抄録
ヒト胎盤水解物である肝作用薬Laennec (LAE) の呼吸, 循環器系, 摘出平滑筋へ及ぼす影響を犬およびウサギを用いて検討した.体重5~8kgのビーグル犬はpentobarbital sodium (30mg/kg, i.v.) 麻酔で, 体重2.4~3.5kgのウサギはurethan (1.5g/kg.i.p.) 麻酔で行った.0.3ml/kg以上のLAE投与により一過性の血圧上昇に続く投与量に応じた血圧下降が認められた.同時に呼吸抑制も併って起こるが, いずれの作用も犬, ウサギ共に持続時間は短かい.しかし, LAE原液, もしくは希釈したものをd.i.v. (1ml/min) することによって, i.v.により起こる血圧下降や呼吸抑制はかなり回避することができた.犬において, laser doppler血流計により測定した末梢血流量および電磁血流計により測定した頸動脈血流量は, LAEのi.v.によって増加した.LAEをゲル濾過により6分画に分け, これらの分画を動物にi.v.することにより, 分子量の大きい分画 (f1とf2) が血圧下降を, 分子量の小さい分画 (f4) が血圧上昇を起こすことが明らかとなった.更に, 抗histamine剤であるdiphenhydramine前投与によりLAEによる血圧下降およびf1, f2分画による血圧下降は抑制された.ウサギを用いてのin vitro系の実験では, マグヌス法による胸部大動脈, および灌流法によるウサギ耳介において, LAE投与で血管収縮作用がみられ, その作用はdiphenhydramine前処理により完全に拮抗された.非妊娠ウサギ摘出子宮において, LAEの投与量に応じた律動的収縮作用がみられ, 腸管においては, 弱い蠕動運動の抑制が認められた.カエル摘出心において, 一過性の心抑制とその後の心幅の増大が観察された.又, マウスを用いて血管透過性作用を検討した結果, LAEのi.p.およびi.v.で透過性充進が明らかであった.以上のことから, LAEによる血圧下降作用には, histamineもしくはhistamine様物質の介在する可能性が示唆された.