2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S165
聴覚皮質は脳における音情報処理の最終段階に位置し,複雑な音情報処理を担う重要な脳領域だと考えられているが,その機能的役割および神経機構には未解明な部分が多い.聴覚皮質は複数のサブ領域から構成され,そのそれぞれで層構造も持っているため,各サブ領域および層における神経応答の特性を体系的に明らかにすることが必要である.本研究では,まず始めに,フラビンタンパク質蛍光イメージング法を用いて頭蓋骨の上からサブ領域を同定した上でその場所に電極を埋め込み,慢性神経活動計測を行うという新しい手法を提案する.次に,その応用例として,特定のサブ領域に埋め込まれた電極から計測される聴覚皮質神経応答特性が,実験動物周囲の行動文脈によってダイナミックに調整されていることを示す.最後に,聴覚系機能不全の典型例として耳鳴りに注目し,薬理的に耳鳴りを誘導したマウス聴覚皮質の各サブ領域および層においてどのような神経活動特性の変化が生じるか検討する.これら一連の研究は,聴覚皮質における柔軟な音情報処理機構の実体や耳鳴り等の聴覚疾患の機序を解明するための重要な知見を与えていると考えられる.