昭和医学会雑誌
Online ISSN : 2185-0976
Print ISSN : 0037-4342
ISSN-L : 0037-4342
幼若ラット口蓋への外科的侵襲の影響についての実験的研究
佐藤 兼重
著者情報
ジャーナル フリー

1983 年 43 巻 1 号 p. 75-89

詳細
抄録
今日, 口蓋裂手術の主流を占める粘膜骨膜弁法による手術後の顎発育障害についての詳細を知るべく, ウィスター系100g♂幼若ラットを用い, 口蓋のいくつかの部位に手術侵襲を加え, 1カ月, 2カ月, 3カ月と経時的変化をそれらの断頭乾燥骨を用いて検討した.実験は前記ラットに対し, 口蓋片側を縦方向に2分し, その外側粘膜骨膜切除による骨露出群 (A群) , その内側粘膜骨膜切除による骨露出群 (B群) , 口蓋片側第1日臼歯より前方部の粘膜骨膜切除による骨露出群 (C群) , 口蓋片側粘膜骨膜弁挙上後, 縦方向外側1/2粘膜骨膜及び第一臼歯より前方部の粘膜骨膜切除後残りを元に戻した群 (D群) , 口蓋片側粘膜骨膜弁挙上後そのまま元に戻した群 (E群) , 未手術対照群 (F群) , を術後1カ月, 2カ月, 3カ月と各群の各月につき10コずつ, 更に術前の未手術群10コ, 計190コの乾燥骨を作成し, それらをすべて同一条件のポラロイド写真による規格写真として, それぞれ, その口蓋面について検討した.即ち, 口蓋中央縫合線を境にして左右の全面積比, 口蓋骨部のみの面積比, それらの面積縮少率, 左右臼歯縫合線間距離比, その距離縮少率, 縫方向距離比を計測し, それらを実験による影響度として各群を比較した.結果は, 実験A, B, D, 群に著明な変化を認め, E群にも多少の変化を認め, C群F群にはほとんど変化はなく, 両者間にもほとんど差がなかった.更に口蓋骨部においては, B群の変化が特に強く, 全体としては, B, D, A, E, 群の順に変化が強く, C.F群にはほとんど変化がなかった.又, 測定領域の全面積及び臼歯 (右右) 間距離を測定し, 各群の比較をしてみると, 体重との比例関係を有するものもいくらか認められたが, 一定しないため正確ではないが, 実際の実験による影響は当実験の影響度よりは小さいように推測された.これは中央縫合線の偏位が実験の侵襲のみか, 健側からの過成長によるものか不明なため, あくまで推測である.しかし, 当実験の結果より実際の口蓋裂手術における推論としては, 口蓋粘膜骨膜弁の剥離のみでも中央縫合線に対しては多少の影響を与え, 粘膜骨膜切除による骨露出では中央縫合線に対し, かなりの影響を与える.更に口蓋内側 (中央縫合線付近) では最も中央縫合線に対して影響が強いため, 内側部の骨露出はなるべく避けるべきだと思われた.
著者関連情報
© 昭和医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top