2020 年 Annual58 巻 Abstract 号 p. 253
特定の対象に過度な不安を感じる不安症の認知行動療法に暴露療法がある.これには実際に体験させるin vivo暴露療法,image暴露療法, VR空間を利用するVR暴露療法がある.比較的弱い不安から始め慣れさせる方法では症状の再発が生じやすい,強い不安から始めると治療効果は上がるが,患者の治療に対する抵抗感が増す.そこで,不安レベルを推定し,これを適切なレベルに保つようにVR環境を制御するVR暴露療法システムを提案している.第一段階として,比較的低負担で計測できる心電図,呼吸,指の皮膚コンダクタンス(SC)から得られる指標を用いて不安レベルを推定する手法を検討した.文書による同意を得た8名の健常成人男性を対象とし,HMDを装着させてVR空間で模擬面接を行い,安静時,面接の質問終了時に不安度を10段階評定させた.評定直前の発話のない区間の生理指標の平均値を求め,安静時と面接時に有意な差を示した指標セットに主成分分析を施し,説明率が最も高い平均心拍,心拍変動LF,心拍変動呼吸性成分,呼吸重心周波数,SCレベル,SC反応のセットを選んだ.第一主成分は心拍上昇,心拍変動LF上昇,SCレベル上昇,SC反応上昇からなり,交感神経系賦活と解釈できる.この主成分得点で安静時と面接時を概ね区別でき,不安度の推定として利用できる可能性を示したが,主観評定値との相関は必ずしも高くなくその原因を検討した.