昭和医学会雑誌
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循環器検診における自覚症状調査の意義
佐々木 かほる三浦 宜彦川口 毅
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1996 年 56 巻 6 号 p. 601-615

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抄録

我が国における脳卒中予防対策の重要な戦略の一つとして高血圧症の早期発見, 早期治療の推進が図られている.しかし, 高血圧の自覚症状の乏しさが地域における予防対策を困難にしている.そこで群馬県のK町において行なわれている1987年から1993年までの7年間の老人健診等の継続受診者1224人 (男421人, 女803人) の血圧測定の結果と自覚症状の関連について疫学的に検討した.なお, 分析対象者の平均年齢は男54.3歳, 女52.8歳であった.7年間における年齢階層別高血圧の平均発現率は49歳以下で2.7%で, 50歳から59歳では5.0%, さらに60歳以上では6.3%であった.高血圧者の自覚症状発現率では「頭痛・頭重」が7.8%と最も高く, 次いで「不眠」6.4%, 「手足のしびれ」6.1%ならびに「倦怠感」6.1%であった.高血圧者と血圧正常者の自覚症状の発現率を年齢階層別に比較した結果, 49歳以下では有意差はみられず, 50歳から59歳では「胸部絞扼感」だけが有意差を示し, 60歳以上では「動悸」「頭痛・頭重」および「倦怠感」が有意に高かった.7年間の高血圧の累積発現率の直線回帰係数と自覚症状の累積発現率の回帰係数との関連を年齢階層別に統計的に検討した結果, A, B, Cの3つの群に分類することができた.A群は高血圧の累積発現率の回帰係数と自覚症状の累積発現率の回帰係数との問に有意差が認められた群であり, 「胸部絞扼感」「息切れ」「夜間息苦しい」「言葉・舌のもつれ」ならびに「顔や足の浮腫」がこれに含まれた.B群は両者の間に有意な差が認められず自覚症状と高血圧の累積発現率がほぼ平行して増加していた群で, 49歳以下で「動悸」, 「眩暈・たちくらみ」および「全身倦怠感」が, 49歳以下及び50歳から59歳で「頭痛・頭重」, 50歳から59歳で「手足のしびれ」, 全ての年齢階層で「不眠」がこれに含まれた.C群は両者の間で有意差が認められかつ初年度の発現率が高血圧より高いもので, 50歳から59歳で「動悸」, 「眩暈・たちくらみ」および「全身倦怠感」, 60歳以上で「頭痛・頭重」, 49歳以下及び50歳から59歳で「手足のしびれ」がこれに含まれた.自覚症状の多くはB群からC群に変化していたが, 高齢になるにつれて逆に自覚症状の累積発現率が高血圧のそれを下回っていた.49歳以下における「動悸」は高血圧の累積発現率とよく一致していた.その他「眩暈・たちくらみ」「頭痛・頭重」ならびに「全身倦怠感」は高血圧とやや一致していた.以上のことから49歳以下の若い年齢階層においては「高血圧」と「自覚症状」の発現と一致するものが認められたが, 60歳以上の高齢者では一致するものは少なかった.これは, 高齢者における高血圧の累積発現率の増加が自覚症状のその増加に比較して著しいためと推察された.

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