昭和医学会雑誌
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胃癌術後晩期再発 (術後5年以降の再発) に関する臨床病理学的検討
加藤 貞明片岡 徹河村 正敏河村 一敏
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1986 年 46 巻 4 号 p. 517-532

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抄録

胃癌切除後5年以降の再発 (晩期再発) は, 晩期での再発という観点からみれば, 手術した時点において癌腫は5年生存可能な有利な状況にあることになるし, 一方ではその後再発するという何らかの再発を発来させるrisk factorを併せ持つことになる.晩期再発が発現する背景因子を解明することは, 今後手術理論ならびに術後補助療法を確立し, 胃癌の治療を向上させるうえできわめて重要となる.著者らは, 教室の胃癌治癒切除症例740例 (1956.3-1981.12) を用い, 晩期再発症例を2年未満に再発した早期再発症例および2年以降, 5年未満に再発した中期再発とを対照として比較し, 臨床病理学的検討を行った.治癒切除後の再発は261例であり, 早期再発157例 (60.1%) , 中期再発74例 (28.4%) , 晩期再発30例 (11.5%) であり, 晩期再発は治癒切除症例の4.1%に相当した.治癒切除後の経過年数別再発症例数は2年までに全再発症例の60%が含まれ, 以後漸減し, 10年以降再発は1例のみであった.また, 2年までは相対治癒切除の再発例, 3年以降は絶対治癒切除の再発例が多かった.早期再発症例, 中期再発症例, 晩期再発症例の3群において, 胃癌切除後の予後を左右すると考えられる10因子〔占居部位, 肉眼型, 大きさ (長径) , 深達度, 組織型, リンパ管侵襲, 静脈侵襲, リンパ節転移, 浸潤増殖様式 (INF) , 組織学的stage〕について統計学的に分析, 比較検討した.その結果, 占居部位M・A, 肉眼型0・5型, 深達度m・sm・pm, v (―) , n (―) , INFα, stage Iに晩期再発の頻度が高かった.これらの特徴は, 教室の進行胃癌治癒切除後の10年生例の背景とよく似通っていた.晩期再発症例は比較的良好な予後が得られる有利な状況にあるが, 10年生存症例に比べてわずかながら不利なrisk factorを内蔵し, それにより5年以降に再発を来したものと推測される.また, 絶対治癒切除, 相対治癒切除別からみて, 再発時期にどのような差異があるのかを深達度〔ps (―) , ps (+) 〕およびリンパ節転移〔n0+n1, n2+n3〕, それらが規定因子として関与するstage〔I+II, III+IV〕との関連からみると, 各因子とも早期再発から晩期再発になるに従って絶対治癒切除の頻度が高くなり, 逆に相対治癒切除の頻度が低くなる傾向とともに, n因子よりもs因子がより予後 (再発) に影響を及ぼしていることが判明した.晩期再発の再発形式 (主・副再発を含む延べ数) は, 腹膜12例 (24.5%) , リンパ節11例 (22.4%) が多く, 次いで肝8例, 骨6例, 肝下部4例, 残胃3例, 肺2例などであった.いずれにしろ, 晩期再発は手術した時点で癌遺残が少ないことがその最大の特徴と考えられ, 外科医の手術時の積極性と創意工夫, ならびに術後の補助療法の確立と有効な薬剤の開発により, 早期再発を起こしていたものを晩期再発に, また晩期再発を起こしていたものを完全治癒とするよう努力することが今後の課題と考えられる.

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