2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 402
生物の腸は消化物を口側から肛門側に送るために収縮・弛緩運動(蠕動)を行っており,この腸運動が正常に機能しない場合,イレウスや慢性偽性腸閉塞症となる.腹部聴診では,蠕動音(“グルグル”や“ゴボゴボ”と形容される音)によって腸運動を診断する.非侵襲的かつ容易な診断手法であるが,その診断基準は文献によってまちまちであり,科学的な検証も十分になされていない.本研究では,腹部聴診の診断基準の理論的な確立を目指して,蠕動音の発生メカニズムの解明を試みた.開腹手術後の患者に対して,腹部聴診音と腹部X線透視動画像の同時計測を行い,腸管および腸内容物の運動と腹部音の関係について検証した.まず,腸管および腸内容物の運動を算出するため,腹部X線透視動画像のOptical Flowを算出し,呼吸変動を表す低ランク近似成分を除去した後,変動の周期から腸管と腸内容物の運動成分を分離した.また,腹部音のRMS Sound Pressureを算出した.蠕動が腸内容物を動かし,その腸内容物が腹部音を発生させるという仮説に基づき,それぞれの時系列データの相関および因果関係の有無を検証したところ,仮説を裏付ける結果が得られた.