昭和医学会雑誌
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脳幹の巨大神経細胞網様核および傍巨大神経細胞網様核に存在する針鎮痛発現の求心路と遠心路
ヤウヒ ヤコブ佐藤 孝雄久光 正武重 千冬
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1986 年 46 巻 1 号 p. 65-73

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抄録

大縫線核 (RM) 附近には針麻酔の鎮痛 (針鎮痛) 発現の下垂体に到る求心路と, 下垂体以下の遠心路にあたる下行性抑制路とが混在する事をすでに報じたが, この現象を巨大神経細胞網様核 (NRGC) や傍巨大神経細胞網様核 (NRPG) の刺激による鎮痛及びNRGC, NRPG及びRMにモルヒネを微量注入して現われる鎮痛で検討した.すなわち, 求心路と遠心路の刺激による鎮痛は, その性質を異にし, かつ針鎮痛には有効性の個体差があり, ラットを針鎮痛有効群と無効群に区分して当該部を刺激すると, 無効群では遠心路の活動による鎮痛のみが, 有効群では遠心路と求心路の活動による鎮痛が出現したので, 求心路の鎮痛はさらに上位の求心路の破壊で鎮痛の出現が阻止されるか否かで同定し, また遠心路の鎮痛は下行性抑制系の遮断剤で鎮痛が阻止されるか否かで同定した.NRGC及びNRPGの刺激で現われる鎮痛は, 針鎮痛の有効群と無効群では鎮痛の様相が異なる.前者では刺激終了後も鎮痛が暫くの間残り, 後者では刺激の期間中にのみ鎮痛が出現する.NRGCやNRPGより上位の針鎮痛発現の求心路にあたる中脳中心灰白質背側部 (D-PAG) を局所破壊すると, 有効群の鎮痛は無効群の鎮痛と同じ様になり, 刺激の期間中にのみ出現し, 無効群の鎮痛は全く影響を受けなかった.残存した鎮痛は脊髄クモ膜下腔にノルアドレナリンの拮抗剤フェントラミン20μ9/10μlを投与すると出現が阻止された.NRGCとNRPGに0.5μg/μlのモルヒネを微量投与すると, NRGCでは有効群にのみ鎮痛が出現し, 無効群では出現しなかった.有効群に出現した鎮痛はD-PAGの局所破壊で出現しなくなった.これに反し, NRPGでは有効群, 無効群で全く同じ様な鎮痛が出現した.NRGCに2μgのモルヒネを投与すると, 有効群では投与直後に増大する鎮痛が, 無効群では遅れて出現する鎮痛が出現し, D-PAGを破壊すると, 有効群の鎮痛は無効群と同じになり, 残存した鎮痛, 無効群の鎮痛はクモ膜下腔に投与した40μgのフェトラミンで出現が阻止された.RMに5μgのモルヒネを投与したが, 鎮痛は全く出現しなかったが, グルタメート60nM/1μlの投与で鎮痛が出現した.RMやNRGCからは経穴部の刺激で誘発電位が出現した.以上の結果から, NRGCやNRPGの電気刺激では針鎮痛の求心路, 遠心路が活動するが, モルヒネの微量注入では, NRGCでは求心路, NRPGでは遠心路のみが活動し, これらの部位にはそれぞれの求心路・遠心路に局在するオピエート・レセプターが存在することが明らかとなった.

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