2022 年 Annual60 巻 Abstract 号 p. 81_1
血液透析では短時間で体内の水分および老廃物が除去されることにより血圧低下や有痛性筋痙攣など透析の中断につながる合併症を引き起こすことがある。重篤な場合には透析中に心血管合併症を発症することもあり、その原因の究明および予防が喫緊の課題となっている。そこで透析患者の全身の循環動態の変化を詳細に検討することを目的として、拡散相関分光法を用いて透析患者4名の血液透析中の下肢前脛骨筋血流を計測した。透析中は筋血流量の計測に加えて15~30分毎に血圧の測定も行い、これらを併せて末梢血管抵抗を算出した。透析中の血圧が開始時点から1割以下の低下でとどまった血圧維持群では、透析の進行とともに下肢筋の血流量が半分程度まで減少し、循環血液量の低下に伴う末梢血管抵抗増加の補償作用により、血圧が維持されていると示唆された。一方で透析中の血圧が透析開始時点から2割以上低下した血圧低下群では、下肢筋の血流量が1.5倍程度増加し、透析治療中に昇圧薬の投与を行っても血圧低下や血流量の増加が改善しない症例も散見された。透析中低血圧を引き起こしやすい患者では、体液量および血圧の低下に対して交感神経性血管収縮が機能せず、むしろ末梢血管抵抗が減少することで動脈血圧が低下すると考えられる。透析中の筋血流計測は透析中に生じる血管調節不全を検出するうえで有用であり、今後、透析中合併症の予測・予防等への応用が期待できる。