抄録
気管支喘息は気道の慢性炎症を伴っている.気道の慢性炎症が気道リモデリングを促進すると考えられている.喘息の気道リモデリングは基底膜下の線維化, 気道平滑筋肥大を伴っている.IGF-1 (Insulin-like growth factor-1, 以下IGF-1と略) は間葉組織細胞増殖, コラーゲン新生を促進する成長因子として知られている.気道炎症局所においてIGF-1の関与が示唆されている.IGF-1の発現濃度上昇が気道リモデリングの進行の一原因と考え, 1998年10月から1999年10月までに当院を受診した15例のステロイド未使用の軽症から中等症喘息患者 (男性6名, 女性9名, 23~61歳, 平均年齢36歳) と5例の健常者 (男性2名, 女性3名, 25~66歳, 平均年齢44歳) に気管支鏡検査を行い気管支生検, 気管支肺胞洗浄を施行し, それぞれの気道局所にIGF-1がより高濃度に認められるかどうか, またリモデリングの指標である1秒量や気道過敏性, 気管支基底膜の厚さ, BALF (bronchial alveolar lavage fluid, 以下BALFと略) の細胞分画とIGF-1濃度との相関について検討を行った.IGF-1mRNAの発現についてRT-PCR法で検討した.IGF-1mRNAの発現は生検組織では喘息, 健常者で差はなかったが, BALFでは喘息の方が強かった.BALF中のIGF-1タンパク濃度 (p<0.05) , 好酸球 (%) (p<0.05) , 総細胞数 (p<0.05) は健常者と比べて喘息の方が有意に上昇していた.健常者と比べて喘息の方が気管支基底膜が有意に肥厚していた (p<0.05) .IGF-1タンパク濃度とBALF中の好酸球 (%) (Rs=0.45, p=0.04) , 気管支基底膜の肥厚 (Rs=0.56, p=0.01) との間に有意な相関が認められた.以上よりIGF-1の増加が気管支基底膜の肥厚を促進し, 好酸球の増加と相関し, 気道リモデリングを進行していることが示唆された.