昭和医学会雑誌
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ケースメソッドを用いた研修プログラムの健康危機管理コンピテンシー獲得効果に関するパイロット研究
橘 とも子橘 秀昭
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2007 年 67 巻 5 号 p. 422-434

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抄録

地域における健康危機管理を担う公衆衛生人材の育成には, 健康危機管理に要するコンピテンシー (実践能力) ; (以下「健康危機管理コンピテンシー」) に基づく効果的な人材育成手法を開発する必要がある.本研究は, コンピテンシーに基づくトレーニング手法のひとつであるケースメソッド研修に, どのような健康危機管理コンピテンシーの獲得効果を期待しうるのか検討することが目的である.滋賀県湖北地域における健康危機管理機関の代表者により構成される滋賀県湖北地域振興局地域健康福祉部 (長浜保健所) 健康危機管理地域調整会議の委員40人に対して, 事例「滋賀県湖北地域における鳥インフルエンザ発生」によるケースメソッド研修を実施した.研修参加者に健康危機管理コンピテンシー (C1~C15) 保有自覚に関する自記式記名式質問紙調査を行い, 研修前および終了帰庁後の記入により回答を得た.調査回答分析は有効データセットに対してWilcoxonの符号付順位検定により行った.研修前後における回答比較では, コンピテンシーC2「発生事態が湖北地域にどの位の大きさの影響を及ぼすか推計するに要するコンピテンシー」 (P=0.039) , C4「発生事態が湖北地域に及ぼす影響の大きさを推計するために必要な情報を収集するコンピテンシー」 (P=0.031) , C10「健康危機の種類やレベルに応じて, どの段階の判断はどこが責任を担うべきか判断する事が出来るコンピテンシー」 (P=0.016) において有意な差が認められた.また, 50歳以上の者ではC2 (P=0.031) に, 在職20年以上の者ではC2 (P=0.031) およびC4 (P=0.031) に研修前後における差が認められた.ケースメソッド研修には, 管理者の初動における判断コンピテンシーを獲得できる効果が期待できると思われた.なかでも健康危機管理従事経験年数の長い熟練管理者に対して, ケースメソッド研修は健康危機管理コンピテンシー向上効果が顕著であると考えられた.

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