昭和医学会雑誌
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解離試験による血痕のABO式血液型判定法の半定量的解析
伊澤 光梅澤 宏亘藤城 雅也石渡 康宏大多和 威行有馬 由子高橋 良治李 暁鵬堤 肇佐藤 啓造
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2008 年 68 巻 3 号 p. 162-174

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抄録

最近, 昭和大学病院某科より患者さんの病衣に付着した血液様斑痕の血液型判定を依頼された.斑痕は注射液により希釈され, 溶血した血液の斑痕で, 血液型判定は困難な印象を受けた.しかし, 解離試験による常法でABO式血液型の判定を行ったところ, 患者さんの血液型と一致する結果が得られた.今後, 同様の依頼があった場合, どのような注射液による希釈, 溶血で判定が不可能となるか, あるいはどの程度の希釈まで判定が可能であるか, どのような材質の衣服で判定が可能であるかなどを予め知っておくことは法医学上意義がある.そこで, 本研究では使用頻度の高い注射用蒸留水, 生理食塩水, ソリターT1, T2, T3, T4, ポタコールR, 5%ブドウ糖溶液, 1%リドカイン注射液により血液の2倍希釈系列を作製し, 濾紙, 綿, ポリエステル, ポリエステル―綿混紡, 絹, 麻ナイロン, ウール, レーヨンの布切れについて希釈系列の斑痕を作製し, 何倍希釈まで解離試験によるABO式血液型判定が可能であるか, さらに希釈系列の斑痕を6ヶ月室温間接露光下に放置したのち, 同様に判定を行い, 解離試験によるABO式血液型判定の半定量的解析を行った.その結果, 斑痕の材質, 希釈溶媒の種類溶血の有無は結果に影響がなく, A型抗原は4~16倍希釈まで, B型抗原は16~32倍希釈まで解離試験による検出が可能であった.パパインによる酵素処理判定血球の使用によりA抗原, B抗原とも2段階上の希釈系列まで検出が可能となった.希釈系列の斑痕を6ヶ月室温, 間接露光下に放置したところ, 1ヶ月では抗原性に変化がなく, 3ヶ月で1段階検出限界が低下し, 6ヶ月で2段階の低下が見られた.6ヶ月放置後の血痕ではパパイン処理判定血球で解離試験を行った場合, 1段階しか検出限界が上昇しなかった.以上の結果は抗血清を別会社のものに変更しても, ほぼ同様の結果が得られた.A型抗原がB型抗原に比べ, つねに検出限界が1段階もしくは2段階下であったのは抗A血清の凝集素価が抗B血清の凝集素価と比べ, 1段階下であったことに起因するものと思われる.陳旧血痕ではAB型をB型, A型をO型と誤判定する危険性があることが示唆された.

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