昭和医学会雑誌
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肝組織内pHからみた移植肝保存の条件
―保存肝のViability評価の指標として―
川口 哲也
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キーワード: 肝移植, 肝保存, 組織内pH
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1993 年 53 巻 2 号 p. 163-168

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抄録
【目的】肝移植に際し, 移植肝のviabilityを簡易かつ早期に評価する目的で肝組織内pHを測定した.また, 至適保存条件を組織内pHの観点から推察してみた.【動物と方法】動物には2509前後のWistar系雄ラットを使用した.肝摘出はKamadaの方法に準じて行った. (実験I) 1群: 0.05, II群: 0.5, m群: 16 (ml/h/BWg) の各灌流速度における組織内pHを測定した. (実験2) 4℃および常温保存における組織内pHおよび△pH×保存時間を測定し, 7日生存率をもとめた. (実験3) H群: ハルトマンD液, UW群: UW液, HP群: Prostaglandin E1 (以下PG) 添加ハルトマンD液 (1μg/ml) の各保存液について組織内pHを測定し, 6時間保存後の7日生存率をもとめた.【結果】 (実験1) II<III<I群のUCHで組織内pHの低下が大きい傾向がみられた. (実験2) 4℃ではpHの変化はほとんど認められなかったのに対し, 常温では経時的にpHの低下が認められた.常温での」pHは生存率を反映し, 4pH×保存時間 (分) であらわされる値と相関した.これから実験1での80%生存可能な保存時間を推定するとI群172分, II群467分, III群280分であり, II群が長時間保存可能な灌流速度である結果がえられた. (実験3) H群では, 初期より急激な△pHのマイナス側への低下がみられたのに対し, UW群は逆に急激な△pHのプラス側への増加とそれに続く緩徐な減少が認められたが, マイナスにはならなかった.HP群もUW群に近い変化を示した.【結語】単純浸漬肝保存に際し, 肝組織内pHを経時的に測定することは, 簡易かつ早期のviability評価に有用であり, 組織内pHがマイナス側に傾き始めた時点よりの△pH×保存時間 (分) により生存率が予測され, 80%生存率からみた値は4.86であった.また, 至適保存条件としては, 灌流速度は0.5ml/h/BWg, 保存温度としては4℃, 保存液はUW液が最適でありPG添加により肝保護効果が発現されるものと推測された.
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