変ることなく順調な同復がえられ, 輸血合併症の防止, 血液節減の面からも有用であり試みられるべき方法である.
  • ―累積生存率および相対生存率による10年生存率からみて―
    河村 一敏, 片岡 徹, 河村 正敏, 石井 淳一
    1982 年42 巻3 号 p. 347-361
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    外科治療成績がきわめて良好な早期胃癌の中にも再発をきたす症例に遭遇することがしばしばある.今回, 早期胃癌の予後を左右する因子について, 遠隔成績からみて臨床病理学的検討を行った.早期胃癌でも5年以上経過後の晩期再発例を経験することから, 10年生存率をもって検討し, 生存率の算出法としては粗生存率の累積生存率と年齢および性を考慮した相対生存率を用いた.対象とした症例は, 教室で過去約23年間 (1956.3~1978.12) に切除された初発早期胃癌症例178例 (全切除胃癌928例の19.2%に当る) であるが, 以下の検討に際しては多発癌症例14例と断端陽性症例3例を除外した161例を用いた.年齢は26~76歳 (平均年齢54.3歳) , 男女比は1.2: 1である.早期胃癌の予後を左右すると考えられる10因子, すなわち年齢, 性, 占居部位, 大きさ (長径) , 肉眼型, 深達度, 組織型, 脈管侵襲・リンパ節転移, 浸潤増殖様式 (INF) について検討し, 以下の結果を得た.累積生存率で有意差がみられたのは年齢, 組織型, 浸潤増殖様式および脈管侵襲の4因子であった.相対生存率では有意差の検定が厳しく, 脈管侵襲のみに有意差がみられた.しかしながら, 有意差のみられなかった他因子においても, 占居部位, 肉眼型, 深達度, リンパ節転移の有無は諸家の報告および著者らの検討からも, 早期胃癌の予後を左右する因子として重要な意味を持っているとの結論を得た.再発の危険を目一杯背負った早期胃癌の典型像とは, 若年者, 占居部位がA, 肉眼型が混合型 (陥凹+隆起: IIc+IIa) , 深達度がsm, 組織型が高分化型, 脈管侵襲およびリンパ節転移陽性, 浸潤増殖様式がα~βである症例と推測された.これら再発への危険因子を多く有する患者に対しては, 手術においてリンパ節郭清を徹底 (郭清度R3) するとともに, 患者の状況が許せば術後に十分な補助療法が望まれる.また, 早期胃癌の術後死亡例を検討したところ, 161例中26例 (16.1%) が死亡し, 他病死例が17例と, 全死亡例の実に65.4%を占め, 癌再発は7例 (26.9%) , 手術直接死亡2例 (7.7%) であった.他病死では脳血管障害, 心疾患などの成人病が多く, 術後のfollow upに際して十分な配慮が必要となる.再発症例の再発形式としては, 肝再発を中心とする血行性再発が多く, 7例中5例に認められ, 再発時期としては3年を少し超えるものが多かった.m癌の再発を1例経験した.症例は39歳の男性, A, IIc+IIa, tub1, β, v (+) で, 術後5年3か月で骨およびリンパ節再発で死亡した.この症例は著者らが結論した早期胃癌の予後不良因子をほとんど併せ持っており非常に興味深かった.
