昭和医学会雑誌
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骨折治癒過程の実験的ならびに臨床的実験
山本 茂樹
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1989 年 49 巻 2 号 p. 157-166

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抄録
下肢骨骨幹部骨折の治癒過程において, 各種治療法によって及ぼされる影響について明らかにすることを目的として, 白色家兎, 雑種成犬を用いた動物実験, および臨床的なX線像の検討を行い考察を加えた.白色家兎大腿骨に対して厚さの異なる各種プレート, および髄内釘を観血的に挿入し, 3週間経過後屠殺し大腿骨を摘出した.塩化シアヌル固定後, 脱灰標本を作成し骨形態計測を行い, 皮質多孔率 (cortical porosity ratio, %CP) を計測した.さらに同様の手術を施行した家兎大腿骨を同条件下にて摘出直後, 破断試験を行いその力学的強度を計測し最大点荷重量, S-Sカーブ (stress-strain curve) を求め検討した.さらに雑種成犬を対象に橈骨に横骨折を作りElectro Biological International Ltd製, Orthofix, Dynamic Axial Fixationを用いて骨形態計測を行い, 石灰化骨量 (calcified bone specific volume, CVsp) , 相対類骨量 (relative osteoid volume, ROV) , 平均骨梁幅 (mean trabecular thickness, MTT) を測定した.その結果より, 骨折部のdynamization (軸圧負荷) による治癒過程の差を検討した.さらに臨床的に成人下肢骨骨幹部骨折症例に対し, Weinmannの分類に準じたわれわれの仮骨の分類を用いてX線像を経時的に観察した.前述の動物実験の結果より, 以下のような結果を得た.1) プレートが厚ければ厚いほど, %CPは明かに増大していた.2) 髄内定固定ではコントロール群よりも%CPは, 増大していたがプレート群より明かに少なかった.3) 破断試験の結果, プレート群はコントロール群に比して最大点荷重量は小さかった.またS-Sカーブの傾きも小さかった.またこの傾向はプレートが厚ければ厚いほど強かった.4) 塩化シアヌル処理後のH-E染色標本において, CVsp, ROVおよびMTTの計測より, 軸圧を適当な時期にかけた方が, 類骨の量が少なく, 骨折治癒過程は進んでいた.臨床的検討より以下の結果を得た.1) Functional bracingに代表される保存的治療群ではanchoring callusを形成することはむしろ少なく, uniting callusを主体として治癒する傾向が高かった.2) プレート固定群では, 解剖学的整復位が得られ, かつ強固な固定がなされたと思われる症例においても, いわゆるprimary fracture healingにより治癒したと思われる症例は少なく, 遷延治癒や偽関節を呈した症例が多かった.3) 髄内釘症例においては, bridging callus, およびuniting callusを主体として治癒する傾向が高かった.また, その治癒過程においてクローバー釘と横止め式円筒釘との間に差はなかった.以上, 実験的検討および, 臨床的検討より, 強固すぎる内固定は, 骨折部の生理的刺激を減弱させ, 骨代謝に対し負の吸収を優勢にさせるため, 骨折治癒に不利に働くことが示唆された.
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