抄録
変形性膝関節症の発生機序の一端を解明するために, 遺体大腿骨顆部関節を用い, 関節軟骨の肉眼的変化, 大腿骨顆部関節の形態, 軟骨の厚さ, 軟骨下骨梁の定量解析について検討した.対象として学生実習用遺体の膝関節を用いた.49歳から85歳まで, 平均68.8歳, 総数66関節に対して, 肉眼的に関節軟骨変性, 大腿骨顆部関節の形態の調査をしたのちに, 比較的軟骨変性の少ない20関節を脱灰後, 各関節面に垂直に細分し, 関節軟骨の厚さを測定した.石灰化骨梁の定量解析の試料として30関節を選び, 各10関節を矢状面, 前額面, 水平面で切断し, リゴラック樹脂に包埋した.EXAKT-Cutting Systemにて薄切片を作製し, 切片をフィルムに密着させ, 軟線X線撮影を行い, 軟骨下皮質骨より5mmまで (軟骨下骨部) と, 5mmから10mmまで (深層部) に分け, カールツァイス社製IBAS-2000を用いて石灰化骨梁の面積と周長, 軟骨の厚さを測定した.石灰化骨梁の面積を全体の面積で割ったものを単位石灰化骨量, 石灰化骨梁の面積を周長で割り2倍したものを平均石灰化骨梁幅とした.結果1.強い軟骨変性は, 大腿骨膝蓋面の中央から内側, 荷重面の内顆, 後面に多くみられた.2.大腿骨前面の形態が三角形に近いもの, 大腿骨後面の内外顆の比の大きいものに軟骨変性の程度が強かった.3.3mm以上の軟骨の厚さを有する部位は大腿骨膝蓋面の中央, 荷重面の内顆, 後面の内顆に高頻度に認められた.4.平均石灰化骨梁幅は, 単位石灰化骨量に比べて, 軟骨下骨部と深層部との間の差が少なかった.5.軟骨の厚さが厚い部位では軟骨下骨部と深層部の単位石灰化骨量の差が大きい傾向が認められた.6.軟骨下骨部の単位石灰化骨量は軟骨の厚さとの相関が高く, 深層部の平均石灰化骨梁幅は軟骨の厚さとの関係が少ないことが認められた.以上より, 軟骨の厚い部位は変性に陥りやすく, 大腿骨顆部関節の形態は軟骨変性に影響を及ぼすと考えられた.また, 軟骨直下の骨梁構造が荷重を支持するのに重要であり, 骨梁の幅を増大させるより, 骨梁の数を増加させて機械的負荷に反応していることが推測できた.