  • ―血糖, 血中インスリンおよび血中グルカゴンの変動を中心に―
    鈴木 親良, 片岡 徹, 舟木 正朋, 石井 淳一
    1982 年42 巻3 号 p. 363-371
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    胃全摘除後の種々の物質代謝に関する報告は多くみられるが, 社会復帰している患者において愁訴を中心とした, 特に食餌嗜好性の変化から物質代謝を論じたものは少ないようである.今回, 術前に既往歴や家族歴に特に問題がなく, 術後経過も良好でダンピング症候群などもなく, かつ術後1年以上を経過した胃全摘除者に対し, 食生活につきアンケート調査を行うとともに, ブドウ糖負荷試験を行い, 血糖値, 血中インスリン値, 血中グルカゴン値を経時的に測定することにより, 胃全摘除後の食餌嗜好性について検討した.対象はアンケート調査に協力が得られた胃切除症例の106例である.そのうち, 胃全摘除例は21例であり, 再建法はRoux-Y法8例, Double Tract法8例, Interposition法3例, Billroth II法2例である.なお幽門側胃部分切除症例85例をコントロールとし, それらの再建法はBillroth I法68例, Billroth II法17例である.胃切除例106例の年齢は26歳から82歳 (平均51歳) , 男女比は2: 1であった.その結果以下の知見が得られた.アンケート調査によると胃全摘除者の大部分で術前に比べ食餌摂取量の絶対的減少が存在し, その減少した症例においては94%に何らかの食餌嗜好の変化をきたしており, 特に甘味を好む傾向が認められた.甘味嗜好性についてOGTTより検討すると, 糖負荷後90分以降において術前より甘味嗜好が増加した甘味嗜好(+)群では血糖値に対してインスリン過剰反応の状態にあることが推測された.さらに血中グルカゴン値は甘味嗜好(+)群が, 負荷後90分以降で術前と比べ甘味嗜好に変化のない(-)群に比べ高値で経過していた.これを負荷前値と負荷後の血中グルカゴン値の差 (ΔGI) と血中インスリン値の差 (ΔlRI) との比 (ΔGI/ΔlRI比) でみると, 甘味嗜好(+)群は(-)群に比べ高グルカゴン反応にあると推測された.また, 甘味嗜好性と胃全摘除後の再建術式との関係を総合的にみると, Interposi-tion法, Double Tract法の方が, Roux-Y法に比べ若干甘味嗜好が強い傾向にあると考えられた.以上の胃全摘除後の甘味 (糖) 嗜好性の変化にはインスリン, 膵グルカゴンなどの因子が関与していることが推測されるが, gastric inhibitory peptide (GIP) などの消化管ホルモンによる消化管を介する因子からの検討も必要と考えられた.
  • 香川 宗也, 日野 研一郎, 鈴木 和郎, 浅野 洋治, 横山 新一郎, 布上 直和, 鶴岡 延熹, 清水 盈行
    1982 年42 巻3 号 p. 373-382
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    著者らはShay顆粒球肉腫細胞が安定した特異的核型を有することに着目し, 本核型をマーカーとし実験白血病における白血病細胞の増殖動態と臓器への浸潤の解明を試みた.また本腫瘍の単一のクローンからなる細胞株の染色体分析を行うことにより, その種族細胞と増殖動態を検討した.腫瘍細胞浮遊液を皮下に注入すると5~6日で腫瘍が出現するが, それ以前に血流に遊出した腫瘍細胞は骨髄, 脾などに定着し, 骨髄および脾ではほぼ同一の速度で増殖することが増殖曲線の解析から明らかになった.しかし, 移植初期に末梢血に移行した腫瘍細胞はほとんど分裂増殖することなく各臓器に分布し, ある時期に至って骨髄あるいは脾より再び末梢に遊出することが示唆された.継代移植初期に比較して現在の腫瘍は早期に壊死に陥り, 担腫瘍ラットの生存期間に短縮がみられるが, これは世代時間が短縮したためではなく, 移植直後より腫瘍細胞が血流に逸脱するようになったため, すなわちより白血病化したことによるものと推測された.単一のクローンからなる細胞株の染色体分析では皮下腫瘍と同様の4本のmarker染色体を有し, その増殖曲線より種族細胞は染色体数43本であり42, 44の細胞は不分離により生じたものであることが明らかになった.
