2020 年 Annual58 巻 Abstract 号 p. 461
生体に投与した薬物が、臓器局所においてどのような濃度動態を示すかを定量することは、薬の作用を理解する上で鍵となる。臨床では、多くの疾患において、複数の薬物が併用されるが、その組み合わせによっては相互作用が起こり、単剤で投与した時とは異なる振る舞いを示す。従って、適切な多剤投与法を理論的に設計するためには、複数の薬物をリアルタイムに測り分ける手法が必要である。本研究では、針状ダイヤモンド電極を用いて溶液中の二種の薬物の濃度を電気化学的に同時定量する方法を開発した。テスト薬物として、様々な感染症で併用される抗菌薬、バンコマイシンとセフトリアキソンを選択した。まず、PBS中にそれぞれの薬剤を単独で加え、印加電圧と生じる電流の関係を調べた。共に負電位を与えた時に還元電流を発生した。次に、二つの抗菌薬が様々な濃度の組み合わせで共在する液中にて、還元電流を測定した。この電流には、両薬剤の還元反応が関わる。それぞれを分離して定量するため、得られたデータをもとに機械学習法で解析アルゴリズムを作成した。これを用いて、リアルタイムに二種の薬剤の濃度を変化させた際の電流値から、それぞれの定量を試みた。その結果、セフトリアキソン存在下でも、有効治療濃度域(0.6-25 μM)のバンコマイシンを秒単位の時間分解能で定量できた。以上より、生体局所における複数薬物の複雑な薬物動態を解析するための基礎技術が創出された。