2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 440
乗船者の疲労は船舶事故の原因の一つと報告されており,その原因解明と対策が求められている.我々の先行研究では,乗船者の姿勢制御動作が肉体的疲労の原因の一つであるとの仮説を立て,肉体的疲労の指標となるエネルギー消費量と身体の総合的な動きである立位姿勢動揺の関係,姿勢制御時の筋活動の指標となる表面筋電位の解析を行った.これまでに,乗船者は主に下肢を用いた姿勢制御を行い,乗船者の腰部のpitch方向の動揺がエネルギー消費量に影響することが確認された.本研究の目的は,乗船者のエネルギー消費量と身体各部位の筋活動の関係を表面筋電位の計測により解明することである.表面筋電位の計測は,頸部傍脊柱筋,腰部傍脊柱筋,外側広筋,ヒラメ筋の左右8箇所について行った.実験は,小型船舶の乗船者8名を対象に実施した.重回帰分析の結果,腰部傍脊柱筋と体表面積がエネルギー消費量に影響を及ぼす変数として抽出され,偏回帰係数はそれぞれ0.30,0.84,決定係数は0.98となった.本研究により,乗船者のエネルギー消費量と姿勢の維持を司る腰部傍脊柱筋の表面筋電位に相関があることがわかった.エネルギー消費量と下肢の筋肉の表面筋電位に相関がみられなかったのは,生体の姿勢維持の方法に個体差があることが原因と考えられる.今後は,生体の個体差の観点から,乗船者の身体全体の肉体的疲労と部位ごとの疲労の捉え方の検討が必要と考えられる.