2020 年 Annual58 巻 Abstract 号 p. 122
ヒトの社会認知や社会性に関わる脳機能研究は,その当初から現在に至るまで,そのような能力が個人の脳内でどのような神経基盤・脳内表現になっているのかを調べる研究がほとんどである。一方で,社会性の一側面が現れるコミュニケーション場面でのやりとりはリアルタイム性を持ち,ダイナミックで相互作用的であることにその本質がある。その点に着目し,社会的に相互作用している二人を対象としたいわゆる「ハイパースキャン研究」が,複数個体のリアルな相互作用を重視する研究者を中心に急速に広まっている。用いられる脳活動計測装置はさまざまであるが,最近ではMRIやMEGよりも二者相互作用の実験環境を容易に構築できるNIRSやEEGを使った研究が増加している。しかしながら,現状のハイパースキャン研究を一括りにはできない。計測パラメータをみても,MRIはBOLD信号,NIRSでは酸化・脱酸化ヘモグロビンの濃度変化,EEGやMEGでは神経細胞由来の電気的/磁場変化であり,時空間特性が大きく異なる。さらに現状では解析手法もバラバラであり,統一的な手法などはない。そこで本演題では,まずそれぞれのハイパースキャン研究についていくつか例を挙げて紹介し,この研究領域の現状と今後の展開について議論する。