2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 461
間葉系幹細胞(MSC)は再生医療製品として臨床応用されている幹細胞の一つである。一方で、プラスチックシャーレなどの硬い基材上でのMSCの長期培養は骨分化方向への不可逆的な偏向をもたらすことが報告されている。このようなMSCの品質変化は培養環境の機械力学特性の履歴が細胞に蓄積することに起因している。細胞外基質のメカノシグナル入力として細胞内張力・核形状が着目されており、細胞外基質の弾性率などの機械力学特性に応じて細胞内張力と核形状が変化することが知られている。したがって、MSCの品質保持培養を行うためには、細胞内張力・核変形の非定常な変動を誘起することで、細胞内への力学履歴の蓄積を回避できる培養方法を開発する必要がある。そこで今回我々は、細胞スケールの硬・軟領域をパターニングした基材を用いて、細胞内張力・核変形の揺らぎを増強する培養法を開発した。実験では三角形状の硬領域が周期的に並んだゲルを作成し、MSCの細胞運動、牽引力、核変形の長時間測定を行った。その結果、三角形パターニングゲルにおいては硬・軟領域間の非定住運動が誘起され、牽引力・核変形ともに揺らぎの大きさが均一ゲルよりも有意に大きくなることが分かった。本研究において、硬・軟領域をまたぐ細胞運動を効率的に誘起する非一様弾性基材を設計することで、細胞内張力・核変形の揺らぎを増強する培養が可能であることを示した。