2020 年 Annual58 巻 Abstract 号 p. 344
微細な球状曲面が規則的に並んだリエントラント構造は,生物を規範とした理想的な撥水構造であり,固体表面の疎水性を著しく改善できる可能性がある。本研究では,リエントラント構造を試作し,計算値と測定値の比較からその撥水特性を議論した。リエントラント構造を有するサンプル17種類は,紫外線硬化樹脂と,直径2.3から1350ミクロンのポリテトラフルオロエチレン製マイクロビーズを,ガラス基板上にスピンコーティングすることで作成した。樹脂の厚さ,マイクロビーズの質量と直径,およびスピンコーターの回転速度を加工パラメーターとした。サンプルの側面観察から球形の曲率を有することが観察され,リエントラントテクスチャが実際に形成されたことを示した。マイクロビーズ直径の最適条件において,見かけの接触角は144.6度に達し,滑落角は5度まで低減できた。Cassie-Baxter モデルを基にした理論式でマイクロビーズ直径と見かけの接触角の関係を求めたところ,計算値と測定値はよく一致した。以上より,リエントラント構造は物理的な手法で超撥水表面を実現するのに有用な方法であることを示した。本技術は,医療分野においても,血液ハンドリングや生体材料の表面改質に有用であると考えられる。