2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 139_2
音楽が脳活動へ与える影響は,しばしば医療としても注目されるが,そのメカニズムは明らかにされていない.本研究では,ラットを実験対象として,音楽を提示した時の運動と脳活動を調べた.音楽には,モーツアルト作曲「2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448 (375a)」(テンポは132 BPM) を用いた.その結果,ラットは原曲で最も顕著なビート同期を示すこと,早いテンポではビート同期運動を示さないこと,楽曲中のビート同期運動の変化は,ラットとヒトで似ていることを明らかにした.また,ラットの聴覚野は,モーツアルトの原曲 (132 BPM) に対して,最も明確なビート同期を示した.次に単純なリズミックな音刺激に対する聴覚野の活動も調べたところ,やはり120 BPM付近で最も明確なビート同期を示した.120 BPMへの同期を生むメカニズムとして,脳の順応特性を考え,その数理モデルを作り,実験データの説明をした.ラットの脳活動から推定した順応特性は,120 BPM付近への同期を生むだけでなく,音楽の鑑賞や創作に関連している可能性を示した.これらの結果から,ビート同期を生む脳のダイナミクスは,少なくともげっ歯類の脳からヒトの脳に受け継がれてきたと言える.また逆に,長い年月をかけて,人間社会で発展してきた音楽は,動物種を超えて,脳へ強い訴求力を発揮する可能性も考えられる.したがって,脳のダイナミクスを考慮すれば,音楽は,脳活動を調整するツールとして医療にも利用できると考える.