昭和医学会雑誌
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幼小児の感音難聴増悪症例の治療について ―血中コルチゾール値を指標として―
河村 直子三辺 武幸岡本 途也
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1989 年 49 巻 6 号 p. 547-554

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抄録

中・高度難聴者には軽度の聴力低下でも影響は大きく, なかでも小児にとっては大きな障害となる.小児の感音難聴の中には難聴が進行するものが見られ, ステロイドを投与することにより改善するものがある.しかし, ステロイド療法を施行し聴力が改善した症例で, ステロイド投与中止後聴力がふたたび悪化した症例が見られた.この現象はステロイド投与を中止したことによる聴力の再悪化ではないかと考え, ステロイド療法施行時に内因性血中コルチゾール値をパラメーターとして測定し, 検討した.正常小児49例の血中コルチゾール値をGamma Coat Cortisolを用いたRIA法で測定したところ, 平均値は7.8±3.2μg/dlであった.これを小児血中コルチゾール値の正常値とした.小児感音難聴増悪症例15例に聴力検査と血中コルチゾール値の測定を施行しながらステロイド療法を行なった.15例中2例はステロイド投与中止後聴力がふたたび悪化した症例で, 血中コルチゾール値を測定しながら再度ステロイドを投与した.血中コルチゾール値が1.0μg/dl以上に回復してからステロイド投与を中止したところ, 聴力の再悪化は見られなかった.15例中13例は, 初回より血中コルチゾール値を指標としてステロイド療法を行なった.血中コルチゾール値は, ステロイド投与後一週間以内に13例中12例が1.0μg/dl以下となった.ステロイドを減量していくと, ある時点で血中コルチゾール値が回復してきており, 血中コルチゾール値が1.0μg/dl以上に回復してからステロイド投与を中止したところ, 聴力の再悪化は見られなかった.以上より, 感音難聴増悪症例には, ステロイドホルモン投与が有効な症例があり, 内因性コルチゾールの低下は難聴の再増悪に影響するので, 血中コルチゾール値の測定によってステロイドの投与を中止する時期を決定することができることがわかった.ゆえに, ステロイド療法のパラメーターとして, 血中コルチゾール値を測定することは有用だと言える.

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