2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S257
歯根膜は、歯と顎の骨の間に垂直に配向し、咀嚼や歯ぎしりなどにより常に伸展刺激や圧力刺激などの機械刺激にさらされている。歯周炎に罹患した部位では、炎症性サイトカインが歯周組織のリモデリングを修飾し複雑化するため、機械刺激に対する歯根膜組織の応答機構の理解は非常に困難であった。また、臨床前段階での機械刺激による歯根膜組織の知見の創出並びに薬効効果の定量を実施するためには、機械刺激による歯根膜組織のin vitro構成システムが必要不可欠となっていた。そこで本研究では、伸展刺激と圧力刺激の歯根膜細胞への影響を調べた。伸展刺激下で歯根膜細胞を培養した結果、伸展刺激方向に対して細胞が垂直方向に配向した。この結果から、歯根膜組織は歯と顎の骨との間に垂直に配向することで歯を支持していることが示唆された。次に、高静水圧下での歯根膜細胞の形態変化を計測した結果、20 MPa以上で細胞形態が変化したが、細胞骨格には変化が見られなかった。これらの結果は、過度な機械刺激は歯根膜組織の破壊を誘発することを示唆した。本研究の遂行によって得られる過度な咬合力の指標の知見は、機械刺激下での歯周組織の恒常性や、歯周組織リモデリングのメカニズムの解明につながる上に、健康な口腔内環境の維持に重要な役割を担う。