昭和医学会雑誌
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Thinlayer法とLaser Scanning Cytometerを用いた卵巣上皮性・間質性腫瘍の細胞学的検討
山本 弓月丸岡 直隆太田 秀一九島 巳樹
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キーワード: Thinlayer法
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2003 年 63 巻 5 号 p. 486-496

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抄録
腫瘍のDNA ploidyは疾患の悪性度と進展に関与していることが示されており, 近年そのデータが治療方針の決定に使用されることが増えてきている.一方, p53癌抑制遺伝子の変異はヒト癌の発生に最も密接に関連している遺伝子異常と考えられており, 治療への反応性の予測や治療手段の選択, そして, 予後因子としても重要な指針となっている.Propidium Iodide (PI) 染色を用いたDNA ploidyや, 抗p53抗体を用いた免疫組織化学的染色 (p53免疫染色) については検討の手段として使用されているが, 同一細胞で両者を同時に検討した報告は我々の知る限りでは見当たらない.Thinlayer法は細胞の重積が少ない細胞診標本であるが, 今回我々は卵巣腫瘍でThinlayer法を用いて検討した.症例は, 平成14年4月から平成15年4月の間に, 術中迅速診断を施行した卵巣腫瘍症例26例のうち, 永久標本で表層上皮性・間質性腫瘍と診断された18例を対象とした.Thinlayer法を用いて作製した標本にDNAとP53蛋白に対する蛍光二重染色を行い, Laser Scanning Cytometer (LSC) を用いて卵巣腫瘍の良悪性とDNA ploidyとP53蛋白との関係について解析した.DNA ploidyは悪性腫瘍は7例全てがaneuploid, 良性腫瘍は5例全てがdiploid, 境界悪性腫瘍3例はそのどちらかを呈した.p53免疫染色では, 悪性腫瘍は良性腫瘍に比較して有意にp53陽性となり, 境界悪性腫瘍はそれらの中間であった.境界悪性腫瘍や悪性腫瘍では同一細胞でもDNA量が多い細胞ほどp53蛋白の陽性率が高い傾向があり, p53遺伝子異常により細胞周期制御機構が働かず, その結果染色体不安定性が増加しaneuploidを呈するものと考えられた.卵巣表層上皮性・間質性腫瘍において, LSCを使用したDNA ploidyの解析とp53免疫染色の両者どちらも悪性度の判定, 治療手段の選択, 予後の推定などに有用である可能性が示唆された.
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