  • 丸岡 隆芳, 藤田 良範, 長谷川 武志, 桑原 敏樹, 内田 宏子, 新村 与平, 林 正博, 内島 弘
    1982 年42 巻3 号 p. 383-388
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    急性心筋梗塞 (AMI) 発作後早期の運動耐容量 (PWC) を評価し, その後のリハビリテーション (リハ) を有効に進めるため, 自転車エルゴメーターによる定量的運動負荷試験を行なった.対象は当科CCUに入院し, 負荷漸増により4週間で1日2~3km歩行と階段20段昇降数回を目標としたリハプログラムでリハを行なったAMI48例, 全例男, 平均年齢56.7歳である.運動負荷試験は1回100m~300m歩行時の発作後平均26.4病日 (15~63病日) と, 退院時, 一部は発作6カ月後に間歇的増量法により行なった.PWCは入院中から退院時にかけ短期間で著しく増大し, 最大心拍数, Pressure Rate Products, 最大酸素摂取量, Relative Metabolic Rateも有意に増加し, 心機能の改善を示した.入院中の負荷でPWCの大きい群は若年例, 梗塞範囲の狭い例が多い傾向を示し, 入院中リハ進行を阻害する心不全, 不整脈, リハ進行にあたり行なう負荷心電図異常の出現も少なく, 入院期間も短かくなる.PWCの小さい例でも系統的なプログラムによりリハを進めることによりPWCは増加し, 早期にPWCを知ることは, その後のリハを進める上で重要である.
  • 小松 隆, 滝沢 謙治, 後閑 武彦, 篠塚 明, 宮坂 圭一, 高橋 久男, 平林 晋一, 北原 隆, 藤沢 守男, 神垣 郁夫, 武中 ...
    1982 年42 巻3 号 p. 389-394
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    左上腹部に腫瘤様陰影を認め, 最終的に胃穹窿部の形態学的変化が原因であった6症例を経験した.さらに健康人の腫瘤様陰影を胃の形態, 撮影条件から検討した結果, 胃穹窿部は, 他の胃の部位に比べ最も背側にあるため, 背臥位では, この穹窿部に胃液, 食物残渣がたまり腫瘤様の厚みをもつためにみられるものと推測された.
  • 宮坂 圭一, 小松 隆, 高橋 久男, 篠塚 明, 滝沢 謙治, 後閑 武彦, 広野 良定, 伊藤 真一, 神垣 郁夫, 武中 泰樹, 藤沢 ...
    1982 年42 巻3 号 p. 395-398
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    胃穹窿部と左上腹部の腫瘤様陰影の関係を人間ドックで同一者の胃X線写真, 腹部単純X線写真について検討した.腫瘤様陰影のみられる症例は10.9%, この中でも明らかに腫瘤ととれるものは5.3%であった.性別では男性に多くみられ, 腫瘤の形は円形が72.4%, 大さは6cm以上のものが44.8%と多くみられた.腫瘤様陰影の原因として瀑状胃 (41.4%) , 胃液分泌亢進 (17.2%) が多くみられ, 胃との関連が強く示唆された.
  • 副島 和彦, 大場 文夫, 斉藤 吉人, 八塚 正四, 岡松 孝男
    1982 年42 巻3 号 p. 399-401
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    先天性食道狭窄症のうち, 気管原基迷入型狭窄を経験し, 病理組織学的検索で特に発生学的観点からの検討が必要であると思われた.
  • 福岡 俊明, 城戸 邦彦, 柳沢 宏実, 岩井 雅彦
    1982 年42 巻3 号 p. 403-408
    発行日: 1982/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    膀胱直腸障害を伴った仙髄域の帯状疱疹を3例経験した.症例1: 20歳, 女.初診3日前に排尿, 排便困難が, 2日前にS2からS5の領域に神経痛様疼痛を伴う皮疹が出現した.皮疹は8日後, 神経痛様疼痛は16日後, 排便困難は21目後, 排尿困難は27日後に, それぞれ消失した.症例2: 32歳, 女.初診2日前より, S1からS5の領域に神経痛様疼痛を伴った皮疹, 初診3日後より排尿, 排便困難が出現した.排尿, 排便困難は5日で改善し, 皮疹, 神経痛様疼痛は10日でほぼ消失した.症例3: 56, 女.初診2日前より, S1からS4の領域に神経痛様疼痛を伴った皮疹が発生し, 同時に排尿, 排便困難を合併していた.皮疹の軽快とともに, 神経痛様疼痛, 排尿困難, 排便困難は8日間で改善された.自験例を含め本邦報告例33例を総括し, 膀胱の神経支配について若干の事項を述べた.
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