抄録
口蓋裂の患者では, 正常人にくらべて上顎の発育が悪く, 顔面の変形をきたしていることが多く, これはもともと発育を障害する因子をもっていると考えられるが, それに加えて手術の影響が関与しているとも考えられる.口蓋裂の患者の硬口蓋閉鎖時に, 鋤骨の粘膜骨膜を利用して披裂を閉鎖する方法が広く用いられているが, この場合に鋤骨が露出状態になる.このように鋤骨が露出状態になった場合に顔面骨がどのような影響を受けるかをみるためにラットを使って実験を行った.220匹の1009幼若雄ラットを110匹づつA群とB群に分け, A群は実験群で口蓋中央部に粘膜骨膜弁を作成し, 切歯孔より鋤骨の粘膜骨膜を一部切除し, 片側鋤骨を一部露出状態にしたまま口蓋の粘膜骨膜弁は元に戻した.鋤骨部分は無侵襲のB群を対照群とし, 両者を比較検討した.またB群の侵襲の程度を観察するために, 別に40匹の100g雄ラットを全く無侵襲の状態でA群B群と同じ条件で飼育し, これをC群とした.術後3カ月でA, B, C群とも断頭し, 頭蓋骨を乾燥骨として規格ポラロイドにて計測を行った.実験の結果では, 鋤骨一部露出群では対照群にくらべて, 上顎が手術側に傾斜し, 前方への成長も, 前方への突出も抑制されているのが観察された.唇裂口蓋裂患者が生来持ち合わせた内因的な顔面発育異常の他に, 手術そのものの顔面骨への影響を考えなおしてみる目的で動物実験を行ったが, 今回の著者の実験からは鋤骨粘膜骨膜弁使用による鋤骨の一部露出においてさえも, 少なからず顎発育に影響を与えているのではないかという印象を受けた.