抄録
本教室では従来から膵炎研究の一環として実験的膵障害を発生させる目的で種々の方法を行っているが, 本論文は高アミラーゼ血症を来たすことで知られるScorpion Venonを, 家兎の静脈, 皮下, 腹腔内に投与 (総計3種17群) し, この時の唾液腺, 特に耳下腺および顎下腺について病理組織学的に検索を行い, 併せて膵病変との比較検討も行ったものである.
静脈投与群の耳下腺では高濃度1回投与で腺細胞の腫脹膨化がみられ, 高濃度短時間間隔投与で腺細胞の腫脹膨化と萎縮傾向がみられ, 高濃度長時間間隔投与で腺細胞の腫脹膨化と軽度または巣状の変性が認められる.顎下腺では高濃度で投与間隔に関係なく, 全般に萎縮性となっている.同群の低濃度では耳下腺, 顎下腺とも, その投与間隔に関係なく, 大略高濃度と同様の所見が認められる.次に皮下高濃度連日投与群の耳下腺では, その投与期間に関係なく腺細胞の腫脹膨化, 萎縮傾向と軽度の変性がみられる.顎下腺でも投与期間に関係なく腺細胞が全般に萎縮性となっている.腹腔内投与群の耳下腺では高濃度1回投与で腺細胞の腫脹膨化と萎縮傾向がみられ, 中濃度連日短期間投与で腺細胞が萎縮性となっており, 中濃度連日長期間投与で腺細胞の萎縮と軽度または巣状の変性が認められる.顎下腺では濃度, 投与期間に関係なく, 全般に萎縮性となっているが, 中濃度連日長期間投与では脂肪浸潤の増加が認められる.
すなわち, 唾液分泌亢進作用を示めすScorpion Venomによって, 腺細胞の腫脹膨化は過機能状態 (長期の場合は細胞機能回腹後) および萎縮は細胞疲労の組織表現と解される.また, 耳下腺と顎下腺に与える違いは, それぞれの持つ腺の機能によるものと考えられる.
膵と唾液腺の病変の比較では, 前者は水腫を中心とする変性性変化および過分泌機能亢進のための細胞疲労による変性性変化であり, 後者は過機能のための細胞疲労が主であって膵と同様であるが, 細胞の変性性変化は軽度か, またみられても巣状限局性であって, 所謂細胞障害性変化は極めて軽度なのである.この両者の差異は, 該毒物の両臓器に及ぼす影響, さらに加えて同じ胞状腺構造をもつもののその組織学的構築の相違によるものと思考する.