昭和医学会雑誌
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腎動脈下における腹部大動脈の遮断・解除に伴う血行動態および昇圧ホルモンの変動に関する実験的研究
門倉 光隆高場 利博
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1984 年 44 巻 5 号 p. 697-706

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抄録

腹部大動脈の急性血流遮断および遮断解除に伴う血行動態の変化についての報告は多いが, 本研究では雑種成犬を用い, 腎動脈下における腹部大動脈の遮断前, 中, 遮断解除後の血行動態および昇圧ホルモンの変動について比較検討した.実験は維持輸液群および容量負荷群において60分間の大動脈遮断をおこない, 遮断前, 遮断後15, 30, 60分, 遮断解除後15, 60分における血行動態および血中レニン活性, アンギオテンシンII, アルドステロン, アドレナリン, ノルアドレナリンを測定した.1.平均動脈圧, 心係数, 左室1回拍出仕事量は大動脈遮断によって有意な上昇を示すが, 遮断解除とともに速やかに前値へ復する傾向を示した.2.中心静脈圧, 肺動脈楔入圧, 肺動脈圧は大動脈遮断による著変はみられず, 容量負荷によって有意な上昇がみられた.また維持輸液群では遮断解除後, 後肢の反応性充血に伴い前値以下への低下がみられた.3.血中Na/K比, ヘマトクリット, 心拍数は大動脈遮断あるいは容量負荷に伴う著変はみられず, 各群間にも有意差はみられなかった.4.容量負荷群では全末梢血管抵抗は有意な減少を示し, 左室1回拍出仕事量も有意な増加を示した.5.腎血流量は容量負荷群では60分値において増加傾向を示し, 120分値までの減少率についても維持輸液との間に有意差 (p<0.05) がみとめられた.また, 大動脈遮断および遮断解除直後において一過性の減少がみられたが.auto-regulationによって約30秒後にはsteadystateとなっている.6.レニン, アンギオテンシン, アルドステロン, カテコールアミンは容量負荷群において前値に比較して有意な低下を示し, 維持輪液群との間に有意差 (P<0.05) がみとめられた.7.尿量は容量負荷群において有意な増加を示し, 腎灌流圧の上昇, GFRの増大を示唆した.以上から, 大動脈遮断中の容量負荷は昇圧ホルモンの分泌抑制, さらに遮断解除後の循環動態の安定化に効果を示し, 術後高血圧症の予防, 軽減にも役立つことが示唆された.

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