抄録
腎移植が諸外国ほど行ないえない我が国においては, 透析治療は慢性腎不全患者にとって唯一の治療法となっているが, 長期透析中には種々の合併症もみられ, とくに肺浮腫を伴う心不全は生命の予後からみても重要な合併症である.我々は透析治療による循環動態の変化を検討する目的で, 透析治療を行っている慢性腎不全患者の中から無作為に18例を抽出し対象とした.男性12例, 女性6例で, 年齢は28~58歳 (平均38.9歳) である.すでに報告したごとく透析症例の心機能の程度を4段階に分けて, 透析前後に心臓カテーテル法により心内諸圧, 熱希釈法により心拍出量を測定し, 得られた数値から全肺血管抵抗, 全末稍血管抵抗, 心室仕事量を求め, これらについて検討を加え次の結果を得た.1) 透析前に高血圧症を示す症例, とくにIII度, IV度例においては左心房圧, 肺動脈圧, 右心室圧, 右心房圧は高値を示す例が多く, 右心不全を惹起しやすい状態にあることがうかがわれた.またこれらより求めた心室仕事量も増大しており, 全肺血管抵抗も高値を示したが, 全末梢血管抵抗は過半数が正常域であった.2) 透析後には右心系諸圧は低下するが, 透析前で正常値に近い値を示したI度, II度例では1回の透析で十分に正常域に低下した.これは心機能の予備力と循環血漿量の減少が好結果を招いたと考えられる.3) 透析前で心内諸圧が高値を示したIII度, IV度例では1回の透析では十分な圧の低下はみられず, 肺水腫発生の危険な状態からの脱却は困難で, 頻回の透析が必要である.4) 以上の結果より高血圧症の併存する例は大部分がIII度, IV度例であり, 体血圧のコントロールは心内諸圧を低下させ心不全の予防に極めて有効であり, そのためにはNaおよび水分摂取量の制限, 頻回の透析, 適宜降圧剤の投与も必要である.