生体医工学
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残留応力を考慮した大動脈血管壁の数値モデリング
田村 篤敬松本 昂暉武田 颯希
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2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 136_1

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抄録

生体外に摘出されるなど無負荷状態に置かれた大動脈血管は組織全体が収縮するとともに,微視的には壁内の弾性板がその円周方向に沿って圧縮され,座屈することが知られている.これは壁内の平滑筋層(smooth muscle layer: SML)と弾性板層(elastic lamina: EL)に作用する残留応力ならびに両者の複雑な力学的バランスに起因する現象であると考えられているが,その詳細なメカニズムは未だ明らかでない.そこで本研究では,大動脈血管壁をSMLとELが径方向に沿って交互に積層された層状構造を有するものと仮定し,リング状の有限要素モデルを構築した.なお,本物らしい血管壁挙動を数値モデルで再現するためには,適切な残留応力分布をモデルに導入する必要があることから,最適化計算を併用して入力パラメータの絞り込みと適切な初期条件の設定を行った.その結果,無負荷~加圧時に壁内の応力分布を一様に保つためには,初期のSML厚さを内側から外側に向けて薄くなるようにコントロールするのが有効であることがわかった.これは,実際の高血圧血管内腔面側でSMLが厚くなっている観察結果とも一致しており,血管壁そのものが力学的に合理的な構造となるよう周囲の環境に対して能動的に適応していることを裏付けているものと考えられる.また,このときの壁内応力分布は,内側から外側に向けて右肩上がりの傾向を示しており,径方向に沿って血管を切断するとリングが自然と開くように変形する様子も再現することができた.

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© 2023 社団法人日本生体医工学会
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