2019 年 Annual57 巻 Abstract 号 p. S20_2
難治性不整脈の発生時には,心臓組織内に複数の旋回興奮波(Spiral wave, SW)が発生・消滅を繰り返す事が知られており,複雑なSWの挙動を客観的に解析する事は,効果的な治療を実現する上で重要な課題である.これまでの多くの研究で,Grayらにより提案された位相解析がSWの動態解析に用いられてきた.この手法では,心臓組織各点の周期的な興奮における位相を表す空間位相マップを描出し,その中に現れる全位相が集約する位置を,位相特異点(phase singularity point, PS point)とみなしてSWの中心点と定義し,その軌跡を解析する.しかしSWの中心を点とみなす従来手法では,SWの発生・移動・消滅の過程を定量的に追跡する事が困難であることが経験的に知られてきた.この事から我々は,2次元の空間位相マップ内に現れるPSは本質的に点ではなく,旋回中心付近で発生する興奮伝導のブロックによって発生する線(PS line)であり,PS lineこそがSWの瞬時の移動方向・速度を決定付けている,という仮説を立てた.本研究では,30mm四方の2次元心筋シートを模した電気生理シミュレーションモデル上で,様々な様態のSWを誘発し,中心付近の位相分布を詳細に検討する事で仮説を検証した.