抄録
昭和大学附属烏山病院において1979年9月30日現在, 直接観察期間10年以上の通院および在院の精神分裂病患者は501例であるが, このうち17年以上引き続き在院している134例から55歳以上のもの, および接枝分裂病, ロボトミー実施者を除く68例の実態を調査, 分析し, 20年に及ぶ烏山病院でのリハビリテーション治療が長期在院者に及ぼした影響について考察した.またこれらの患者に対する今後の対策と処遇についても同時に考察をくわえた.精神症状, 社会適応度からみた長期在院者はいずれも母集団 (501例) よりもその程度は有意に悪く, また行動評価においても能力低下の程度は著しい.すなわち予後を不良, 中間, 良好の三群に区分するとき, これらは予後からみれば不良なる予後を示す一群を中核とし, より不良群に近い中間群で構成されており, いわば治癒到達困難群ともいえる.本対象例は烏山病院のリハビリテーション体系下での「結果」としての残留者であるが, 経過の上からは10年前に比し, 状態の不変群が最も多く, 改善と悪化がこれに次ぐ.全体的には不変を中心に相互に打ち消し合うために行動評価得点の平均値には有意差はみられない.しかし少なくとも改善傾向を示す一群の存在はリハビリテーションの影響を無視しえず, とくにナイトホスピタル (N.H.) 実施群にはこの傾向がより顕著にあらわれているが, 一方ではその変化は慢性病状の結果としての欠陥像の枠内にとどまる.本対象者では殆んどは既に国およびその他の社会保障制度の適用をうけているが, いずれにしても現在の長期在院者の処遇については今後の医療と保護の対策が必要であり, 特に福祉面での対応がより重要となる。また精神科医療がリハビリテーションと地域医療に重点が移りつつあるにしても, 分裂病の持つ経過と予後にたいする根源的解決のない現在では, 本研究の対象者の如き一群にも十分な老慮を払う必要がある.