生体医工学
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1細胞のエネルギーフローを可視化するための蛍光センサーの創製
新井 敏
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2020 年 Annual58 巻 Abstract 号 p. 224

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抄録

蒸気機関を想定した古典的な熱力学モデルで細胞を紐解いてみたい。細胞は、外部から化学エネルギーを獲得、これをアデノシン3リン酸(ATP)に変換し、必要な時・場所に応じて生物学的な「仕事」にATPを消費していく。一方、総エネルギーの7~8割は「熱」として放出、細胞空間の温度を補償していると言われる。細胞には、熱とATPのエネルギーフローが絶えず流れていて、このフローは、細胞の健康状態を表す重要なパラメータでもある。実際、エネルギー摂取量が消費量を超えれば肥満になるし、ATPが枯渇すれば、細胞機能への影響は深刻である。私達は、この独自の視点で、ATPと熱の2つの因子の時空間情報を1細胞レベルの解像度で捉える蛍光センサーを開発してきた。細胞内で起きる微小な温度変化やATPの濃度変化の情報を、蛍光強度・寿命といった蛍光シグナルに変換し、顕微鏡観察下、1細胞レベルでマッピングする技術である。例えば、細胞小器官の温度を計測できる小分子の蛍光温度センサーで、特に熱産生細胞と言われる細胞種の温度マッピングに成功してきた。ATPについては、赤・緑・青の3種類の輝度変化型の遺伝子コード型センサーの開発に成功しており、使用できる色(波長)が拡張したことで、ミトコンドリア(酸化的リン酸化)と細胞質(解糖系)のATP動態を同じ細胞内で解析することが可能になった。本発表では、一連の研究の最新の結果をご紹介したい。

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© 2020 社団法人日本生体医工学会
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